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そこから更に時が過ぎた。
場面転換というものは、得てして急に巻き起こるものだ。
「おら、大人しくしろ!」
「はな…して!」
何故か私は、海軍に捕まっている。
おかしい。
何がどうなってこうなったのか。
順を追って考えよう。
今朝の私は、いつものように目を覚まし、先生とご飯を食べたのちに彼に付き添って行動していた。
何もいつもと変わったことは無かったはずだ。
いや、訂正しよう。
たしかに朝からずっと騒がしい日ではあった。
いつもはもっと静かなのに、今日はどこにいてもバタバタと慌ただしく誰かが走る足音が聞こえていた。
「なんか今日騒がしいですね」
「……」
館内放浪中に立ち寄った一つの部屋。
あまりの騒がしさに拝読許可の出た記録ノートから顔をあげてそう声をかければ、先生は黙ったまま傍にあった「鬼哭」に手をかけた。
移動するのかな。
私もキリをつけて先生の後ろにある棚にノートを戻す。
と、
バンッ
「あぁいた!ローさん!」
ひと昔前の潜水服のような見た目をした、黄色い防護服を身に纏った兵士さんが飛び込んできた。
呼吸を荒げ、だいぶ探し回らせてしまったようだ。
でも何をそんなに急いで…?
「島内に侵入した“侍”が暴れ回っていまして…何とかできませんか」
「“侍”?」
繰り返されたその言葉に私もピクリと反応する。
今、侍って言った?
「巡回部隊のケンタウロス達も次々とやられて…」
「お前らで何とか出来ねぇのか」
「出来ないからこうしてローさんを探してたんじゃないですか!」
懇願するような声を上げる兵士さん。
滞在中は何かあれば手を貸す、と先生は確かに約束していたが、まさか本当に何かあるとは。
「…分かった。行きゃあいいんだろ」
「ありがとうございます!生死はお任せしますので」
兵士さんは頭を下げるとまたバタバタと去っていった。
一度手にした鬼哭を握り直す先生。
「行ってくるが…まだ読んでいたいならここにいて構わねぇぞ」
「大丈夫ですよ、キリついたので。侍、ちょっと見てみたいですし」
「知ってんのか」
意外そうな顔をする先生に少しどきりとする。
“侍”といえば思い浮かぶ像は一つ。
丁髷に着物、刀を下げてござる言葉(本当なのかは知らないが)のあの“侍”に他ならないであろう。
いわば創作の世界に来てしまっていることはもう分かっているし正直今更特にどうこうしようとは思っていないが、もしも私の想像している“侍”であるとすればもしかしたら何かの糸口になるのかもしれない。
あと本物は見たことないので純粋に見てみたい気持ちも強い。
「着いて行っても良いのならご一緒させてください」
「…まぁ好きにしろ」
よし。
生侍見れるぞ。
先生の後に続いて建物の外に出る。
道中聞いた話によると、凍結している側で巡回部隊とやり合っているようだった。
裏口近辺とのことだったが、どこだろうか。
先生が視界に入っているくらいの距離を保ちながら、東西南北見渡してみる。
うーん侍、侍、侍…
「!」
背後に迫る凶刃。
凄まじいまでの殺気は流石の私でも感じ取れ、間一髪で飛び退く。
あぶな、尻餅つくところだった。
避けきれなかった髪が一束、はらはらと空中に舞った。
「…のすけを、」
「え、」
「モモの助をどこにやった!」
聞きなれない名を叫びながら斬りかかってくる侍。
刹那、視界に青が広がり、上半身と下半身で真っ二つになった侍が遠くに見えた。
どうやら瞬間的に先生と私の位置が入れ替わり、そのまま先生がぶった斬ったようだ。
そのせいで侍は一度大きく体制を崩すも、またすぐに上半身のみで斬り掛かってくる。
今度は首を断ち切って“ROOM”を島内全域まで広げ、下半身を燃える側へ、胴体はそのままその場に残して首のみ掴み、私たちは研究所内のどこかの部屋に飛んだ。
あっという間にバラバラにされてしまった侍は驚嘆する。
「何だ!?おのれ、何をした!」
「こっちからすればお前の方が何なんだよ…おれの計画を邪魔されるわけにはいかねぇ。しばらくそうしてろ」
「そう言うわけにはいかぬ!拙者はモモの助を探さねばならんのだ!」
「上半身でも下半身でも、探せるもんなら好きに探せ」
先生は侍の首をさらに6分割すると、何やら喚いているそれをそのまま捨て置き、私を連れて部屋を出る。
出たところには兵士さんがいて、何やら一言二言伝えて廊下を歩き出した。
“侍”…
確かに想像していた通り丁髷に着物で刀を下げてござる言葉で喋っていたが、想像していたより一回りも二回りも身長が大きかった。
もう10年以上前、授業中に雑談として聞きかじった話だと確かあの時代の平均身長は150cm台だったはず。
目測なのではっきりとはしないがあの侍は倍くらいはあったような…
そもそも「侍」という単語をこの世界の人間達が認識できている時点で、私の知る“侍”とは似て非なるものなのであろう。
この世界の人物はやたらと大きいみたいだし、あれはあれでこの世界の“侍”と言うことか。
ちょっと残念ではあるが侍っぽいものが見れただけよかったとしよう。