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ぽわん、ぽわん。
えらく非現実的で幻想的な景色が目の前に広がる。綺麗だな…
「行くぞ」
先生やみんなに合わせて後ろをついていく。
1週間と少しの航海を経て、次の目的地として聞かされていたシャボンディ諸島に到着した。
シャボンディなんて名前だから、シャボン玉が何か関係しているのかと予想はしていたがまさか地面からシャボン玉が出てくる島だったとは。
樹から分泌されている樹脂が樹の呼吸によって丸く膨らみ、無数のシャボン玉を作り上げているのだという。
このシャボン玉は綺麗な景色を作り上げるだけではなく、乗り物や建物に使用されたり、船を丸ごと包み込むことで通常の帆船でも海中航海を可能にしたりと様々な用途で活用されているそう。
こっちに来てからというもの、今のところ驚かない日がない。
毎日毎日驚かされてばかりだ。
ついキョロキョロ見渡しながら歩いてしまう。
「名前楽しい?」
「すごく綺麗な景色ですね…驚いてます」
「逸れるといけないしおれと手繋ごう!」
この歳になって迷子防止目的で手を繋ぐのは少し、いや結構気恥ずかしいが…差し出された白くてふわふわな手を握る。
「あ、ずりぃベポ」
「兄貴分のおれがしっかりしないとね!」
ぎゅ、と優しく握り返された手のひらに、先生から聞いたこの島での注意事項を脳内で反芻していた。
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到着直前、先生が部屋までやってきた。
「あれ、どうしました?」
「シャボンディ諸島での行動を伝えにきた。あそこで自由行動は認めねェ。おれについてくるか、船に残るかだ」
「そうなんですね」
自由行動してもいいと言われても、どちらにせよ誰かと一緒でないならどこかに行くつもりもなかったが…
「それならどうしようかな。島の散策はしてみたいし、お供してもいいですか?」
「ついてくるならいくつか注意事項がある」
「何です?」
「あそこは“新世界”を目指す者たちが自ずと集まる場所だ。海賊、それを狙う海軍、賞金稼ぎがうろついている。人攫いなんかもいるから絶対に逸れるな」
…どんな島よ。恐ろしすぎるでしょう。
「もうひとつ、“世界貴族”と呼ばれる人物が歩いていることがあるが関わり合いになるのは避けろ。これに下手に関わると海軍が動いて厄介だ。最も、確認次第迂回してやり過ごす予定ではいるが…そうもいかねェ時もある」
「“世界貴族”…特徴はありますか?普通の人間と同じ?」
「見てくれは同じだが、服装ですぐに分かる。こっちに関しては逸れずについて来ればそう問題はない」
とりあえず逸れるんじゃねえぞと。
逸れた場合その後どうなるのかは、何となく想像もできる。
「分かりました」
「とりあえずお前は万が一があったときに全力で走る心算だけしておけ」
フンと鼻で笑って部屋を出て行ったが、話聞く限りだとそれじゃ何とかならなそうである。
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…とまあ散々出発前にびびらされていたのだが、今現在周りの様子はどうみても普通。
むしろ通常の市民で賑わっているまである。
海賊らしい人間は一人として見かけない。
「何だか普通の街みたいですね」
「ここは40番台の観光エリアだからね。海軍の目もあるし、あんまり派手に暴れる人たちはいないと思うよ」
「40番台?」
「そう。樹に番号があるでしょ」
ベポさんが指差す先には、樹の幹に「43GR」と書かれている。
「あの番号の10の位ごとに分けて、大体エリアが分かれてるんだ。数字が小さくなればなるほど治安も悪くなるから、手離しちゃダメだからね」
「分かりました」
みんな詳しいなあ。
情報を持っていないと淘汰されていってしまうのだろうが…
「どこまで行くんですか?」
「1番グローブだったかな」
「いち、ばん。」
要はこの島の中で最も治安の悪い場所に行くということか。
「な、何をしに…」
「さあ?キャプテンが用事あるみたいだよ」
例の用事か。
そんな危ないところに何をしに行くんだろうか。
ああ、何だか今更ながら恐ろしくなってきた。
やっぱり船にいればよかった…
船でイッカクさんと優雅にティータイムしてればよかった…!
内心大汗かきながら着ているスクラブの裾を空いている手でぎゅっと掴む。
今日は先生に頂いた黄色いスクラブ着用だ。
自主的ではあるが、言わずもがなこれも迷子防止。
こんなに真っ黄色の人、どこにもいない。
そんな真っ黄色の女とツナギを着た白熊が手を繋いでるもんだから、若干悪目立ちしているように感じなくもないが、怖い目に遭うよりはずっとマシだろう。
そのまま歩いていると、どこからか楽しげな音楽が聞こえてくる。
見渡すと、少し離れた位置に「SABAODY PARK」の文字が。
遊園地まであるのかここには。
外からでも見える大きな観覧車やジェットコースターについ見とれて、足を止めかけるがベポさんに阻止された。
「名前行かないよ遊園地なんて!」
「あ、いや違うんです、入りたいとかじゃなくて見とれちゃって…」
そんな駄々っ子を諌めるお母さんみたいな言い方…
遊園地なんてものを視界に入れるのは久しぶりだ。
少し先で私たちが足を止めたのに気づいた先生たちも立ち止まっている。
ベポさんに手を引かれて後ろ髪を引かれながらも遊園地を後にした。
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