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鬼哭を一振り二振り、それと“タクト”を駆使してみる間に半分の軍艦と周りの岩をくっ付けて豪快な建造物を作り上げる。
“ROOM”に入るものならなんでも斬り裂いて改造できると聞いてはいたが、まさか本当に岩盤をぶった斬れるとは…

海軍の逃走手段を奪った次、先生は私の後ろをちらと見やる。
騒がしく遠のいていく麦わらの一味まで“ROOM”に入れると、

「“シャンブルズ”」

何か彼らを逃さないような手を仕込んだようだ。
ここからだとよく分からない…
確実に何かはしたんだろうが、変わらず走り去っていく麦わらの一味ご一行。
その後ろ姿を見送り、再度くるりと海軍に対向した。

チンピラさん達はすっかり逃げ腰及び腰だ。
戦うつもりでこちらを向いているのはモクモク野郎のみ。
眼鏡さんすら戦うつもりはないのか刀を収めたままだ。
いや、戦うつもりはないというよりも、戦いたくても戦えないというところか。
七武海である先生に、海軍は手出しできない。
それはこちらからも同様だが、モクモク野郎が敵意剥き出しである以上、こちらとしても構えていないといつ襲いかかってくるかわかったものではない。

「くそォ!船がなきゃ基地にも帰れねェ!」
「“七武海”は政府の直属!お前おれ達に攻撃すんのは協定違反だぞ!トラファルガー!本部にチクってやるぜ!」
「称号剥奪だァ!」
「心配無用…」

先生はチンピラに向け、鬼哭を地面と垂直に構えると、横にゆっくりとスライドさせていく。
鬼哭を翳された幾人かのチンピラの懐がチカチカと光り、先生が何かを掴むような仕草をして私の方に空を放ると、光の数と同数の電伝虫が私の隣にぼとぼとと落ちてきた。

「え…あれ!?ねェぞ!」
「まさか…おれのも!」
「あそこにあんのおれ達のだ!」
「電伝虫全部盗られたァ!!」
「お前らがこの島で見た物全て、"本部"にも"政府"にも報告はさせねェ」

ちょっ…とびっくりしちゃった。
身内である故の贔屓目はありつつも先程から手口が鮮やかすぎる。
私がもうちょっと空気の読めない人間だったら拍手喝采してしまっているところだ。

こちらの動向を見て、七武海であれど捕縛対象と認識を改めたのかモクモク野郎が突如襲いかかってきた。
今度こそはっきりと、体を煙に変えて。
やっぱり悪魔の実の能力者だったのか。
獲物の先を先生に向けて素早く突きを繰り出すモクモク野郎。
それを弾いて避けて、鬼哭を大きく振るった。

「太刀筋に入るなお前ら!」
「は?」

いち早く危険に気づいたモクモク野郎はチンピラに向かって吼えるが、咄嗟の判断に甘かったチンピラ達は間抜けな声を上げてその場で固まってしまった。
1秒と置かず、"ROOM"の中にいたチンピラ達は斬り裂かれていく。
たとえ首と体が斬り離されようと、死にはしないどころか血液1滴だって出やしないし痛みすらないが、先生の能力はその場の混乱を巻き起こすには十分すぎた。
モクモク野郎が"ROOM"内から撤退するように声を張り上げているがパニック状態の今、その言葉は殆ど届かない。

「トラファルガーあなたがその気なら!」
「やめろたしぎ!お前の覇気じゃ受けきれねェ!!」

走り出した眼鏡さん。
モクモク野郎の静止は聞こえていなさそうだ。
案の定彼女も呆気なく上半身と下半身を斬り離されてしまう。
チンピラが騒ぎ立て、当の本人の闘志も消えずに半分になった体をなんとか支えながら踠き、叫ぶ。
彼女の刀が空を斬り、先生がまた大きく鬼哭を構えた。
チンピラが飛び道具で加勢するが、“ROOM”の中では無力だ。

「大佐ちゃん逃げろォーー!!」

為す術なくチンピラ同様に細切れにされてしまうかと思いきや。
鉄と鉄が強くぶつかり合う重い音が響く。
間にモクモク野郎が入ったようだ。
湧くチンピラ達。
かくいう私も少しおぉ、と思ってしまったのが悔しいところ。
今後はモクモク野郎改めモクモクと呼ぶことにしようと思う。
鬼哭と十手を鍔迫り合わせながら、腕を煙化させて先生の背後に回り、首を引っ掴んで地面に叩きつけた。

「先生!」

構えられる十手。
あれが先生に突き立てられたら…考えるより先に体が動く。
が。

「な、」
「確保ォー!!」

数m走ったところで近くに潜んでいたらしいチンピラの1人が私の腕を掴み、捻り上げる。

「痛、ちょっと、」
「よくやった!」
「離して!」
「ただの捕虜だ、悪いようにはしねぇよ」
「大人しくしとけばだけどな、ギャハハ!」

ーーーそう、ここで漸く冒頭の回想前のシーンに戻るのである。
つまり本来あんまり回想している場合ではない。
逃れようと暴れるうちに両腕を背中に回された。

「っく、」

踠いてみるも一応は訓練された男の力だ、超人でもない私が敵うはずがない。
的確な捕縛で肩も痛む。
まずい、何がまずいって今この状態を先生にバレるのがまずい。
戦闘中の先生の気を散らせられないし、何より手を煩わせるわけにいかない。
バレずにこの危機を脱しなくては。
私にできるか…いややるしかない。
いつも使わない部分の脳をフル回転させる。
まずは状況の確認。
私を捕らえるチンピラは…2人、いや3人。
万が一捕縛する手から逃れられたとしてもすぐ制圧されるだろう。
正攻法での突破は難しそうだ。
先生…は、モクモクと向き合っており、まだ気付いていない。

「スモやァーーん!!こっちは捕らえたんで一足先に撤退しまーーす!!」

…なんで折角バレてなかったのにわざわざデカい声出すんだ!
ほらバレたじゃんか!

「見りゃあ分かる!早く撤退しろ馬鹿共!」
「…っにやってやがる名前!」
「私は大丈夫です!!」

先生が私の方に向きかけるのとほぼ同時に叫ぶ。
一瞬動きの止まったその隙をモクモクは見逃さず、十手を振り上げ、僅かにこちらに偏っていた先生の意識がそちらに戻ったようだった。

「自分でなんとかします!」

先生はもう振り返らない。
返事もしない。
でもそれは突き放されたわけではないという事は今までの付き合いでよくわかっていた。