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「………」
「何やってる」
全くもってこちらの台詞である。
何故揃いも揃って服を着ない。
びっしりと刺青の入った鍛え抜かれた体を、目の前に突如突きつけられた側の気持ちにもなってほしい。
こちとら最近は控えめな理系男子(一般人)としか関わりがなかったのだ。
理系男子海賊バージョンの気持ちは分からない。
これは何と返すのが正解か。
「名前ちゃん早くー?」
「呼んでるぞ」
「…オフロイタダキマスネ」
呼んでるぞじゃねーよ。
ベポさんにタオルを返して脱衣所に戻り、扉を閉めて振り返る。
「…待ってなんでもう脱いでんですか」
「え?お風呂入るから」
「今扉開きっぱなしでしたよ!?」
「いいのいいのそういうもんだよ。さ、入るよー」
私がおかしいのか、この状況。
意識しすぎるのもやりづらいだろうことは想像できるけど、なんかお互いにもうちょっと…もうちょっとなんかないわけ!?
あっけらかんとそう言い放って一糸纏わぬ姿でお風呂場へ向かうイッカクさん。
…もう何でもいいや。
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「…ふぅ」
せっかく一緒に入るんだし、と体を洗いながらお湯を溜めた浴槽に、ゆっくり肩まで浸かる。
お湯に浸かったの久しぶりだー…全身の力が抜けていく。
「そうだ、イッカクさんも刺青入ってるんですね」
「そうそう」
隣で同じくのんびりしているイッカクさんに声をかける。
彼女の刺青には背中の流しっこをしている時に気がついた。
右の肩甲骨から上腕にかけて、流線型の模様とイッカクがデザインされている。
「女が刺青なんか入れんなってめちゃめちゃ渋られたけどね。みんな入れてるんだもん入れたくなるじゃん」
そう言われてみればさっきシャチさんとペンギンさんにもそれぞれ墨が入っていた。
ベポさんには流石に入っていなかったけど。
「誰が入れるんですか?上手な方いるんですね」
「キャプテン」
多才が過ぎるな。
「え、じゃああれ自分で入れたんですか」
「いや、本人のは別の人に入れてもらったみたい。でもクルーはみんなキャプテンに入れてもらってるよ。刺青だけじゃなくてピアスとかもさ、セルフよりは医者が身近にいるなら開けてもらった方が早いからお願いしたりするの。名前ちゃん興味ないの?」
「刺青かー…痛いですよね絶対」
「違う違うピアス。刺青入れてなんて言っても絶対名前ちゃんには入れてくんないから」
開いてないよね、とイッカクさんの顔が耳に近付く。
ピアスは開けるタイミングを失って結局一度も開けていない。
学生時代は実習の関係でなかなか開けられず、職場は透ピ含む全てのアクセサリー禁止だったし…イヤリングで充分だったからここ最近はピアス開けようと思ったこともなかった。
わざわざ無理に時間作って痛い思いしてまで…という気持ちも若干あったのもある。
「イッカクさんは開いてます?」
「うん。そんなに沢山は開いてないけど。左右のロブに1個ずつと左のインダストリアル」
「おぉ…痛くないんですか」
「今はぜーんぜん。インダス開けた時は熱出したけど」
からからと笑っているが笑い事ではない。…そうかピアスか…
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その日の夜。
ポーラータング号艦内廊下を鼻歌を歌いながら歩く男がいた。
キャスケットを被り、サングラスをかけたその男の名はシャチ。
向かう先は船長室。船長であるローのもとに野暮用であった。
目的地に到着し、ノックをしようと手を上げるが、寸でのところで動きを止めた。
…部屋の中から何やら争うような声が聞こえてきたからだ。
この部屋の主であるローと……名前…?
途端に聞き耳モードに入るシャチ。
名前とは、ここ最近電撃加入した白衣の天使基、看護師のことだ。
経緯はよく分からないが何やらこの船とは不思議な出会い方をしており、それならさぞや不便や不安が多かろうと自身も何かと気にかけていた存在であった。
ただかわいくてスタイルが良いからあわよくばお近づきになりたいとか、そういうのは全然ないのである。
そう、全然。ないったらない。
だがしかし、看護師ということは医者はつきもの。
うちの医者は船長であるローだ。
名前を引き入れたのもロー本人であり、現に元来あまり他人に興味を示さない性格のローも名前の世話をわりと焼いてやっている方だと思う。
名前も名前でローにはなんだかんだ忠誠を尽くしているような節があるためそこの信頼関係は心配していなかったのだが、揉めるようなことがあったのだろうか?
扉越しにそっと耳を欹てる。
「…や、…ぱり無…そん…ませ…」
「おま…やりて…いっ…ろうが」
…?声が遠くて聞き取りづらい。ぐっとさらに耳を押し付けた。
「無理…そんな太…はいら…!」
「いれな…またい…や…なお…」
なんということだ…
扉からふらりと離れ、大きな声と鼻血が出そうになるのを必死に堪える。
そんな太いの入らない!?
入れなきゃ跨いでやり直し、いやヤり直しだとぉぉぉぉ!!?
そんなまさか、とは思うが先日の街飲みで一瞬巻き起こったあのピンクな雰囲気からしても可能性としては決してゼロではない。
そもそも若い男女が近しい存在になれば起こる事象はただ一つ…
「ほん…ってくださ…うに」
「りきみ…だ…と楽に…」
「無理…まってる…す…こん…まよう…な太…入れ…て」
「おま…いかげ…ろよ」
「ちょ…ってまっ…!」
「かく…めろ」
ちょっと待ってどうしよう、おれは一体どうしたらいい!?
シャチは1人悶々と考える。
いまいちうまく聞き取れきれないが内容は明白で。
2人のプライバシーや尊厳のことを考えれば、間違いなくこれ以上は聞かないほうがいい。
し、もう既に明日以降どんな顔で2人に会えば良いかもわからない。
それは分かっている。
だが聞き耳を立てるのをやめられない野次馬根性。
どちらを優先すべきか、変わらず耳を扉に押し付けたまま固まっていると不意にシャチの肩に手が置かれた。
「っぅわあっ!!?」
「うわっなんだよ!?」
「おっ前マジで驚かせんな!!」
堪らず大声を上げて振り返ると、そこにいたのは同じくローに用事がありここまで出向いてきたペンギンだった。