「で?わざわざ何の用だ」
モクモク野郎が隣の眼鏡さんに顎で指示を出すと、今思い出したようにわたわたと電伝虫…私が知っているものよりもかなり小さく、黒い色をしているものを取り出した。
それが喋り出す。
かなりノイズが多いが…もしかしてこれが噂に聞く盗聴用の電伝虫だろうか。
聞いたことのある声で聞いたことのある名前を告げる小さい電伝虫。
「ルフィ」って…あのルフィさん?
元気いっぱいに自己紹介をかます声に、あの状態から精神に異常を来たしきる事もなく無事に回復したのか、と内心ホッとする。
がそれも束の間、もう一つの声がこの島の名を叫び、悲鳴を上げて通話が途切れた。
「島の名前…"寒い"という気候…声の主はこの島から信号を送ったことで間違いないのでは?」
確かにルフィさんではないもう一つの声は「寒い」と言った。
かなり切羽詰まった様子で「侍に殺される」とも…
侍、といえば…思い当たるのは最早1人のみ。
さっき先生がバラして全島にばら撒いたあの侍だろう。
次いでモクモク野郎はネチネチと先生とルフィさんの関係について問い詰め出す。
回りくどい。
はいそうですルフィさんとはお友達ですなんて言うと思ってるのだろうか。
実際お友達というほどの関わりがあるわけでもないが。
「要件は何だ。緊急信号の捏造はお前ら海軍の十八番だろう」
「残念ながらこの通信は
「どうだかな…おれも知らねぇ話は終わりだ」
「つまらん問答はさせるな。研究所の中を見せろ」
要は御用改といったところか。
海軍は先生を追ってきた訳ではなく、ルフィさん達を追ってきていて、彼らがここにいないかどうかを確認させろといっているのね。
でも残念なことに本当に知らない話だというところがこの件の肝である。
ルフィさんたちが上陸すれば大して広くない島だし、否が応でも気づきそうなものだ。
でも何も聞かない。
兵士さん達は確かに忙しそうだったけど恐らく侍やこの海軍の対応に追われてのことだったのだろう。
先生ははっきりと断り、シーザーからの指示通り追い返そうと試みる。
それでも何か言いたげにその場に仁王立ちしているモクモク野郎。
話は終わったというのに…しつこい人だ。
麦わらの一味もその持ち前のしつこさでここまで追ってきたんだろうか。
そんなに捕まえたいか、彼らを。
しつこすぎる男はモテないぞ。
じ、とこっそり見つめてみるが、すぐにその何倍もの剣幕で睨み返されたので慌てて目を逸らした。
怖い。
その瞬間。
「きゃあああ!」
「怖かったよ〜〜〜!!凍った人達〜〜!!」
「え〜〜〜ん!!」
背後から子供の声がした。
え、子供…?
ここに子供なんて…
振り返って目を凝らすも、外の雪でハレーションを起こしてしまって目が眩み、よく見えない。
「でも見てほら!扉よ!ここから出られる!」
「やった〜〜!」
今度は子供の声に紛れて女の人の声…?
