1



島に着いたのは辺りが暗くなってからだった。帆を畳み、目立たないところに静かに停泊する。まずは数名が偵察と称し、先に船を降りていった。

「偵察って何をしてくるんですか?」
「そうね、まずは無人なのか有人なのか。有人ならどれくらい発展しているのか。他の海賊はいないかとか、海軍がいないかとかも重要ね。島を回ってある程度目星はついてるけど」

確かに停泊前に島の周りを一周回った。
停泊場所を探しているのかと思ったけど、そういう理由もあったのか。

「あと大事なのはログね。どれくらいで貯まるか事前に分かればそれも調査しておくの」
「ログ…?ってなんですか?」
「この海を渡るのに絶対なくてはならないもの」

なんでも、今渡っている海…偉大なる航路グランドラインだとそれぞれの島が発する強い磁気によって通常のコンパスの使用ができない。
が、島々の磁気は互いに引き合っているため今いる島と引き合っている次の島の磁気を記録指針ログポースなる特殊なコンパスに覚えさせる事によって次の島に向かうことができるのだという。
どれくらいの期間で覚えさせられるかは島によって様々。
数時間の場合もあれば、数日かかることも。
風や海流も常に変わっているため、これを無視して進むことは大変に難しく、どんなに早く島を出たくともこの「ログ」が貯まっていない限りはその島から移動できないのだとか。

「…成程」
「んで、それらの情報を得た偵察隊が帰ってきたらみんなで集まって明日以降の全員の動きが決まるのよ」

お店があるような島でありますように、と祈っているイッカクさんに、そうか、たまの上陸で遊べるかどうかもかかっているのか、と気づく。
無人島ならサバイバル的な食糧の調達しか出来無さそうだ。
最も、船を着けるような所もあるわけだしある程度栄えてはいそうだけど…とかなんとか考えているうちに、偵察隊が戻ってきた。
食堂に集まって偵察結果を聞く。
やはり有人で、そこそこ開けた島のようだ。
海軍はおらず、他の海賊も今のところは見当たらない。
ログは2日足らずで貯まるそう。

「船番組と買い出し組、散策組で別れても問題なさそうだな」
「あたし買い出し行きたい!名前ちゃん連れて!」
「珍しいなイッカクが買い出し行きたがるの」
「男共と違ってあたしらレディは色々買わなきゃいけないものがあんの。そのついでに船の買い出しも行っちゃえば早いし、キャプテンにお小遣い貰わないとだし」
「なんで俺がお前に小遣いやるんだ」
「違いますよ名前ちゃんにですよ。名前ちゃん色々買い揃えないといけないから」
「…まあそうだな」
「でもついでにあたしにもくださいね」
「………」

船の買い出ししてくるから〜、とかわいくおねだりするイッカクさんにも動じない先生の表情筋。
結局は折れて与えることになっていたけど。
明日の朝から、イッカクさんとベポさんと一緒に買い出しに行くことになった。

---

翌朝、夜のうちに到着した島にて買い出しに出発した私たち3人。

「ちょっと、あんまりお金掲げながら歩くのやめてよ」
「あ、ごめんなさい」

先ほど先生から持たされた紙幣をしげしげと眺めながら歩いていると、イッカクさんに釘を刺された。
ここでの通貨単位は「ベリー」というらしい。
海外のお金みたいで珍しく、つい眺めてしまいたくなる。
買い出し費用とは別にお小遣いとして札束で渡されたが、海賊業ってそんなに儲かるんだろうか。
…違う、海賊は略奪するんだったわ。

「ひとまず買い出しを済ませちゃいましょう。市場あっち?」
「うん、昨日の偵察隊がここまっすぐ行った辺りにありそうって言ってた」

荷物持ち兼いざという時の用心棒でついてきてくれたベポさん。
すでにちらほらと人目を集めている。
そりゃそうだ、白熊が服着て二足歩行して喋ってるんだから。

「今回買わないといけないのがお米と卵とー…」
「野菜もそろそろだったかも」
「お魚とかもですかね」
「そうねー出掛けにメモ取ってきて良かった。解散して買い集めてまた集まりましょう」

ベポはお米、名前ちゃんは野菜類、とそれぞれ振り分けられる。
ちょうど市場にも到着した。
商人とお客さんとでわいわいとかなり活気がある。

「じゃあまた後で、ここで待ち合わせ」
「はい」
「治安悪くなさそうだし別れるけど…名前、何かあったら叫んでね!」
「分かりました」

各々ばらけて人混みへと消えていく。
野菜類か…八百屋さんみたいなのがあればと思うけど…あった。

「すみません。このメモのもの全て欲しいんですけど」
「いらっしゃい!おやお姉ちゃん可愛いね!サービスしちゃう」
「え、わ、こんなに持ちきれないですよ」
「大丈夫大丈夫!代車貸してあげるよ」

店主のおじさんの気前が良すぎる。
メモにあるものもないものも、次々と付け足してくれた。

「これね、この島特産の野菜!野菜炒めにしてもスープにしても、何しても旨いから!ぜひ食べて!」
「わ、と」

貸し出された台車ですら既にぎりぎりの状態だと言うのに、上から更に特産だという葉野菜が積み上げられる。

「ありがとうございます、」
「気をつけてな!」

気をつけてちゃうねん。
とりあえず八百屋前からは離れたけど…あんまり無闇に動くと絶対に崩れるこれは。
どうしようか…試しに少し押してみるが、ぐらりと大きく揺れて慌てて止めた。

「わー名前大丈夫!?持つよ!」
「ベポさん…?」

途方に暮れていると道の向こうからベポさんがやってきた。
元の世界では見たことないサイズの米俵を両脇に2つずつ提げている。さすがの熊の腕力…

「そうそう!お米すぐ買えたから名前手伝おうと思って八百屋来たら正解だったよ」
「わーんありがとうございます」
「すごいねこれ、そんなに安かったの?別に買い出し費用使い切らなくてもいいんだよ?」
「いえ、店主のおじさんがすごく気前が良くて…色々サービスしてくれたんです」
「成程ね…」

2人で代車を挟んでカニ歩きでゆっくり歩き、運ぶ。
集合地点でイッカクさんを待っていると、向こうの方からやってきた。
近づくにつれだんだん引いた顔になっているのがよく分かる。
そんな顔しないでほしい。

「何その野菜の量」
「お店の人が沢山サービスしてくれたんだって」
「すんごいな…まあでもよくやった。この量なら先に船に置いて来ちゃいましょうか。プライベートの買い物するにしても何も持てないもの」
「そうですね、一旦戻りましょう」

3人並んで船に戻り、食堂につながる食糧庫に買ってきたものたちを収納。

「さ、メインイベント」
「おれ着いてかないとダメ?」
「当たり前!荷物持ちしてよね」
「え〜イッカク買い物長いんだもん」

文句言いながらも着いてきてくれるベポさんは本当に優しい。
というか、しょっちゅう荷物持ちさせられてるのね…

「よし、まずは服から狩るよ!」

お目目キラキラのイッカクさんはきっと誰にも止められない。
狩るとか言ってるけどせめてお金は払うよね?
払ってくれ頼むからと祈る私とベポさんは引き摺られるようにして再度町へ入った。

---