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船に揺られて1週間足らず。
私たちは男子禁制の女ヶ島、アマゾンリリーに到着した。
仰々しい門が開き、大きな九蛇の船の後に続いて入島する。
見渡す先にいるのは女性、女性、女性。
子供から大人まで、本当に女の人しかいない。
子供がいるのにそんなことある?
甲板に出てきたクルーたちも皆揃って浮き足立つが、弓矢でこちらが狙われていることに気がついた。
…あれ?

「…おいお前ら、いい加減艦内に入らねェと死ぬぞ」

先生が首を傾げて避けた鉄の矢。
話通ってないんかーい。
山ほど飛んでくる矢に慌てふためいていると九蛇海賊団のクルーたちが撃ち落としてくれる。
ハンコックさんはルフィさんをお城に運び込む気満々なようだが、島の長老らしき老婆がそれを許さない。
それに先生の言うようにここで治療をするならうちの船と同等の設備がないと今のルフィさんの命を繋ぐのは難しい。
どうしたものかと一同が頭を抱えた時、長老さんが苦肉の策として島の湾岸への停泊を許可してくれた。

それ以上先に進めないよう陣が張られ、その場所でルフィさんの治療と看護を行なう。
食事は3食女ヶ島から提供があった。
配給分を受け取ってまたルフィさんの様子を見に行こうとすると、1人に呼び止められた。

「そこの貴女、待って!」
「?」
「男だけかと思ってた…女性もいるのね」
「ええ、この船の看護師の苗字名前と申します」
「看護師か…あ、私も名乗らないとね」

マーガレットと名乗るその女性は、不安そうに瞳を揺らす。

「ルフィの、意識は?」
「…まだ戻りません。戻るかどうかは、もうルフィさんの生命力に賭けるしか…」

もうやれるだけのことはやり尽くしている。
あとはルフィさん次第だ。

「そうか…」
「祈っていてあげてください。きっと目を覚ますようにと」
「…そうだね。そうする」
「…あ、少し待ってもらえますか」
「…?」

自分の部屋に戻り、メモ用紙を手に取ってマーガレットさんの元に戻る。

「これをハンコックさんに。お願いできますか?」
「勿論構わないけどこれは…?」

渡したメモ用紙をマーガレットさんが怪訝な顔で開く。

「今日までのルフィさんの様子です。私がハンコックさんに教えられる範囲でまとめたものなので、先生がまとめたカルテほど詳しくはないですが少しでも知りたいと思うから」
「…ありがとう。蛇姫様もきっとお喜びになる」
「マーガレット!行くぞ!」
「ああ!…では」
「はい」

去っていく女性たちを会釈で見送り、また船の中に戻る。
今日も彼の意識は戻りそうにない。
規則正しく響く機械の音の中、静かに彼を見つめる。
そして頭に浮かんだひとつの仮説。

もしかして、とんでもないことをしてしまっているのではないだろうか?
私1人の力、そう大したものではないだろうが、本来この世界は私の元いた世界では「フィクション」だ。
そのフィクションに入り込み、知らず知らずのうちにストーリーを捻じ曲げてしまってはいないだろうか?
いわば自然の摂理を捻じ曲げているのと同様。
ストーリーを知らないから何とも言えないが、それは決して許されることではないだろう。
ルフィさんが瀕死の状態に至った時、この船で看護師をしている私がしなくてはならなかったのは「彼の救命」。
それに関しては迷わず即答できる。
ただ、それをおこなって良かったのかどうかは今の私にはまだ分からない。
もし、万が一だ。
この世界にとって異物であるあの世界の私・・・・・・にまだ息があって、異物わたしがこの世界の理を変えてしまった場合どうなってしまうのか…

