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翌日。出港予定は今日の夕方以降、ログが貯まり次第。
今日は昨日買ってきた医学書を使って勉強をしようと思っていたのだけど。

「…名前ちゃん」
「ペンギンさんもですか…」

読書の手を止めてため息混じりに声に応える。
これで4人目だ。何がかというと。

「頭痛い…」
「飲み過ぎです」

二日酔い相談である。
お酒を飲む時はお酒1に対して水を2くらいのつもりで飲まないと。
というか、私1人じゃ薬も出してあげられないのに何故私のところに来るのか。

「なんで先生のところ直接行かないんですか。そっちの方が早いのに」
「今まで二日酔いの度に頼りすぎてもう飲み会翌日の体調不良は診てくれなくて…」

自業自得じゃねーか。

「とにかくたくさんお水飲んで横になっててください。お薬は私からは出せないしそもそも持ってないので欲しいならお説教覚悟で先生のとこに」

この説明も4回目である。

「うーい…」
「恐らく今日の夜出港になると思いますし、今日はフラフラしてちゃダメですよ。ちゃんと休んでくださいね」

部屋を出ていくペンギンさんの背中にそう声をかければ、背中を丸めてのろのろ歩く彼の手が返事をする。
一応先生に報告しておくか…沢山いるし…
そのままその足で隣の部屋をノックする。

「先生、今お時間いいですか」
「なんだ」

扉を開けて中を覗く。

「あのですね…さっきまでで4件二日酔いの相談が来てまして…」
「あいつら…」

深いため息と共に眉間に大きな皺が寄る。

「とりあえず水飲んで寝ろって言ってあります。歩けないほどじゃ無さそうでしたし、出港までには良くなるといいんですけど」
「どいつだ」
「それはちょっと…個人情報保護の観点から黙秘という事で…」
「個人情報もクソもあるか。翌日の世話もてめえでできねェガキが酒なんて飲むんじゃねェ」
「私に言われても」
「言え。誰だ」
「そ、そんな凄んだって言わないですよ」

顔怖。子どもが見たら泣くよ。

「チッ」

私からは聞き出せないと分かったのか、椅子から立ちあがり何処かに行こうとする先生。

「どこへ」
「水飲んで寝てるんだろ。部屋まで行きゃ自ずとわかる」
「え、ちょ」

ばたん。鼻先で閉められる扉。
…ごめんみんな。
ややあって4つの悲鳴が艦内に響き渡った。

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「「「大変申し訳ございませんでした」」」

夜ご飯を食べようと食堂の扉を開けると、すぐ目の前で土下座している例の4人。
もれなく全員立派なたんこぶを作り、奥で先生がご飯を食べていた。

「いいですよ別に」

私何にもしてないし、先生にはもう絞られたっぽいし。
たかだか二日酔いをこれ以上責めたら流石に可哀想だ。
4人の前にしゃがみ込んでそう言えば、ゆっくりと頭が上がる。

「今後はちゃんと自己管理してくださいね」
「…名前ちゃんは本当に天使だなあ…」
「普通のことですよ」
「いや普段の扱われ方から比べてもありがたすぎる!」
「そう考えるとキャプテンってマジで鬼なんだな」
「聞こえますよ」
「聞こえてんぞ」

もう一個瘤を増やしたいか。
凶悪な笑みを浮かべながら私の隣までやってきた先生に、4人の頭は床に刺さる勢いで再び垂れた。

「甘やかすな。どうせ守りゃしねェ」
「先生がそうやってすぐ怖いこと言うからですよ。医療者はもっと愛を持ってですね」
「充分持ってるだろ」
「愛の方向性が違うんですもん」

先生と言い合っていると、頭を下げたままの4人から「いけ!」「もっと言ってやれ!」と茶々が入る。
間髪入れずに先生の拳が飛び、宣言通りちゃんと瘤が増えた。
…冷やす準備してあげるか。
冷凍庫から氷を出して氷嚢を作っていると、

「名前ちゃん」

たんこぶを手で押さえた4人がとぼとぼやってきた。

「はいこれ。ちゃんと冷やしてください」
「…やっぱりおれたちには名前ちゃんしかいねえ…」
「んな大袈裟な」
「そんな名前ちゃんにお願いがあるんだが」
「…なんです?」

「お願い」と言う単語に微妙に不穏なものを感じる。
事によっては私も今後先生側につく事になるが分かってるんだろうな。
1人がなにやらゴソゴソし始めたかと思いきや、ラッピングされた袋が差し出される。
…何これ?

「街で制服買ってみたんだよ」
「制服?」
「おれらのツナギ的な…名前ちゃんそういうのまだないだろ?」
「そうですねたしかに」

ツナギはイッカクさんのお古を持っているが、看護師としての制服はないし、
ここに来た時に着ていたスクラブにはなんとなくあれ以降袖を通していない。
今は日々イッカクさんから頂いたものの中からあまり派手ではないものを選んで着回している。

「看護師としての正装っていうかさ…そういうの欲しいかなと思って。良かったら受け取って欲しい」
「そんなわざわざ…ありがとうございます。ありがたくいただきます」

なんか一瞬警戒しちゃって悪かったな、と思いながら受け取った途端にずい、と詰め寄ってくる4人。

「じゃあさ!今着てみて欲しいんだけど!」
「え、い、今ですか?」
「今!風呂場とかで着替えてきて!」

なんで今。お腹空いたんだけど…
結局勢いに勝てず、お風呂の脱衣所で着替えてお披露目することになった。
ただの制服のお披露目、あんなに必死になってお願いするようなことだろうか。
一度は過ぎ去った不安を再び感じながら包みを開く。

「…これは、」

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