「何してんのお前こんなとこで」
「ちょ、シッ!静かに!」
「用事あるって言ってたけど済んだのか?」
「済ませられるわけねーだろこんなタイミングで!ちょっ、船長室入ろうとすんなやめろ!」
シャチは最初にこそ叫んだが、その後努めて声のボリュームを落としていてペンギンはそのことにも首を傾げる。
「なんでそんな小声なんだよ」
「だから今中でキャプテンと名前ちゃんがー…」
シャチの言葉はそこで止まる。
次いでダラダラと滝のように冷や汗を流し始めた。
理由はといえば、ひとつしかない。
「…人の部屋の前で随分と楽しそうだな」
冷ややかな声に背筋が伸びる。
船長室の扉が開き、部屋の主がその凶悪な顔を覗かせていた。
青を通り越して白い顔をするシャチを見やり、開けた扉の枠に体をもたれ掛け、腕と足を組んで恐ろしい顔で笑っているロー。
「順に聞こうか。シャチ、
「何の用だ」、ではないということはつまり、ここでこそこそと聞き耳を立てていたことはお見通しなわけで。
「い、いや、別に何も?」
「めちゃめちゃ声裏返ってんぞ。マジでどうしたシャチ」
言えるはずがない。
我らがキャプテンのトラファルガー・ローと可愛い新入りナースの名前が仲良く(意味深)してるのを盗み聞きしてましたなんて、ペンギン相手ならともかく当の本人に言ったが最後、彼の能力でバラされて食堂か何処かに磔の刑だ。
いや、能力を使ってくれればまだマシで、そのままマジでバラされるなんてことも…
シャチの冷や汗は止まらない。
「だ、だって…」
「だって、なんだ」
「…だってキャプテンが悪いんすよぉ!」
「は?」
ローの額に青筋が浮かぶ。
白状するかと思いきや、まさかの開き直りの逆ギレだ。
「おれの何が悪いんだ言ってみろ」
「だってキャプテンが名前ちゃんとにゃんにゃんしてるからぁ!!」
「…は?」
「え、何それ詳しく」
本気で困惑し、ハテナを飛ばしまくるローと対照的に、興味津々にシャチに詰め寄るペンギン。
当のシャチは若干の混乱も混じり最早落涙一歩手前だ。
「…ちょっと待て誰が誰と何してるって?」
「何ってかナニ?」
「やかましい引っ込んでろペンギン」
「お、おれも用があってきたのに…ノックしようとしたら中からキャプテンと名前ちゃんの声で…そんなの太くて入らないとか!入らないなら跨いでやり直しとか!細切れに聞こえてくるんだもん!」
そんなのヤバいと思うだろ!?
聞き耳立てるよな!?
いやそれは聞き耳立てる!
何やってんすかキャプテン!
必死で盗み聞きを正当化しようとするシャチに乗っかり、ペンギンまでも囃し立てる。
「…“ROOM”」
「ぎゃあっ待ってキャプテン!お願い話を聞いて!ていうか説明して!」
「そうだそうだ説明しろキャプテン!」
「折角綺麗にくっつけてやった腕もっかい飛ばすかペンギン」
「それは勘弁!」
ぎゃあぎゃあと部屋の前で暴れ騒いで、ローが部屋を出て行ってから全て丸聞こえだった名前がようやっと部屋を出れたのは、シャチがローの手によって某エグ◯ディア状態にされてからであった。
「あ!名前ちゃん!」
「名前ちゃん説明求む!」
「ぜんっ……ぶ、聞こえてたんですけど…?」
名前の顔は真っ赤に染まり上がっていた。
「中途半端に盗み聞きして憶測立てるのやめてください!私と先生はそんな関係じゃないです!」
「体から始まる関係ってあるよな」
「ペンギン」
くい、とローが某エグゾ◯ィアを親指で指す。言わずもがな、それ以上口を開いたらどうなるか分かるよな?の合図である。無言でペンギンは首を横に振った。
「じ、じゃあ何してたんだよ一体!聞いてる限りは完全にアレしか無かったぞ!?」
「ピアス!開けてもらってたんです!」
「…は、」
よく見れば赤面して声を荒げる名前の両耳たぶには、ファーストピアスと思わしき小さなブラックストーンのピアスが光っている。
「イッカクさんが先生にピアス開けてもらったらって…せっかくだからロブだけじゃなくてヘリックスも開けてもらおうと思ったら軟骨用のファーストピアスもニードルも尋常じゃなく太くて…!」
「あ、あぁぁ…」
シャチはようやく全てを理解する。
俺が聞いた「そんな太いの」とは、キャプテンのキャプテンのことではなくファーストピアスのことで…
兎にも角にも、キャプテンと名前のそういう行為はなかったということらしい。
「なんか…おれもうすごい脱力してる今」
「そのまま海に沈めてやろうか」
「やっぱりヘリックスは後日にしますこんな感じだし…ベポさんも呼んで抱き締めててもらうことにする」
「え、ずる」
何も無かったのは良かったが、それはそれでずるい。
その後シャチは、自身の予想通り翌朝ローが目覚めてくるまで食堂に磔の刑に処されたのであった。
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「べ、ベポさんお願いそのまま!抱き締めてて!」
「え、え、いいのほんとに?ぎゅってするよ?」
「お願いしますもふもふに包まれてないと無理!」
「そんなに怖いなら開けなくてもいいだろ…」
「開けるのは開けたいんです。お願いします一息に!あ、カウントダウンしてくださいね怖いんで」
「…3」ぶすり。
「ーーーーっっ!!!」
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先日私が酒の勢いでヘリックスとインダストリアル開けたので(笑)記憶が新しいうちにネタにしました。彼は医者だしニードル使用にしましたが、ピアッサーで開けた身としてはまじで開けてから1週間はふとした時に地獄が訪れ続けました…軟骨対応のファーストピアス、マジで太さが爪楊枝。ちなみにキャプテンとお揃い(はぁと)の気持ちでロブも1つずつ増やしたんですがファーストピアスを外さざるを得ない状況に陥って外したら秒でいなくなりました。また後日開けます。
以下蛇足ですがシャチが盗み聞きしていた会話全文です。
「やっぱり無理ですそんなのできません」
「お前がやりてえって言ってきたんだろうが」
「無理無理そんな太いの入らないです!」
「入れなきゃまた痛ぇ思いしてやり直しなだけだ」
「本当に待ってください本当に…」
「力みすぎだもっと楽にしろ」
「無理に決まってるじゃないですかこんな爪楊枝みたいな太さのもの入れるなんて!」
「お前良い加減にしろよ」
「ちょっと待って待って待って!」
「…覚悟決めろ」
でした。盗み聞きじゃなくても結構際どい会話ですね。シャチが「跨いで」と聞き間違えたのは「また痛ぇ思いして」の頭部分の「またい」でした。