急に機械の音が大きく聞こえた気がして、ハッと気を戻す。
ルフィさんは変わらないまま。
…今考えることじゃないな。

「……みんなあなたの帰りを待ってますよ、ルフィさん」

消え入りそうな声で呟いたのを、聞いている人がいるのには気づいていなかった。

ーーー

急展開が起こったのはそれからまた数日が経った日のことだった。
みんなで外で食事をとっていると、

「うわあああああああああ!!!」

突如として潜水艦内から叫び声と破壊音が。
ルフィさんだ。
反射的に潜水艦に駆け寄る。

「っおい、」

背後から伸びてきた先生の腕が私の肩を掴んで無理やり後ろに引き下げた。
途端、潜水艦の天井が大破。飛び出してきたのは、

「エースはどこだぁ〜〜〜!!!」

文字通りの命を繋ぐ線ライフラインを全て引き千切り、錯乱状態にあるルフィさんだった。
クルーで束になって飛び掛かって止めるが、全く歯が立たない。
叫びながら暴れるルフィさんは、フラッシュバックを振り払うのに必死になっていた。

「あれを放っといたらどうなるんじゃ…」
「まあ単純な話…傷口がまた開いたら今度は死ぬかもな」

先生はどこ吹く風でそう告げる。
そう思うなら能力使うなりして止めてくれと思うが、恐らくながら何をしたところで止まらなさそうなのは明白。
暴れながら次第に女性たちが張った陣すらも破壊し、森の中に入り込んでいく。
ジンベエさんがその後を追った。

「先生、あの2人…」
「止められやしねぇ…そのうち戻ってくるだろ。行かせとけ」

確かにその通りなんだけど…

時折森から聞こえる破壊音や絶叫を聞きながら屋根を破壊された潜水艦の修理を手伝っていると、今度は海から空気を震わせるような叫び声が聞こえた。
大きな水柱が上がっている。
双眼鏡で様子を確認していたペンギンさんが声を上げた。

「大型の海王類だ!」
「何やってんだ!?ケンカか!?」
「いや…死んでる!何かにやられたぞ…!相手の生物は見えなかった」
「恐ろしい海だ…」

海王類同士のケンカ怖…と思っていたその時。
まさかのその恐ろしい海から人が上がってきたのだ。

「え!?人!?」
「おいお前誰だ!」
「いやあ参った」

この人…シャボンディ諸島で出会ったお爺さん…!?
時化に船を沈められて泳いでここまで来たと言っているが、今いるこの凪の帯には時化はないはずだ。
常に凪いでいる海で、その為大型の海王類が大量に住み着いており通常渡るのが困難なのだと…
そんな海を泳いで渡ってきたのこのお爺さん…
とりあえずお風呂場からバスタオルを持ってきて渡す。

「どうぞ、良ければ」
「あぁ、済まないねお借りするよ。…オークション会場で出会ったお嬢さんかな?」
「え、あ、はい、多分」

ニコニコしながらこっちを見てくるが…何か用があるのか。
あとタオルを受け取るふりして手握ってるよね。
逃げられないんだけど。
見るに見かねた先生が間に入ってくれる。

「…“冥王”が何の用でここに来た」
「おぉっと、そうだったそうだった。ルフィ君がこの島にいると推測したのだが」
「!」

ーーー

先生とお爺さんは一言二言会話を交わした後に、

「もう出すぞ」
「えー!もうっすか!?」
「鑑はもう直ってんだろ」
「直ってますけど!」
「なら出す。麦わら屋のことは“冥王”に任せた」
「それよりもっと重要なことがあるじゃないっすか!」
「女人国!入んなくていいんすか!?」
「…そんなに入りてェなら勝手にしろ。船はもう出す」
「そんな殺生なぁ〜!」

先生がさっさと船に入っていくのに合わせ、残っていたみんなもバタバタと出航準備を整える。
お爺さんに関わるとまた動けなくなりそうなので私も早々に船に戻った。
やがて、お爺さんに見送られながら船は静かに出港する。
海王類、大丈夫かな。

「勿体ねェなァ〜あそこまで行って…」
「入ってみたかったなァ〜女人国…」
「死ぬ覚悟で入ってみたらよかったんじゃないですか、そんなに残念なら」
「え、何妬いてんの名前ちゃん」
「は?」
「いや怖ァ」
「私ルフィさんが居た部屋片付けないといけないんで失礼しますね」

…男ってやつはよぉ。