先程記録ノートを読んでいた部屋に戻ろうとしていると、
「ローさん!」
またも息を切らせた兵士さんが。
今日はやけに来客が多い。
普段殆ど干渉されないのに…若干苛立った様子の先生が口を開く。
「今度はなんだ」
「そ、それがですね…海軍“G-5”のスモーカー中将率いる軍艦が徐々に島中央の湾内に侵入して来ていまして、」
「なんだと?」
先生がぴくりと眉を動かす。
私も自然と背筋が伸びた。
何の部隊とか、誰が来たとか、詳しいことはこの際置いておこう。
兎に角ここに海軍が来るのはまずいことだけははっきりと分かる。
「それで、“M”からローさんに追い返させろとの要請が…」
「…分かった」
先生は息をひとつ吐くとそのまま部屋を出る。
私も慌てて後を追った。
「先生、私部屋にいた方がいいですか?」
幾分か早足で進む先生に合わせ、殆ど小走りで横に並ぶ。
海軍と鉢合わせるのに私は居ない方がいいだろうか。
もしそうなら部屋でいつでも逃げられるように準備をしていた方が…
「……」
先生は暫く私を見て思案したのち、
「…いや、いい。追い返すだけだ。そのまま着いてこい」
「承知しました」
自分の目が届かなくなる事の方を危惧したらしい。
相変わらずのペースで歩き続ける先生に必死についていく。
脚長いんだからもうちょっと気遣ってくれ。
正面玄関に近付くにつれ、インターフォン代わりのブザーの音が聞こえて来る。
ついで、下品ながなり声や銃声のような音も。
…海軍てここまで好戦的だっただろうか。
前に見た海軍はもうちょっと落ち着きがあった…と思うんだけど。
立ち入り禁止の島にいる訳だから何らかの形でここにいるのがバレて捕まえに来たのかな…でも立ち入り禁止は海軍も同じだよね。
扉が見えてきた。
先に行って戸を開けようとするが、後ろにいろと言わんばかりに引き下げられた。
重そうな音を響かせながら戸が徐々に開いていく。
隙間から入り込む吹雪にぶるりと身震いし、目を細めながら先生の背後から外を覗けば、そこには柄の悪そうな集団。
…え、チンピラ?
「おれの別荘に何の用だ。白猟屋…」
先生の姿を認めれば、チンピラたちは何故こんなところにいるのかと、挙って叫び声をあげた。
この反応…先生を追ってきたわけじゃないのか?
寧ろ気味が悪いから帰ろうとまで言い出す始末。
失礼な。
確かにちょっとやり方にはびっくりしたけど、私は結果オーライだと思っている。
それに色んな
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てるチンピラ達を無視して、いちばん扉の近くにいたヤクザの大親分みたいな人がゆっくりと口を開いた。
「ここは政府関係者も全て立ち入り禁止の島だ…ロー」
「じゃあ…お前らもだな」
不敵な笑みを浮かべて大親分と睨み合う先生を盾にしているのをいいことに、じろじろと無遠慮に観察してみる。
先生よりも高い身長に、ゴリラみたいな筋肉。
白いジャケット、前全開けだけど寒くないんだろうか。
お腹壊しそう。
白髪をオールバックにして葉巻を一気に2本も咥え、先からは絶えず煙が立ち上っている。
眉間には深い深い皺、極め付けに額には謎の縫い目。
この出立ちをみて「この人は堅気です」と説明しても一体何人が納得してくれるだろうか。
おや、隣には可愛らしい女性もいるではないか。
ピンクのコートを着用し、眼鏡をかけて髪を後ろで纏め、刀を下げている。
この人は海軍って言っても通用する。
後は大親分も含め駄目だろうこれ。
決して口には出せないド級に失礼なことを考えていると、不意に大親分の目がこちらに向いた。
「……オイなんだ…それは」
「仲間…?まさか一般人…じゃないですよね」
ついで、隣にいる海軍ぽい女性も眼鏡を押し上げ、こちらに注目しだした。
そうするとほら、後ろのチンピラも私の存在に気づいてしまったではないか。
辞めて頂きたい。
「うおー!ほんとだかわい子さんがいるー!」
「トラファルガー・ローの仲間か!?なんだお前は!」
これ名乗らないといけないのかな。
海軍相手に名乗る必要あるかな。
この様子だと顔割れてないみたいだからむざむざ自己紹介する理由無いと思うんだが。
「これはうちの看護師だ。こいつは今関係ないだろう」
「看護師ねぇ…海賊の癖にいいご身分だな」
…は?
なんだこのモクモク野郎。
自然と自分の眉が顰められたのが分かる。
海賊の癖にいいご身分だ?
うちの先生は海賊だが同時に頭ひとつ抜けた医者でもあるのだ。
そんな人が助手を従えててもなんらおかしいことではないでしょう。
ていうか医者なんだから実際いいご身分なんだよ。
睨みつけるほどの勇気はないが、瞬時に嫌い判定が下る。
そんな雰囲気を察知したのか、先生が海軍(仮)から私を隠すように居住いを正した。