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とは言え歳か。
ここまできちんと考えてきていなかったが、今肉体だけちょっと若返ってるんだよなぁ。
まあいいや、憶測で答えよう。

「今21歳です」
「あら、思っていたより若かった」
「え?」
「気を悪くさせちゃったらごめんなさいね。ここに来た時、私とローの心臓を交換するって話になったら、“Mマスター”に対して毅然とした態度で反論できてたから、もう少し上かと思ってたの。その若さで彼の為に命を捨てられるほどの忠誠心がもう存在してるのね」

感心したように…ある種馬鹿にしたようにも感じるが、モネさんはそう言った。
そう言えばそんなこともあった。
例の考え無し発言だ。

「でもそれを言うならモネさんもじゃないですか?」
「私はまた別なの。命を捨てられる程忠誠を誓っている点では同じだけど」
「ほー…?」

何だかよく分からない。
私と同じなのに別…?

「私の話はいいわ。貴女の話を聞きにきたんだから」
「聞いて面白い話はないですよ」
「そんなことないわ。そうね、じゃあ彼とはいつ何処で知り合ったの?」
「彼?」
「惚けちゃって。トラファルガー・ローしかいないでしょ」

先生との出会い…まさかここではない別の世界でぶっ倒れて気がついたら艦に乗り込んでいて先生に助けてもらいました、なんて口が裂けても言えない。

「そう…ですね、2年前くらいに出会って、…ちょっと病気をしてたんですけど、そこを彼に救ってもらって。何かお礼がしたいという話になったら丁度看護師を探していたとのことで仲間になりました」

嘘は言っていない。
これに関しては慎重に言葉を選びながら話す。
少しでも食い違えば直ぐに見抜かれるだろうし、怪しまれるようなことがあれば体裁が悪くなる。
志半ばで追い出される可能性だってあるので、よくよく考えて返答しなければ。

「なかなか泥臭いお礼の仕方ね。そんな全身全霊かけなくてもよかったんじゃない?命を救ってもらったお礼に海賊になるなんて、酔狂よ」
「そうですかね…」

へはは、と曖昧に笑って誤魔化す。
そんな私を読めない含み笑いで見るモネさん。
心なしか室温が下がったような気がして、何の気は無しに上腕を摩った。

「なら次はー…込み入ったこと聞いちゃおうかしら。彼とはどういう関係なの?」
「どういう…とは」
「そのままの意味。わざわざこんな辺境の地まで着いてくるなんて、普通の上司と部下には見えないのだけど」

モネさん悪い顔してんなー…申し訳ないが何にもないんだよなぁ。

「ご期待されてるとこ悪いんですけどマジで何でもないですよ。本当にただの上司と部下の関係です」
「じゃあどうしてついてきたの?」
「先生が患者がいるっていうから…先生の患者がいるなら看護師の私の仕事も出てくるので」
「…へぇ」

モネさんはまた意味ありげに笑う。
何も面白いこと言ってないんですが。

「…貴女はそうでも彼はどうかしら?」
「…え?」
「何してやがる」
「あら、センセイが戻ってきちゃった」

突然の声に驚いて扉を振り返ると、眉間の皺3割増しの先生がこちらに近付いてきていた。
いつの間に、と思うがモネさんは予想していたのか、特に驚くこともなくぺろりと舌を出し、笑い声を溢す。

「気色悪い呼び方をするな。互いに詮索しない約束だったろうが」
「ウフフ、名前はいいのに私はダメなの?そもそも貴方が彼女を放ったらかして放浪してるのが悪いんじゃない。退屈そうにしてたから代わりに構ってあげてただけ。ガールズトークに割って入るなんて野暮な男」
「ガ…」

睨んでくる先生。
睨まれる私。
流石にその筋合いはないです。

「いいから出ていけ。その理屈ならおれが戻ったからもうお前はお役御免だろう」
「そうね。私がいるとお邪魔みたいだから退散するわ。じゃあ名前、またね」
「また、はねぇ」
「本当堅物なんだから」

呆れたように肩を竦め、今度こそモネさんは部屋を出ていった。
先生は溜息をついて私に向き合った。
眉間の皺は変わらない。

「何であいつを部屋に入れた。馴れ合うなと言ってあったはずだぞ」
「退屈だったのは事実だし…そんな変な話もしてないですよ?上手く取り繕えてたと思います」
「あいつはある種シーザーよりも信用ならねぇ。これからは2人で会うな。意図せず2人にもならねえよう今後はおれが出るのに必ず着いてこい」

そんな束縛激しい彼氏みたいなこと、と思うが発言するとぶん殴られそうなので賢しい名前ちゃんは何も言わないでおくよ。

「分かりましたけど…まだ読みたい本沢山あって、」
「もうだいぶ見て回れた。あちこち回るのもそう長くはかからねぇからつべこべ言わずに来い」
「もうだいぶ…ってことはそろそろみんなと落ち合いますか!?」
「それはまだ先だ」

勝手に上げて落とされた気分になる。
はぁ、一体いつになるんだろうか。

「…そんなに会いてぇか、あいつらに」
「そろそろ本気でモフモフが恋しいです…先生は恋しくないんですか」
「別に…普通だ」

嘘だ。
あんなにベポさんのお腹枕が好きなくせに、強がっちゃって。
別に好きって言っても何にも思わないのになぁ。
服だって実はモフモフばっかりだし、
モフモフ好きな先生可愛いなーって……


「ん………?」
「あ?」
「独り言です」

怪訝な声を上げる先生を一蹴する。
待って?
今私何を考えた?

先生が……
…可愛い…………?

いや、いやいやいや…
いやいやいやいや。
ぶんぶん頭を横に振る私の様子を先生が訝っているが、構うものか。
可愛いだと?
よりにもよってこの先生を?
初めて出会った時から目つきが悪く、隈も酷くてたまにそんな隈の酷さに引けを取らないくらい酷いセクハラをかましてくるこの人を……
…可愛いなんて……
…いやいやいやいやいや。
他の人と会わない閉鎖空間のせいで感覚がおかしくなってきている。
しっかり気を持て私。
ほらよく見ろ。
頭をべちべち叩き出した私を見て、怪訝通り越してやばいものを見る目をしているじゃないか。
一瞬の気の迷いなんだこれは。
もっと詳しく言うのならさっきのモネさんの意味深な言葉のせいだ…!

「…何してるか知らねェがやめとけ。もっと阿呆になるぞ」
「!」

奇行を止める先生の手。
一瞬振り払いそうになるのを何とか堪える。
彼は途端に大人しくなった私を見て、不思議そうな顔をした。
…早く離してくれないかな。

「もう少しの辛抱だ。ここを出て少しすりゃあ…また落ち合える」
「…連絡も取れないって、結構寂しいですね」
「お前には電伝虫持たせてやりゃ良かったな」

自然に解放された手首。
強く掴まれていたわけでもないのに、先生の手が触れていた部分がなんだか熱い。
背中に隠し、バレないようにそっと逆の手で摩った。

これはいけないやつだ。
よく分かっている。
こんな狭い世界でこんな感情を持つのは本当によろしくない。
先生が本棚の方に向いたのを見計らい、

「…お手洗い行ってきます」
「ああ」

部屋を出て直ぐにある個室のオアシスに飛び込んだのだった。

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