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そんな騒動から少し経ったある日、まだ起きるには早い時間。
嫌な予感と共に目を覚ました。
その予感を取っ払うためにばっと掛け布団を取り払うも、そこに異常はない。
じゃあこれからだ。
急いでお手洗いに向かう途中、だんだんと重くなっていくお腹…いや下腹部は気のせいではない。

誰もいないお手洗い、先日イッカクさんにより「女子専用」とメモ書きが貼られて女子専用となった1番奥の1番広い個室の扉を開いて中に入り、しっかりと鍵を閉めて恐る恐るズボンを下ろす。
…ギリギリセーフ。トイレットペーパーで拭えば赤いアレ。
そう、ついにきてしまったようだ、毎月一回の憎きあいつが。
前回から暫く経つのに来ないなーとは思っていたが、来たからと言って歓迎したいものでもない。
深いため息と共に背後の棚を漁る。
イッカクさんに色々聞いておいてよかったな…

元々この歳になってもなかなか周期が安定せず、間が2ヶ月近く開くこともザラにあった。
流石にその時は病院に行ったが特になんの異常もなく、ストレス性だろうということに。
その代わりと言ってはなんだが、今回のように来る直前に感づくという他の場面では全く役に立たない特殊能力に次第に目覚めたのでもう周期の安定は諦めていた。
まあただ間が開けば開くほど自分が苦しむことになるのだが。
発見した生理用品を身につけ、個室から出ようとする。

「(……キタキタキタ)」

子宮がぎゅうっと雑巾搾りされるような痛みに、扉を開けられずにその場に蹲る。
私の場合は精々下腹部痛と下痢、腰痛、あと全身のだるさくらいで、酷いのは初日のみ。
その初日も、薬を飲まずとも1日寝込んでいれば耐え切れるレベルだ。
軽いとは言わないのかもしれないが、同僚の中には薬がないと周期中は1mmも動けないという重度月経困難症の子がいた為どうしてもその子と比べて大したことない認定をしてしまっていた。
そんなこんなで生理痛で病院にかかったことはなかったが…今回は結構キツそう。
とりあえず痛みが引くまでこのまま耐えてそのあとゆっくり部屋に向かおう。
幸い朝と呼ぶにはまだ早い。
人もそう通らないだろう。

しゃがみ込んで別のことを考えているうちに痛みの波が引いていく。
中腰のままお手洗いを出てのろのろとした足取りで自室に向かい、ベッドに倒れ込む。
途端にまた痛み出す下っ腹。
間隔が狭すぎる…いつももうちょっと間が空いていた気がするが。
陣痛かよ、なんて思っても乾いた笑いさえ洩らせない。
今日は動けそうにないなぁ、誰かに伝えたいが今日に限って何の当番もなかった気がする、用もないのに私の部屋まで来る人なんかいないよなぁ…
あぁ、こんな時女子部屋だったら楽だったろうに…
生理中特有の謎のマイナス思考に苛まれながら、知らぬ間に再び夢の世界に旅立っていた。

ーーー

名前が気を失うように眠りに落ちていた昼。
食堂ではちょっとした騒動になっていた。

「ベポ、今日名前ちゃん見かけたか?」
「え?」

白熊ミンクのベポは昼食をとりながらその丸っこい耳をピクリと動かす。

「見てないよ。なんで?」
「ちょっと確認したいことがあったんだけど朝からずっと見かけないなと思ってさ。みんなに聞いて回ってんだけどみんな見てなくて」

参ったというように帽子越しに頭をポリポリ掻くのはペンギンだ。

「この間また修行つけてくれって話になっただろ?もうそろそろ一旦どっかに停泊するって話だし、その時にでもと思ってどうするか聞きたかったんだけど」
「あーあれね。夕方には着きそうだし、おれも付き合うよ」
「おう。ただ肝心の名前ちゃんがいないんだよな」

2人して食堂内を見渡してみるもやっぱりいないもんはいないのである。

「今日なんか当番とかになってるんじゃなくて?」
「それも確認してみたけどちょうど何の当番でもなかった」
「部屋は?」
「行ってノックしてみたけど返答なし」
「たまにキャプテンのとこで勉強してるみたいだけどそれは?」
「あー…」

そこまでは思い至らなかった、と手を打つペンギン。
食事を終わらせたベポと連れ立ってローの元に赴いてみることに。

トントン
「キャプテーン」
「なんだ」
「ちょっと開けますよ」

扉を開ければ見慣れた後ろ姿。
ここ最近のローは今までに増して机に向かっている頻度が増したように感じる。
海賊という職業上(医者でもあるがそれに関しては今は置いておく)、抱え込むような仕事はないだろうと思うし、ただ調べものに没頭しているだけなら良いのだが…
稀に食事も睡眠もまるで摂っていないような様子でいることがあるのには正直不安があった。
徹夜を重ねている姿自体はそう大して珍しくないのだが、長い付き合いの身としてはどうも嫌な予感がしてならない。
今日は傍に空になった皿があることにペンギンは少し安堵する。

「キャプテン、今日名前ちゃん来てないですか?」
「名前?」

くるりと振り返るロー。
顔色もまあさして悪くはなさそうだ。
彼はクルーの体調は気にするくせに自分の体調には無頓着なきらいがある為、最近ではこうしてクルーが体調確認を内密におこなっているのだった。
昼食も誰かが気を利かせて部屋まで運んだものであろう。

「来てねェが」
「ここも違ったか」
「じゃあイッカクと一緒に女部屋とか?」
「お、まだ当たってねェなそこは」
「なんかあったのか?」
「いや用があって朝からあっちこっち探してるんすけど見ないんですよね。また見かけたら教えてください」
「…分かった」