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あの後何とかシチブカイを倒し…いや破壊(生きている人間ではなく人型の機械だった)して、船番組に近くに回してもらってあった潜水艦に乗り込んだ。
出航のために必要な準備は既に済んでいた為、そのまま急速潜水してシャボンディ諸島を離れる。
元々ログは取れない島のようで、その心配はなかった。
本来であれば次は“新世界”の第1歩、深海にあるという「魚人島」に行くのが定石なようだが、すぐには入らないのだという。
じゃあ何処に行くかといえば、「マリンフォード」。
海軍本部がある島だ。
下手したら捕まりかねないというのに、海軍と「白ひげ海賊団」という海賊団の戦争を見に行くと…
戦争の見物なんてそんな趣味の悪い、と思うのだが、指示を出す先生の顔を見ているとどうにもそんな簡単な話ではなさそうで。
もとより彼についていく選択肢しか無いというのもあるが、ポーラータング号はマリンフォードに向けて舵を切ったのだった。

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瞬く間に変わる戦況。
飛ぶ怒号、あちらこちらで踊る赤。
これが“戦争”、理解はしているが納得は出来ない。
何も出来ないままにみるみるうちに沢山の命が消えていく。
こんなことってあっていいの?
まだ救える。
皆まだ助かるのに、何故戦うことを辞めないの?
滲みかける涙を気合いで引っ込める。
泣いている暇はない。気をしっかり持て。
今私が最優先にしなくてはならないことはなんだ?

…目の前で瀕死の状態になっているモンキー・D・ルフィの救命を、しなくてはいけないんじゃないのか?

「そいつをここから逃がす!一旦おれに預けろ!おれは医者だ!」




到着した「マリンフォード」で勃発した大きな戦争。
その途中、モンキー・D・ルフィは空から降ってきた。
聞けば、この戦争の発端が「白ひげ海賊団2番隊隊長 ポートガス・D・エース」の処刑であり、彼はこの人物と義兄弟であると。
敵だらけで、そもそも視界に入れることすら叶わないかもしれない中に殴り込み、苦戦しながらも一度は助け出した。

そう、一度は。

ポートガス・D・エースは、弟の目の前で海軍正義の焔に体を貫かれて絶命した。
「処刑」という、目下の目的は果たしたというのに海軍の攻撃は止まらない。
まるでここにあるもの全て灰にする勢いだ。
そんな中、命からがら逃げ出そうとするモンキー・D・ルフィともう1人、彼を助けたジンベエという男を先生は半ば無理やり船に乗せた。
既に水面を滑り出した潜水艦の中、オペ室へ急ぐ。

「うわァ!ひどい傷だよ生きてるかな!」
「分からない…でも、」

最善を尽くすだけ。

「ルフィさん!分かりますか、ルフィさん!」

ベポさんの腕の中にいる彼に声をかける。
分かってはいたが反応はない。
この出血量に、目の前で起こったあの出来事…彼の体が、かかるストレスの限界を悟って起こした防衛本能か。
意識を飛ばして正解かもしれない。
オペ室のベッドに寝かされるのを横目に手早く準備をしていると、

「…ハァ゛、ハァ…お前さ゛ん、…」

その隣のベッドに寝かされたジンベエさんが目を覚ましたようだ。
手を止めずに返事をする。

「動かないでください、傷に触ります」
「ここ゛は、……、ぐ、」
「ハートの海賊団、ポーラータング号の艦内です。貴方達を受け取ってすぐに潜水し、今は全速力でマリンフォードから遠ざかっている最中。最低限の処置は並行して行いますが貴方より彼の方がトリアージレベルが上です。先生のオペは彼から、」
「準備は」
「出来てます」

ジンベエさんとの会話の途中で先生がオペ室に到着した。

「始めるぞ」
「はい」

助手は基本、相手役となる医者の考えていること、次におこないたいことを察して先回りできて漸く成り立つ。
彼の助手を務めるのはこれが初めて。
私は私のやれることを迅速に。
先生の思考、癖、全てを取り入れろ。
この短時間に彼の「助手」として成り立たなければ私はこの場に要らなくなる。
自分で自分にプレッシャーをかけ、全神経を集中させた。

「…ーー“ROOM”」

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能力で覗き見た麦わら屋の体内で起こっている無数のダメージを、緊急度合いが高い順から手をつける。
血管を繋ぎ、骨を繋ぎ、時には筋肉を裂いて。
その度短く指示を飛ばし、名前を動かす。
あれを取れ、それを持て、これしろ、そっちやれ。
最初こそ言葉の如く「指示通り」であったが、途中からこっちのやる事なす事全て先回りしようとしてきている事に気がついた。
お陰で随分と早くオペが進んで、想定していたよりもだいぶ早く麦わら屋の処置が終了した。

次は横に並ぶジンベエのオペだ。
貫かれた傷を塞ぐ必要があるが…この重体では麻酔は使えない。
鎮静剤で意識レベルを落とすか…薬品棚に向かおうとすると名前がトレーを差し出してくる。
その上には鎮静剤のアンプルとシリンジが。
種類もまさに使用しようとしていたもの。
流石だな。
何も言わずに受け取って準備をする。
その間名前は麦わら屋の処置で使った器具たちの片付けをおこなっていた。
ジンベエの腕につけられたルートから必要な分吸い上げた鎮静剤を緩徐に注入し、意識を徐々に落としていく。
…頃合か。

「そろそろこっち始めるぞ」
「はい」

名前を呼び戻して眠りに落としたジンベエのオペに手をつける。
麦わら屋と比べればまだマシというだけで、こちらも十分重症。
一番大きな胸の傷は炎で焼きながら貫かれたのが幸いし、大きな出血はないが埋めるのには苦戦しそうだ。
必要な部分を繋ぎ合わせて少しずつ埋めて…臓器も多少の損傷はあれど全損や不全となるほどのダメージはない。
麦わら屋の時も感じたが、こいつらはつくづく運がいい。

それよりも、と目の前の名前を見やる。
先ほどよりも早く、ずっと正確になった先回り。
おれの動きのパターンをこの短時間で頭に叩き込んだという事か。
こいつが元来持っている器用さや真面目さがこうさせるんだろうが、そんな芸当まで出来るとは、と素直に感心した。
勿論まだまだ未熟ではあるものの、今回が初めてだしこいつの集中力には目を見張るものがある。
そうしてジンベエの処置も滞りなく済ませて拮抗薬を静注しておく。

「直に目を覚ます。片付けしながら様子を見てろ」
「はい。先生はどこへ」
「浮上してから表が騒がしい。そっちの様子を見てくる」
「わかりました」

すぐさま片付けを再開した名前の背中を見つめる。

「……」
「…どうしました?」
「…名前、」

手を止めてチラと振り返る。

「助かった。ありがとう」
「………」
「今後も頼む」
「………はい」

暫く面食らった顔をしていたが、やがて照れたような表情を見せて短く小さく、返事が聞こえた。

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