「よーし満足満足」
どさ、と沢山の袋を甲板に下ろす。
「なんか私の買い物みたいになっちゃったけど名前ちゃん欲しいもの買えた?」
「はい、ばっちりです。ありがとうございます」
隣ではベポさんが完全にダウンしているので、隣にしゃがんでそっと手を伸ばして頭に触れた。
あれから数時間、途中で休憩を挟みつつも買い物が終了したのは日が傾いてからだった。
イッカクさんは可愛い服屋さんを巡っていたが、私的にはまだまだ揃えないといけないものだらけで服どころではなかったのが少し残念。
自分用の医学者も欲しかったので本屋にも行ったし、何より買わなくてはいけなかった眼鏡も買えた。
「可愛いランジェリーショップもあって良かったね」
イッカクさんの言うように、下着にもそろそろ困っていたからそれも買えたのが助かった。
イッカクさんにいただいたものは使えない事はないがやっぱり少し大きかったから。
にしても試着の時に堂々とカーテン開けて見せてくるのには驚いたけど…ベポさんもいるのに(ただ彼も彼で普通に似合うか似合わないかのコメントをしていた。熊だから?)。
「部屋まで持っていくか…おーいベポ、伸びてないで手伝ってよ」
ベポさんをゆさゆさ揺すって起こそうとしているイッカクさんを残し、私は私で部屋に荷物を置きに行く。
途中で先生とすれ違った。
「必要なもんは買えたか」
「はい、あのお金ありがとうございました。余った分お返しします」
「いい。今後上陸した先々でまたどうせ必要になる」
暫く入り用だろ、と視線だけ寄越す彼からはお父さんみすら感じる。
「えー…いや、はい、じゃあいただきます。ありがとうございます。先生は街に行かれないんですか?」
「さっきふらっと行ってきたが、どうせ夜には街の酒場で飲み会することになるから一旦戻ってきた」
「飲み会…」
「呑んでもいいが呑みすぎるなよ」
医者の顔の方で忠告してくる先生。何度も言わなくても分かってるってば。
「了解しました。ではまた後で」
会釈して部屋に入る。と、1つ思い出した。
部屋の引っ越しとか聞くの忘れちゃった。
まあいつでも聞けるしとりあえずいいかな。
買ってきたものを整理していると、ノックの音が聞こえた。
「はーい」
「開けても良いか?」
ペンギンさんの声だ。
こちらからドアを開ける。
「どうしました?」
「街で呑もうぜってなってるから誘いに来たんだけど出れる?」
先生の予想通り、やっぱり街飲みをするらしい。
「出れます!」
「もう酒呑んで良いんだよな?」
「さっき呑みすぎるなと釘を刺されたんで呑みすぎなければオッケーです」
「よし!じゃあ行くか」
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みんなで船を出て向かった先は、昼間も前を通りがかった大衆居酒屋のような大きなお店だった。
中へ入ると、まだ宵の口だというのに結構な盛況。
見るからに一般人ではなさそうな雰囲気を醸し出した男がイカつめの集団(+α)を引き連れて突如として現れたことにより、一旦はお店の中が水を打ったようになったが、それぞれ空いている席にバラけて注文を始めたことによってなんだただの客か、とまた店内が騒がしくなっていく。
私の席は強制的に先生の隣だった。監視のためか、畜生。
「「「かんぱーい!」」」
そこかしこでがちゃん、とジョッキやグラスがぶつかる音。
わいわいがやがや、自分達のテーブル以外からも沢山の楽しそうな話し声や笑い声が聞こえてくる。
あーそうそうこれだよこれ。外で呑むってこれが楽しいんだよね。
久しぶりの感覚に感動すら覚える。
どんどん運ばれてくるお酒と料理に、顔も綻んでいく。
まだ乾杯時のひとくちしか飲んでいないのに楽しくてしょうがない。
「名前楽しそう!」
「まだなーんにもしてないのに飲み会ってだけで楽しいですね…」
向かいに座ったベポさんがにこにこ笑う。
さらにその隣のシャチさんペンギンさんはどちらかと言うとデレっとしている。
なんだか恥ずかしくていたたまれず、グラスの中身を呷った。
ビールのような発泡酒。これ美味しいなぁ。
ただ生粋の呑兵衛の勘としてあまり一気に沢山呑むと潰れる予感がする。
気をつけないと。
「名前ちゃん結構呑むの?」
「はい、お酒好きですよ。強い方だし結構なんでもいけます」
「お、言ったな?」
