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最初に辿り着いたのは医務室だ。
どうやら子供達は薬が切れると相当な怪力で暴れ回るらしく、鎮静剤が必須とのこと。
移動しながらそれ以外の細かな話をチョッパー先生から聞いたが、そんなに大きな話になっているのなら通常の手当ての用意なんかもしておくべきだろうと思い立つ。
チョッパー先生には薬棚の場所を教え、私は目に入った医療用持ち出しリュックの中身を調べて必要そうなものを追加で突っ込んでいく。
包帯はもっとたくさん、綺麗なガーゼも…消毒液よりきれいな水の方が無難だがそんなものを持ち歩くほどの余裕はない。

「鎮静剤、他の薬も確保できたぞ!」
「こちらも終わりました。次にいきましょう」

慌ただしく部屋を飛び出して次に向かうは資料室。
そう呼ばれる部屋はいくつかあるが、薬学についての資料が多く置かれていたと記憶している部屋に入る。

「ここの何処かにあると思うんですが…」
「凄い量だ…手当たり次第に探す暇は本当は無いけど…」
「でもやってみるしかないですね」

軽く上がった息を整えながら本棚の端から一冊一冊記録ノートの中身を確認していく。
が、開始してすぐある法則に気付いた。
あの男は存外几帳面なのか、ジャンルごとにまとめてそれぞれタイトルの50音順に並べられているのだ。
ならきっとこの辺り…

「あった!」
「ほんとか!?」
「多分…中身確認してください。それっぽいの追加で探します」
「おう!……、…、うん、これだ!NHC10、成分名もあってる!」
「NHC10…」
「医療用覚醒剤の名前だよ、聞いたことないか?」

先生の持っている薬理学の本で見かけたことをぼんやりと思い出す。
使用許可が降りない限り、医師免許があっても使用が出来ないものだった…よな。確か。
いろんな新しいことを覚えられるのは嬉しいが、元々の知識と混在しがちなのが悩みどころ。
NHC10なんて医療用覚醒剤、元の世界では聞いたことがない。

「…先生の持っている本で読んだ気がします。承認の降りた医師しか使用できない、危険なものだと」
「そうだ!よく勉強してるんだな」

意図せず褒められてちょっと嬉しくなる。
先生もこれくらいナチュラルに褒めてほしい…
さっきの「褒め言葉」というよりも取り方によっては「ご褒美」に近いようなアレを思い出し、瞬時に掻き消した。

「ならこっちも、」

タイトルがN始まりの棚にあるノートを一気に全部引き出す。

「この辺から当たります。似たようなものが見つかったら渡すのでチョッパー先生はそちらを」
「お、おぅ!任せとけ!」

必要な情報をノートの中から見つけるのは恐らく私より彼がやった方が早い。
「NHC10」の単語が目に入ったものは全てチョッパー先生の前に積んでいく。
引き摺り出した全ての本の確認が終わっても、他にも紛れ込んでないかまた本棚のチェックだ。

「見つかった!ドラッグキャンディの構造!」
「ありました!?」
「これがあればもう大丈夫だ!ありがとう名前!」
「とんでもないです、むしろ私1人じゃできなかったですから」

ノートごとリュックに詰め込み、また次に向かうことに。

「次はどこに?」
「とりあえず必要なものは全部集まったから、子供達のところに行って一刻も早く治療にあたらないと」
「子供達…」

場所は分からないが子供部屋になるのかな。
メイン研究室より先には進んだことがないが、逆を取ればそっちにあるのだろう。

「あ、でも今子供達はー…」
「!」

喋りながら角を曲がると、メイン研究室の扉が開け放たれていることに気がついた。
急ブレーキをかけてチョッパー先生の口も塞ぐ。

「(え、おい、なんだ急に!)」
「(あそこ、シーザーのメイン研究室です。多分中に…)」

微かに聞こえる話し声。
あの特徴的な声はシーザー…知らない人の声も聞こえるが、モネさんもいて…

「うわァっ!!」

!!
突然聞こえた悲鳴のような呻き声に、つい足が動く。
理由はひとつ。
今の声、先生だ。

「(待て待て待て!)」

慌てたチョッパー先生に引き留められた。

「(今中から先生の声が!)」
「(確かに聞こえたけど本当にローか!?)」
「(でもモネさんの声もします、)」

先生は、モネさんを引き付ける為に別行動を取っていたはずだ。
そのモネさんの声がここからするということは…
考えたく無いが引き付けに失敗、もしくは引き付け中に何かトラブルに巻き込まれたということ。
チョッパー先生に制御されつつ、2人でそろりと中を覗く。

「口を慎め小僧がァ!!」
「うァア!!」
「っ!!」

やっぱりそうだ。
今にも動き出しそうな腿を握り締めて抑える。

部屋の中には大きな檻があり、その中に先生、ルフィさん、ロボと黒髪の女性、それにモクモクと眼鏡さんが鎖でぐるぐる巻きにされて捕らえられていた。
檻の外にはシーザー、モネさんと見たことのないサングラスをかけている長身の男性…その手の上には“心臓”。
あれは先生のものだと直感する。
あれを弄ばれて、先生はあんな叫び声をあげたんだ。
分かることはもうひとつ。
あれら全員があそこにいるということは、チョッパー先生から先程聞いた作戦の第一段階、「シーザーの誘拐」が失敗しているということで。

「(ど、どうしようルフィが捕まってる!フランキーも、ロビンもだ!)」
「(なんとか助けないとですけど、…)」

助けたい気持ちだけが先走ってもどうにもならない事を、私はこの数ヶ月間で…いや、今日1日で嫌というほど理解した。
さっき海軍に捕まった時と同じだ。
こういう時ほど冷静に。
周囲をよく見渡して、何か状況の解決に繋がるものを探す。