眼鏡をかけた上に目を細め、暗闇をさらによくよく睨みつけた。
うーん見えない…
「やっぱり中に誰かいるじゃねぇか!」
「見ろ何だあの生物!」
あ、見え、
た。
その頃には再び先生の後ろに隠されていて。
同時に扉を乱暴に蹴り開く音が響いた。
「ハチャ〜〜〜〜!!外だ〜〜〜〜!!」
すぐ隣を何やら毛むくじゃらで丸っこい生き物が飛び出していく。
それに先ほどの声の主らしき女性、子供…にしては大きすぎる子供達、極め付けに謎のロボが続く。
「外…いや〜〜〜!寒〜〜〜い!!」
「やったぞーー!!」
「建物を出たぞ!お家に帰れる!」
「パパとママに会える〜〜〜!!」
「「「ス〜〜〜〜パ〜〜〜〜〜!!!」」」
いろいろな意味で一気に騒がしくなる正面入り口。
対照的に驚き、唖然とし、ただそれを見つめるだけの私たち。
何というカオスな空間。
白昼夢もいい加減にしてほしい。
高熱の時に見る夢って正しくこういうのなんだろうな。
開いた口を塞ぐことができずにいれば、ご一行は今の状況に漸く気がついたらしい。
「あ〜〜!あんた見覚えある!」
「そうだシャボンディ諸島にいたやつだぞ!」
相当寒いらしいポニーテールにビキニの女性が毛むくじゃらの丸い生き物にしがみつきながらこちらに向かって罵倒の言葉を投げつけてくる。
そんなこと言われたって子供いるのなんか知らなかったよ…
考えられるのはシーザーが実験の為に監禁していたという線だが、一体この子供達で何を…
先生はといえば、あまりの事態に言葉も出ない様子だった。そりゃあそうだ。
「運命〜〜〜〜〜!!!」
突然横から手を取られ、咄嗟に振り向けばそのまま両手を優しく包まれる。
「ひ、」
小さく悲鳴を上げても離されないその手。
…待ってこの人、
「おれのこと…覚えていてくれてますか、プリンセス?」
「さ…サンジさん…?」
「そうです貴女のサンジです」
髪の分け目は逆になり、髭も生えて若干雰囲気も変わっているがこのプレイボーイ感、シャボンディ諸島で私に大きな衝撃を与えたサンジさんに他ならない。
カッコよく決めているつもりなんだろうが目がハートになってしまっている以上どうにも決まりきらないところもあの時のままだ。
「やはりおれたちの出会いは運命…こんなところで名前さん、君に出会えるなんて…神が引き合わせているとしか思えない!」
そう思いませんか…?と蕩けるような顔で詰め寄ってくるサンジさん。
ちょっと処理が難しすぎる。
「……」
無言で困っているとそれに気づいた先生が無言で間に入る。
「おゥてめェどういう了見でおれと名前さんの奇跡の逢瀬を邪魔しようってんだァ!?」
「…これはおれのだ」
「あァ〜〜〜!!?」
「それよりあっちはいいのか」
先生が海軍の方を指差すと、やっとそれに気付いたサンジさんがご一行に指示を出し始めた、が、私はそんな状況ではない。
…今この人、お、おれのっていった……?
いや駄目だ違う、あの街での呑み会の日を思い出せ。
言葉通り所有物としか思ってないんだから違うそういうのじゃないから!
「いるじゃねぇか何が1人だ!」
「……いたな…今驚いてる所だ……」
とんでもない誤解をしそうになる心を密かに叩き直し、誤魔化すようにきっと眼光を鋭くして海軍の方を向いた。
「みんな!“麦わらの一味”を捕らえます!」
眼鏡さんの一言で、モクモク野郎の静止も聞かずにチンピラ達が捕縛に向けて動き出す。
そうか、先生も私も、先生が“王下七武海”だからこんな風に海軍と鉢合わせても穏便に済んでたけどあの人たちは別か。
にしてもあの船長にしてあのクルーありというか…個性が強すぎるな、1人1人。
迫り来る海軍を確認した先生は何か独言て、彼らの軍艦全て入る“ROOM”を展開した。
「“タクト”」
人差し指の動き一つで海ごと軍艦を持ち上げてみせる先生。
恐れ慄き慌て出すチンピラを背後に、モクモク野郎が背中に背負っていた獲物を手にした。
あれは十手…?
私が知っているものとはサイズ感がだいぶ違うけど…
「!?」
今一瞬煙を纏った…?
数回瞬きしてよく見るが、特に異常は見受けられない。
この人ももしかして能力者…?
葉巻の煙と見間違えただけなのか…
煙になるというのならこちらもまた自然系だろうか。
「そこにいろ」
「はい」
先生は短くそう告げて、私のいる正面玄関を背に海軍と向き合う。