次に意識が戻ったのは医務室であった。
私を簡素な処置台に寝かせ、道具を揃えているところであった先生と目を合わせる。
「起きたか。気分は」
「大丈夫です。すみません結局…」
お前の卒倒にはもう慣れた、と呟きながら傷を診てくれた先生。
右の上腕と左の腿、気づいていなかったが頬にも小さな掠り傷ができていた。
頬は軽く創傷周辺の消毒だけで済ませて、上腕の処置に移る。
上着を脱ぎ、袖を捲って露わになったそれは縫うほどではないが、わりとぱっくりいっていて。
掠っただけかと思いきや割としっかりした傷を作ってしまっていた。
成程長距離用の銃で撃たれただけあるな、と変なところで感心してしまう。
そこも終われば最後は腿の傷だ。
流石に此処は自分でやると食い下がりに食い下がったが聞き入れてもらえず、泣く泣く先生に生足を晒す羽目になってしまった。
まだズボンを捲り上げれば診ることのできる膝に近い位置だったことが不幸中の幸いである。
因みに此処が一番酷く、あんなに先生の処置を拒否した私もいざ傷を目の当たりにしたら丸投げにして良かった、とすっかり掌を返すレベルであった。
本来なら縫ったほうが良さそうな傷ではあるが、先生は湿潤療法を選んだ。
縫合処置がない分時間も手間もかかるがこちらの方が跡を残さず綺麗に治りやすいからと。
一応女である私の身を案じてくれた…のかは分からないがガッツリ跡が残る方がいいか比較的目立たない方がいいかはどう考えても後者に決まっている。
処置が終わった後も少し痛みはあるものの、念入りな圧迫包帯法のお陰で無処置の時よりはるかに歩きやすくなった。
「ありがとうございます。先生は何処かお怪我されてないですか?」
「おれは大したことねェ。気にするな。それよりさっき麦わら屋に会った」
「本当ですか!お元気でしたか?」
「…まぁそうだな」
思い出すような顔をしながら言葉を選ぶ先生。
おいおい、ついさっき会ったんじゃなかったのか。
「あんな状態だったのに…よく元の健康な状態に戻れましたね」
「その辺りはジンベエやら冥王が絡んでいるんだろう。お前の事も探してたぞ」
「え、私を?」
先生はこくりと頷いて懐から何かを取り出し、私に受け取るように指示を出す。
言われるがままに伸ばした手のひらに乗せられたのは拍動を続ける心臓であった。
いきなりのことについ取り落としそうになる。
「、おわ」
「この間まで散々ジロジロ見ていじくり回してただろうが」
「いや急に渡されたら誰だってこうなります。これ誰のですか。ていうかさっきのルフィさんの話は」
「そっちは終いだ」
誰のか分からない心臓よりも、今は2年ぶりのルフィさんが謎に私を探していた、との話の方が興味を惹かれる。
そりゃ心臓も気になるけど…いやでもルフィさん…
…心臓…心臓…デケェな…肥大あるんじゃないのこれ…
いとも簡単に
完全に私の扱いを知り尽くされているようでちょっと癪に触る。
「そいつはさっきの海軍中将様の心臓だ。お前に任せる」
「中将様って……あのモクモク!?なんでですか!?色々と!」
「モクモクってなんだ」
「正しい名前知らないんで…」
「あのな」
先生は呆れた顔をしてモクモクについて説明してくれる。
彼の名はスモーカー。
現在海軍で中将の地位を得ている将校であり、グランドライン第5支部、通称"G-5"の部隊長に配属。
自然系「モクモクの実」の能力者で、体を自在に煙に変えることができる力を持っている。
なお、あのめちゃくちゃにデカい十手の先には自身も能力者でありながら、能力者の弱点である海と同等のエネルギーを持つ“海楼石”が仕込まれており、あれで一突きされれば能力者といえど一溜まりもないのだという。
それでさっき突きを繰り出しまくっていたのか。
ていうか名前「スモーカー」て…産まれた時からああなることを予測されていたかのような名前だ。
むしろそれに沿って生きてきたのだろうか。
キラキラネームを初めて目の当たりにした時のような感覚。
「…説明はありがとうございました。で、何故私があの男の心臓を管理しないとならないんですか」
だってそうだろう。好きか嫌いかで言えば圧倒的に嫌い側に寄る人間の生きた心臓を懐に入れて持ち歩きたい人なんているのか。
少なくとも私は嫌だ。
万が一があったらというのもある。
「これから先…少なくともこの島を出るまでの間はお前が管理していた方が何かあった時に都合がいい。いいから持ってろ」
「…分かりました」
結果的に答えになっているんだかどうだか怪しい説明で無理矢理首を縦に振らさせられる。
いいもん、どうせこうなるだろうなって思ってたもん。
あまり刺激しないよう慎重に仕舞い込む。
これ、実質私戦闘不能だな。