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行くぞ、と声をかけられ着いていくと、研究室ではシーザーが大層ご立腹で待ち構えていた。

「てめェ何て事してくれたロー!」
「文句があんのはこっちだシーザー」

暫し睨み合う2人。
口火を切ったのはシーザーだった。

「海軍はただ追い返すだけの手筈だったろう!何しっかりぶちのめしてくれてんだ!」
「こっちは追い返すつもりだった。奴らが現れたのが誤算だったんだよ」
「ああそうだ麦わらの一味!ガキ共も見られたらしいな…あいつらは?」
「さァな…少なくとも逃げられないような細工はしてある」

先生は喋りながらシーザーに近付き、もはやお馴染みとなったアレを手渡す。

「…ほぅ、海軍“G-5”中将スモーカーの心臓か」

え。
スモーカーの心臓って私が預かってるよね…?
それを見て目に見えて機嫌を良くするシーザーに悟られぬよう、こっそりと服の上から懐を確認する。
自分のものではない、2つ目の拍動が服越しに手に触れた。
…あるよね。
あれは誰の…?

「ロー、お前がスモーカーと一戦交えた挙句、ガキ共を海軍に見られたと聞いた時は肝を冷やした…これがあればある程度丸く収めることができる」
「麦わら屋の方はどうした?どうせお前からも手を回してあるんだろう」
「シュロロロロ、そりゃあそうさ…ガキ共は放っといてもここに帰ってきたくなるんだが、モネが十分注意しろと言うんでな」

先生とシーザーは私が分からない次元の話をしだす。
その間もシーザーの手元で弄ばれ続ける持ち主不明の心臓。
私が知らない間に誰かのものを抜いたのか?
もちろん私のではないし…もしかしてルフィさんのとかじゃないよね…?
いや、流石の先生といえどもそこまでは…
1人思索に耽っていると電電虫が鳴り響く。

シーザーが応答すると、“海賊狩りのゾロ”、“泥棒猫”、“ソウルキング”…
聞き覚えがあるようなないような、麦わらの一味の一部がシーザーが仕向けた刺客によって死んだという報告だった。
あまりに呆気ない話に呆然とする。
そんなものなのか、麦わらの一味。
そう思ったのは私だけではないようで。

「ね?ロー…よく知ってるんじゃない?2年前のシャボンディ、そしてマリンフォードで貴方は“麦わら”と2度関わってる」
「何?」

口を閉ざしたままの先生に、シーザーは怪訝に思ったのかピストルを向けた。
咄嗟に立ち上がりそうになる私を、先生が腕を掴んで止めた。

「お前が呼び込んだって事はねェよな?」
「…玄関ではち合わせるまであいつらが研究所に捕らえられてたなんて知らなかったと言ったろう。知ってたらおれが警告してやった…部屋に閉じ込めたくらいで安心するなと」

シーザーはこの研究所に居られなくなると危惧しているのだろうが、それはこちらにとっても同じだ。
麦わらの一味が上陸したことによって凪いでいた現状に波風が立ち始めている。
果たして無事にここを出航出来るのかどうかすら怪しくなってきてしまった。
シーザーは先生の言葉を聞いて不自然にニヤついた顔のまま黙考し、静かに構えた銃を下ろす。

「…まァ仲間を呼び込むならもっとうまくやるよな…わざわざ政府に媚びて“王下七武海”にまでなりこの島に来た男が話の拗れるようなマネするハズもねェ…」

先生と私を見渡し、またニヤリとするシーザー。

「常々思っていたが…よく躾けられた犬だ。精々大事にしてやんな」

私が銃に反応していたのに気付いていたらしい。
先生はそれには答えずに話を変える。

「さっきガキ共が放っといても帰って来ると言ったが…?」
「あァ…」

シーザーは愉悦に歪んだ顔で小さな丸を取り出した。

「毎日…ドラッグキャンディを与えてる。甘くてシュワシュワ覚醒ガスが発生する、シュロロロ…ウチへ帰っちゃ貰えねぇからなァ…」

ゾワ、と全身粟立った。
子供達を薬漬けに…?
何の研究をしているか知らないが、そんな非人道的なことが許されてたまるか。
ウチに帰っちゃ貰えない、ということは非合法的な方法で無理やりこの島まで連れてこられたのか、あの子達は。
それは果たして誘拐か…
シャボンディ諸島の「人間屋ヒューマンショップ」も頭を過る。
幼いあの子達もそれに気づいて麦わらの一味と行動していたのだろうか…
眉根を寄せて黙り込んでいる私を引き摺るようにして、先生は部屋を後にする。
シーザーが何か呟いたようだったが、扉が閉まる音に掻き消されて聞き取ることが出来なかった。

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カツンカツンと足音を響かせて廊下を歩く。
その足は裏口に向かっているようだった。

「…外行くんですか?海軍もいるし危ないですよ」
「……」
「私は…」
「……」
「…着いていきます、よ?」
「……」

先生は何も言わない。
一体どこに行こうというのか。
会話がないまま着いていくと、やはり裏口に辿り着いた。
吹き込む吹雪にも構わず、扉を開け放つ先生。

「ど、どこ行くんです?」
「…麦わら屋に会いに行く」
「ルフィさんに?何をしに?」
「……」

…あ、悪い顔の先生だ。
何か企んでるんだろうなぁ。
それにルフィさん達を巻き込む算段なんだろうなぁ…
ご愁傷様。
ルフィさん含め、一緒に巻き込まれる麦わらの一味にひっそりと黙祷を捧げる。

「そうかからねぇ。お前は中で待ってろ」
「分かりました。部屋で待機を」
「あぁ。誰も入れるなよ」
「はい」

そうして先生の背中が吹雪の中に消えていく。
完全に見えなくなってから扉を閉めて自分の部屋に向かった。

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