ニヤリと笑ったペンギンさんが、手にした瓶を空になった私のグラス目掛けて傾ける。
慌ててグラスを持ち上げると、注がれたのは綺麗な空色。
「わ、綺麗ですね」
「見た目はな。
「すぐ酔える…」
見るからにすいすいいけそうな見た目に、口当たりの軽そうな香りがするがアルコール度数が高いということか。
如何にもレディキラーなんかに使われそう。
いただきます、と口をつけようとするとグラスが取り上げられた。
…既視感がすごい。
取り上げた犯人を恨めしげに見上げる。
呑んでいいって言ったじゃん。
「…先生」
「これは空きっ腹に入れるな。なんか食ってからにしろ」
「はーい…」
「お前らも人にばっか勧めてねえで呑め」
「だって女の子が酔っ払ってにこにこへらへらぐでぐでしてるのかわいいじゃないっすか!折角そんな子が目の前にいるのに!」
「そうだそうだ見たくないんすか!?名前ちゃんのそんな姿!」
「はっ倒すぞ」
憎々しげにそう言い放った先生は、例の空色のお酒を呷る。
空きっ腹に入れちゃいけないんだぞ。
運ばれてきていた料理をいくつかつまみ、私もようやく空色にありつけた。
後味爽やかで、ほんのり甘くて。淡麗辛口の日本酒のような味だ。
たしかにこれはめちゃくちゃに美味しい。し、確かにキく。
「…っこれ美味しいです…!」
「気に入ったか」
「はい呑んだ呑んだ!」
「いただきます!」
「おい」
グラスを持つ手を掴まれる。
掴んだ相手は言わずもがな。
そちらにゆっくりと向き直る。
「呑みすぎるなとー…」
小言を言う先生の顔を見つめ、せんせい、と呟いたのちに徐々に顔と顔の距離を縮めていく。
それに気付いた先生は文句を止め、周囲は乙女のようなポーズで息を呑んでいる。
恐らくここにいる誰もが酒の力か何かで急激に甘い空気になったと感じているだろう。
ただ私は何がしたいわけではない、酒が呑みたいのだ。
急に高アルコールの液体を摂取したお陰か、いい感じに頰が上気している、気がする。
顔には出ないタチだった筈だが、今だけナイスタイミングだ。
やがてソファの上に膝立ちになり、充分すぎるほど近づいたところで漸く先生の手の力が緩んだ、のを感じ取った途端に顔を見つめたままグラスを反対の手に持ち替えて一気した。
「っ、てめ、」
「大丈夫です、散々吐くまで呑んでるんで自分の限界くらい分かってます」
「つまり吐くまで呑むつも…ハァ、もういい。せめてゆっくり呑め」
「わーい」
元の場所に座り直し、呆けた顔のペンギンさんから酒瓶を抜き取って手酌でまた呑んだ。
「…うわっ、何もう今のなんのやつなわけ」
「いやおれもう絶対ちゅーするかと…名前ちゃんったらもう…あんなほっぺ赤くして…エッやだ!積極的!」
「シャチさんキャラ変わってますよ」
このタイミングでちゅーなんかするはずないでしょうが。
その後も散々飲んで喋って笑って、気がつけばもうすっかりいい時間。
空いた瓶が何本も目の前に転がっている。
ベポさんはぷかぷか鼻提灯を膨らませているし、シャチさんとペンギンさんは何かについて熱い語り合いを繰り広げている。
見渡せばうちのクルーも一般のお客さんも関係なくみんな結構な深さで酔っている。
かくいう私もそれなりにいい気分だ。まだ全然いけるけど。
「ちょっとお手洗い行ってきます」
同じくらいのペースで呑んでいる様子なのに顔色ひとつ変わっていない先生に声をかけて席を立つ。
歩きながらバラけた皆さんのテーブルを声をかけずに伺い回る。
グロッキーになってたら大変、と思ったがそういう意味ではみんな平気そうだ。
ただ…どのテーブルにも知らないお姉さんがついている。
ところどころいない人たちは…まあそういうことだよねきっと。
いや、折角の陸なわけだし通常そういうものなのであろう、否定する気はないが色々といつの間に、という純粋な驚きはある。
その手の職業の人たちなりにうまく懐柔して入り込む技があるんだ、よく知らないけど。すんごいな。
イッカクさんのいるテーブルには比較的少ないが、むしろあの人もっとやらせたがるタイプだろうしお姉さんたちもあんまり気にしなさそう。
そう言えば船を出る前にも出航前には集合、という曖昧な感じだったのを思い出した。
…まあやっぱりそういうことよね。
言及はしません、大人なので。
何か一言求められるならば…いろんな予防はしっかりね、くらいだろうか。