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当たってほしくない予想ほど当たるものだ。
私は目の前で起きている出来事を信じられずにいた。

「エントリーNo.3!〜〜……」
「…〜では110万ベリーでの落札です!」
「…それでは続きましてエントリーNo6!〜…」

次々と出てきて、次々と売られていく人間たち。
人身売買、というやつだ。
一生の中で、目前にする機会がくると思っていなかった。
こんなものが実際に行われている世界なのか…
海賊が横行している時点で充分やばい世界なのは承知していたつもりだったけれど、常識を凌駕され続けて理解が追いつかない。
だって売る人がいるということは買う人がいるということ。
客席にいる人たちは身なりが整い、裕福ではあるのだろうがみんな普通の人間たちばかりだ。
人が人を買うなんて本来あってはならない事なのに…先生は何の用があってこんなところに来たのだろうか。

斜め前に座る先生の後頭部を見つめる。
ふと、頭が動いた。
入口の方を振り向き、よく見れば中指を立てている。
え、何してんの。
合わせて振り向けばそこに居たのは(名前は覚えていないが)先程の手配書の束の中の1人。いや2人。
それ以外にも明らかに柄の悪そうな人たちがぞろぞろと。
…何してんの!?
なんで喧嘩売ってるのこの人は!
だぱぁと一気に汗腺が開いた気がしたが、一触即発と思いきや互いに謎にニヤつくだけで終了。
無駄にヒヤヒヤさせるのやめてほしいんですけど。


「…ーー続きましてエントリーNo.16!なんと海賊船の船長!」

海賊もこういったところで売買されてしまうのか。
いやむしろ無法者だからこそうってつけなのかもしれない。
こんな興行が、常日頃海軍の出入りがあるような島で問題なくおこなわれている時点で違和感があるし、黙認されているんだろう。
でもそうだとしてもそれは何故?
海賊の立場の私が言うのもなんだが、市民を守る為の海軍なのにこんな危険なものを放っておいているなんて…

「きゃあああっ!」

客席からの叫び声でハッとする。
板上に目を向ければ、閉まっていく幕。
先程までその場に立っていたどこかの海賊が奥に引き摺られていくのがその隙間から見えた。

「…え、何」
「舌を噛んだな」

シャチさんが隣でポツリと呟いた。

「え、」
「奴隷になるくらいならと自死を選んだんだ」
「奴隷…」

やはり買われていく人たちは奴隷になってしまうのか。
勘づきながらも考えないようにしていた事実が重くのし掛かる。
同時に、ますます謎が湧いてきた。
要は買う側だけでなく、奴隷にされている人々も黙殺されているということでしょう?
何故そんなことが許される?
これらの疑問の答えはすぐに知らされることとなる。


「ーー“人魚”のォ…ケイミ〜〜〜〜!!」

次に出てきたのは、大きな金魚鉢のような水槽に入れられて枷をつけられた“人魚”。
普通の若い女の子のように見えるが、文字通り上半身が人間で下半身は魚、水が満たされた容れ物の中でも平然としている、本物の人魚だ。
おとぎ話の絵本の中でしか見られなかったいきものを、こんな生々しい形で目にするとは思っていなかった。
いちばんの盛り上がりを見せる会場。
こんなこと考えたくもないが、反応を見る限りかなり希少価値が高いのだろう。

「5億で買うえ〜〜〜!!5億ベリ〜〜〜〜!!」

誰に買われたとてあの人魚に幸せなどもう訪れやしないのかと憐れみを向けたその時。
客席前方、天蓋がつけられた豪奢な席。
そこから声が上がる。
会場全体が一瞬静まり、また思い出したかのように響めき、騒つく。

「5億…?」
「あれが“世界貴族”。世界政府を作り上げた王達の血を引いた末裔だ。“天竜人”と呼ばれてる」

先生が前を向いたまま教えてくれる。
天蓋の隙間から見える人影は、何やらヘルメットのようなものを被り、潜水服のような服を着ている。
宛ら宇宙飛行士のような格好だ。
成程、服装ですぐに分かるとはこのことか。

そして世界“貴族”と呼ばれる人種が進んで人身買収をおこなっている…
いや、下手を打てばあれの為に・・・・・
ざわ、と全身総毛立つ。
今の今まで浮かんでいた謎が一気に解明された気分だった。

やがて少しの間を置いて、人魚の落札が決まりかけた、その時。
物凄い破壊音。
入口から粉塵が上がり、一気に騒がしくなる。

「あっ!ケイミー!!」

混乱し始めた会場内、渦中の1人が走り出す。
近くにいた人物がしがみついて止める。
でもその人物は、腕が6本で。
そこかしこから悲鳴、怒号、金切り声が響く。
次に響いたのは、銃声。
思わず身を竦める。
鉛玉を放った“世界貴族”は、タコがタダと喜び踊る。
その後口々に上がる安堵の声。

これが、これが本当に人間のやること?
込み上げてくるものを、手のひらで抑えて必死に飲み下す。

「名前ちゃん、」
「だい、じょぶです」

俯いた背中にシャチさんの手のひらとベポさんの肉球を感じる。
何とか堪えて前を向くと、先生と目が合った。
見つめあって数秒。視界の端で“世界貴族”が吹っ飛んだ。

「え、」

思わずそちらに目を奪われる。
吹っ飛ばしたのは、先ほど走り出した男。
私ですらも、知っている男。

「……モンキー・D・ルフィ」

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