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檻の外にいる3人は先程のチンピラ海軍とは訳が違う…出し抜いてどうこうは無理だろう。
こちらは2人。
何かするならどちらかが囮になってその隙に助けるくらいだけど、そんなにうまくいくはずがない。
策を練っているうちに部屋の中では何か動きがあった。

どこからか映像電伝虫が現れて吹雪が吹き荒む雪の大地が投影される。
画面の真ん中には超巨大キャンディ。
シーザーが電伝虫を手に、高らかに語り出す。

「現在炎の土地より散り散りに飛んで来た「スマイリー」の分身…「スマイリーズ」が土地の中央に向けて集結しつつある。やがて彼らがこの氷の土地で合体し、再び「スマイリー」となった時実験は始まる…」

言葉を続けながらも、映像は吹雪の中の超巨大キャンディのみを映し続けている。
変わったところは特に見当たらない。

「「スマイリー」は4年前にこの島を殺してみせた毒ガス爆弾の“H2Sガス”そのものだ!」

4年前にこの島を殺した毒ガスそのもの…?
一体それはどういうことだ?
この島に上陸する前に先生から聞いた話がフラッシュバックする。
4年前に起こった暴発事故で毒ガスが島中に充満して…自然は全て死に絶え…残っていた囚人達は皆その餌食に…

「前回の問題点は「毒をくらった者達が弱りながらも安全な場所へ避難できた」という点だ」

問題点?それではまるで暴発事故はシーザーが己の実験のためにわざと起こしたかのような…
シーザーがひとつ言葉を発するごとに、着実に話がひとつに繋がっていこうとしている。
もしかして、シーザーは…

「スマイリ〜〜っ!会いたかったぞ!3年振りだなァ!!」

およそその場に似つかわしくない大きな歓喜の声にハッとしてスクリーンを注視すると、そこには超巨大キャンディを包み込む赤い透明な何か…よく見ればウーパールーパーのような形をしている。
そうしてそのままひと鳴き、ふた鳴き。最も大きなさん鳴き目。
様子が変だ。
ひとつ踠く度に、だんだん外側から溶け崩れている…?

「さぁ生まれて来い…殺戮兵器“シノクニ”…!島の景色を一変させちまえ!!」

瞬間。
かろうじてウーパールーパーの形を保っていた赤いどろどろは一気にその姿を紫色の煙へと変化させた。
赤いどろどろ“だったもの”は恐るべき速度で地を這い進み、周辺のものを全て飲み込んでいく。
アップで映った兵士さんの1人が、逃げきれずに煙に取り囲まれる。
次に移った時は、まるで石膏像のように変わり果てていた。
その様子に一瞬、肺が凍りついたかのように呼吸が止まる。

「やったぞ成功だァ!逃さねェぞもう誰1人…!シュロロロロ!!これでいいんだ!!」

当のシーザーは至極嬉しそうに声高く笑い声をあげる。

「毒が効いても多少動けるから避難できた…!固めちまえばよかったんだ!灰の様に体に纏わりつくガスは皮膚から侵入し全身を一気にマヒさせる!!シュロロロ!さァもっと見せろ!!地獄絵図を!!」

思わず声が出そうになるのを、下唇を噛んで懸命に堪える。
血の味がするがそんなことに構っていられる余裕はない。
その後も次々と兵士さん達は飲み込まれ、次々と白い像が出来上がっていく。
耳を塞ぎたくなるような悲鳴、断末魔、“Mマスター”への必死の願いを残して…

何が有能な科学者だ。
何が救いの神だ。
結局全て彼の掌の上…彼の実験の駒なのではないか。
防ぐ術のない毒ガスの侵攻に恐れ慄き翻弄され、助けを求める部下達を見て嗤っている。

もう何も見たくない。
何も聞きたくない。
両手で耳を塞いで目を背けようとした、その時だった。

ガ…コン…

「!」

壁の一部が開き、先生たちが入れられた檻がゆっくりと外へと連れ去られていく。
嘘でしょう。
血の気が引く思いだった。
こうなればもうなりふり構ってはいられない。
チョッパー先生を振り返れば、彼も私としっかり目を合わせて頷く。
あの網さえ破れれば…
体制を整え、いざ突撃しようとした瞬間。

ぽこんと間抜けな音を立ててチョッパー先生の帽子に何かが投げつけられた。
まさか感づかれた!?
研究室内を慌てて見返すも、全員が投影された映像の方を向いており、こちらに気付いている様子はない。
チョッパー先生が、投げつけられたもの…丸められた紙をそっと広げる。
そこには、「なにもするな」の文字。

「(…これ、)」
「(誰だ…?)」

檻の中の人物たちはもとより、外にいる人物たちすらこれを投げた気配はない。
なにもするなというのは、先生たちを助ける為に動くな、もしくは動く必要はないという捉え方であっているのだろうか。

「(…名前)」
「(、はい、)」
「(おれちょっと研究室の中に潜入して、足りない最後の1ページを探してくるよ)」
「(最後の1ページ…?)」

チョッパー先生はこくりと頷き、研究室内の然程遠くない場所にあるデスクを差した。

「(さっきの研究ノート、あれだけあればと思ったけどいちばん大事な部分だけが抜き取られてたんだ。きっとあの書類の山の中にある。すぐ戻るから)」
「(そんな、危険すぎます!)」
「(大丈夫、やり遂げてみせる。いつでも逃げられるようにだけ構えておいてくれ。万が一何かあれば…その時は急いで子供達の元へ)」

チョッパー先生は背負っていたリュックを下ろして私に手渡してきた。
彼1人危険な目に遭わせるのは到底納得ができないが…
モニターに映る映像や、先生たちに気を取られている今がチャンスだし、彼の方が小さく、奴らの視界に入りにくいのは確か。
不承不承、リュックを受け取った。

「(充分気をつけて)」
「(ああ。行ってくる!)」

チョッパー先生が抜き足差し足、忍び足の代わりに猛ダッシュでデスクに向かうのを見て、私は身を隠しながらまたモニターへと視線を移す。