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そうこうしているうちにあっという間に時は過ぎる。
ここに来てから同じ日々の繰り返しであまり日付を気にしていないが、もう1ヶ月以上は優に経っただろうか。
朝は先生より早く起きて、支度を済ませたくらいで目覚めた先生といつの間にか運ばれてきている食事をとり、患者さんたちの朝の診察と処置に回る。
それが終われば気紛れに放浪し出す先生をなんとなく見送って部屋で勉強漬け。
気付けば先生が戻ってきていて茶々を入れられ、またいつの間にか運ばれてきている夕食をとって必要があれば患者さんたちの夜の処置と諸々の支度を済ませ、私はベッド、先生はソファで入眠。
流石に上司を前にしてベッド占領は、と初めは交互に使用するのはどうかなどと食い下がったが、夜の間もずっと寝ているわけではないようなのでそれならばと専ら私専用ベッドとなっている。
稀に連れ出されて建物内を彷徨くこともあるが、私が立ち入れる場所は限られているのでそれなら部屋で膨大な図書を読み漁る方が楽しいな、と思いながら付き合っているのだった。
が…こうも毎日同じことの繰り返しでは流石に飽きる。
本を机に広げたまま席を立ち、ソファに体を横たえた。
勿論こんな極寒の地にある鉄の建物の中では娯楽なんてものはない。
患者さん達とも大分顔見知りになり、処置中の与太話を振られることも増えてきたが先生からあまり馴れ合うなと釘を刺されているので先生以外と会話らしい会話を交わすこともない。
退屈だ。寂しい。
早くみんなと落ちあって、ベポさんを思う存分モフつきたい。
イッカクさんと取り止めのない会話で大盛り上がりしたい。
ペンギンさんと手合わせもしたいし、シャチさんにそろそろ髪を整えてもらいたい。
ソファの座面に散らばって視界の端に入る、既に肩まで伸びた髪をぼんやり眺める。
島に到着する前に一度切ってもらったし、整えたばかりのつもりだったが、1ヶ月以上も経てばこれくらいにはなるか、とどうでもいいことを考えるほどには暇だ。
先生は毎日毎日、よくこんな所でやることがあるものだ。
ドフラミンゴと戦う為の情報を集めているのだということは分かっているが、本人がいるわけでもないのにここにそんなに情報があるんだろうか。
ドフラミンゴの弱味を握る、圧倒的な何かが存在しているとか…?
なんて、そんな直接的なもの、こんなに簡単に見つかるはずがないか。
「んー…」
ゆっくり、手足を伸ばす。
とろとろと眠気がやってきた。
ちょっと一眠りしようか、そう思った頃に扉がノックされた。
誰だ。先生かな。
いや、あの人は他人の部屋ですらノックしないんだから、自分の部屋(兼私の部屋ではあるが)にノックなんかするはずがない。
…ますます誰?
まさかシーザー…あれが他人の部屋にわざわざ赴くなんて想像はまるでつかないが、逆に言えばわざわざ訪ねてくるのは彼くらいのもの。
いや気まずすぎる。
そもそもシーザーが用があるのは間違いなく先生だ。
私ではない。
ひとまず居留守を決め込むか、と黙っているとまたノックの音が聞こえた。
「モネよ。入れてもらえる?」
外からはモネさんの声が聞こえてきた。
色々な意味で想定外だ。
モネさんが何故ここに…?
「はい、あの…先生はおりませんが」
「知ってるわ。彼じゃなくて貴女に用があってきたの」
「私に?」
なんだ?
何の用だ?
何か頼んでいたりは…してないと思うけど。
「鍵、開いてますのでどうぞ」
体を起こして乱れた髪を手櫛で軽く整えていると、静かに扉が開いてモネさんが入ってくる。
「ごめんなさい、お休み中だった?」
「いえ、ちょっと眠かったですけど。寝てはないです」
「あら」
ウフフ、と翼で口元を隠して上品に微笑むモネさん。
いつも思うけどなんかエロいんだよなあこの人。
妖艶っていうのかな。
初めて会った時は普通の人間だった彼女も、兵士さんや巡回部隊の皆さんと同じように先生の能力で新しい身体を得ていた。
当初から五体満足だったと思うので鳥人間になった理由は分からないが、彼女ならケンタウロスや羊足にされていてもきっと似合っていたことだろう。
そしてそんなモネさんはいつでも薄着。
タンクトップに薄手のパンツだったり、タイトなミニワンピースだったり。
確かに部屋の中は暖房がきいているが、それでも上に一枚羽織らないとどこか肌寒いし、廊下に出るならしっかり防寒しないと場所によっては外と同じくらい冷えていたりする。
雪国出身とかなのか。
それにしたって寒さに強すぎるけど。
「何か御用ですか?」
「そんな大層なものではないわ。お暇だろうと思って」
彼女は薄く笑って部屋にあるコーヒーメーカーを勝手知ったる様子で操作し始め、器用にカップを2つ持ってきて机に置いた。
「どうぞ。コーヒー飲める?」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言えばいいのか、困惑すればいいのか。
少なくとも何を勝手に、と怒る場面でないことだけはわかる。
恐らく前者どちらの感情も表に出ていたのか、またモネさんはくすりと笑った。
「そんなに警戒しないでったら。ただのガールズトークよ」
「ガールズトーク…」
「ええ。例えば…貴女歳はいくつ?」
「歳、ですか」
本当にただ世間話をしに出向いてくれたようだ。
少し拍子抜けする。
先生からの馴れ合い禁止令が出ている以上あまり下手なことは言えないがこれくらいなら…