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航海を再開した私たちハートの海賊団。
次の島へは結構かかるようで、しばらくは潜水艦暮らし。
目的地は、
「シャボンディ諸島?」
「そう」
航海中ある日のお風呂の掃除当番で一緒になったシャチさん。
床をデッキブラシで擦りながら質問をする。
「諸島ってことは…いくつか島が連なってるんですか?」
「島が連なってるっていうか…でっかい木がたくさんくっついて出来てるひとつの島だな。木ひとつひとつが小さな島になってるから、それで"諸島"」
「成程」
水をバケツに汲んでざばぁ、と一気に床の泡を流す。
よし、綺麗になった。次は鏡でも磨こう。
「なんでもキャプテンが用があるみたいでな。どっちにしろ"新世界"に入るのに通らなきゃいけない島ではあるけど」
「…?ほー…」
「あ、分かってねえなこれ」
逆に今の言葉だけで分かることある?
先生の用事を済ませつつ、シンセカイなる場所に入る為に行くってことか?
シンセカイって何?
私は関西にある新世界しか知らない。
「シンセカイって何です?」
「グランドライン後半の海のことをそう呼ぶんだ。グランドラインってのはこう…世界を一周ぐるっと回ってるんだが、垂直方向にでっけえ大陸に分断されてる。それの向こう側のことだ。今いるのはこっち側、グランドライン前半」
シャチさんは若干曇った鏡に指で図を描きながら説明してくれる。
「これ向こう側に行かないといけないんですか?」
「行かないといけないっつーか…向こう側に行ってこれを一周回るのが俺らの目的なんだけど」
…そうだったのか。航海目的を今更知った。
「目的ってワンピースを手に入れることじゃないんですか?」
「…ほぼ同義だよ。一周回った先には、ワンピースが眠っているとされる最終地点の島がある。そこにたどり着けた者がこの海の覇者になれるんだ」
隣で静かに掃除していたウニさんが口を開く。
今まであまり会話をしたことがなかっただけに、混ざってきたのには少し驚いた。
「そうなんですね。すみません無知で」
「新世界は今までと違って更に過酷な航海になる。前半の海を恋しく思うほどに。だから、降りるなら今のうちだよ」
突き出された突然の選択肢に、言葉を失う。
手を止めてウニさんを振り返るが、ウニさんはそのまま鏡を磨き続けていた。
「え、と」
「君は、本当に僕らについて来れるの?」
「おいウニ、」
「本当のことだろ。僕だけじゃない、他にも疑問に思ってるやつはいる」
シャチさんが咎めるような声を上げてくれるがウニさんはどこ吹く風。
たしかに、それはそうだろう。
言っていることは至極道理が通っている。
ある日突然現れて得体が知れない上に、戦えもしないのに急に仲間となった。
有難いことに受け入れてくれる人が大半ではあるが、何故と思う人がいてもなんらおかしくはない。
本来無条件で受け入れろという方が難しいだろう。でも。
「…大丈夫です」
「なにが」
「私は一度死んでるので」
本当ならあの日あの瞬間に私は死んでいたはずなのだ。
それが何の因果かこの世界と繋がって、先生に出会い、命を拾い上げてもらった。
ならその命は先生の為、ひいてはこの海賊団の為に捧げるのが道理ではなかろうか。
はじめこそ混乱し、どうしていったら良いのか分からずひどく狼狽していたが、最近はそう思うようになっていた。
「いついかなる時でも、先生の為、この船の為命を捨てる覚悟は出来ていますから」
私の口からは随分と自然にその言葉が出てきた。
今後は、今までいた世界よりも輪をかけて日々命の危機に晒されることだろう。
勿論死ぬことは怖いけれど、この世界でたった1人生き永らえるくらいなら恩人に尽くして短く散らす命もいいのかもしれない。
私はもう迷わない。
「…ならいいんだ」
ウニさんは小さく笑った気がした。
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お風呂掃除を終え、その足でトイレ掃除も熟して一度部屋に戻る。
イッカクさんにお風呂のお誘いを受けていたのだ。
準備を整えて女子部屋に向かう。
トントントン
「イッカクさーん」
扉が開き、イッカクさんの顔が覗く。
「お待たせしました」
「いーえ。ちょっと待ってすぐ出るわ」
いったん引っ込み、着替えが入った袋を持って再度出てきた。
2人並んでお風呂に向かう。
「こんくらいの時間が結構狙い目なの」
「ちょっと早いですもんね」
到着したお風呂の扉を開く、と。
「「…」」
「あれ、名前たちもお風呂?」
「「いやーん」」
呑気に手を振る上裸のベポさん(若干しっとり)と、わざとらしく体を隠そうとくねくねする上裸のシャチさんペンギンさん。
さっきのイッカクさんの言葉は丁寧にフラグを立てていたようだ。
突然のことに固まる私に対して、イッカクさんを含むみんなは微塵も動揺を見せない。
「そう。早く出てってよね」
「ちょっと待てよ今出たばっかだぞ」
「そうだそうだ!着替えくらいゆっくりさせろ!」
着替えは早くしてくれ。
「みんなが来る前に先に済ませちゃおうと思ったのに。あんたたちだけ?中誰もいない?」
「まだキャプテンが入ってるよ」
「だーもう!仲良しかよ!」
プンスカしながら地団駄を踏むイッカクさん。
仲良しかよ、は本当そう。
仲良しだなあとは思っていたけど、お風呂まで一緒に入ってるとは…
「待って名前ちゃん、何その目!?」
「いや別に…仲良しで…仲良しだなって」
「しょっちゅう一緒に入ってるわけじゃねーよ!?」
「そうそう今日はたまたまだな…」
「分かったんで先服着てください。風邪引きますよ」
「キャプテーン!早くしてください後詰まってます!」
「え、ちょイッカクさん出直しません?」
「いや、戻るの面倒だからとっとと出す」
そんな横暴な。
イッカクさんが隣で声を張り上げて先生を急かす中、ベポさんがタオルを肩にかけたままお風呂場を出て行こうとする。
「ベポさんちゃんと乾かさないと」
「えーだって全身毛で面倒なんだもん。ドライヤーは熱いし、ほっとけば乾くし」
「いやいや潜水艦風通し悪いんだから半端だと良くないですよ」
これ幸いとタオルを受け取ってベポさんの毛を拭く。
視線ずらせてちょうど良かった。
いや別にきゃー!はずかしい!とは思わないけどだからと言ってあんまりジロジロ見るものでもないし…
腕から背中から、わしわし拭いていると背後から影が差す。
不思議に思って振り返ると、上裸の先生がそこにいた。