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!ちょっと痛い描写があります。
苦手な方はご注意を!


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慌ててモチャを乗せ、まだ自由には動けないチョッパー先生を抱き上げて一緒にタンカーに登る。
あと少しなのに脇腹の傷が引き攣ってうまく登れない。
後ろからも人が来てるし、急いで登らないとなのに…

「…く、」
「上に着いたらまず診るからな!」
「分かりましたってば…!」

ふと上から伸びてきた手に気づき、見上げるとそこにいたのは、

「早く登れ。閊えてる」
「せん、せい」

どこか安堵したような表情の彼とは、半日も離れていないのに何故か酷く久しぶりに顔を合わせたような気がする。
こちらもほっとした気持ちでゆるゆると手を伸ばせば手首をがっしりと掴まれて一気に上まで引っ張り上げられた。

「ま、っ……!!」

言わずもがな激痛が走る。
再会の喜びも何もあったものではない。
脇腹に傷を抱えた方の腕を伸ばしたせいで、それを引っ張られれば千切れそうな痛みが発生するなど決まりきっている。
包帯が巻いてあったとて同じことだ。
伸ばす方の手を間違えた…がチョッパー先生抱いてたからどうしようもなかったわ。
後ろの人たちが入れるように少し移動をするが、最早声も出せない。
目に見えるほどの脂汗を滲ませ、死にそうな顔で這うように移動をしてそのまま蹲る私を見て、先生が訝しげな顔をした。

「うわあああ名前ー!!」
「かっ…らだ千切れてないですかこれ、くっついてますか、」
「辛うじてな!早く診せろ!!」
「おいトニー屋、何の話だ」
「お前のせいで名前が2つになるとこだったんだよォ!」
「は?」

チョッパー先生が泣きながら動かせるようになった腕を動かして処置の準備を進めていくのを見て、先生が無言で近づいてくる。
…あーやだなんかやだこの流れ。
すっごい不機嫌な顔してるやだな。
だがしかし逃げ回るほどの気力も体力も空間もないので甘んじて受け入れるしかないのである。

「診せろ」
「いや今チョッパー先生が用意してくれてるんで…」
「チョッパー“先生”だ?」

ピキリと額に青筋が浮かんだことにより、ただでさえ苛立っている様子の彼の地雷を華麗に踏み抜いたことを悟る。
てかそこかよ地雷。
さては自分の手技に圧倒的なプライドを持っていてセカンドオピニオンとか許さないタイプの医者だな?
うちの上司に居なくてよかった。
今上司だろとかの正論は受け付けない。

「だって彼もお医者さんですから」
「お前の“先生”はおれ1人だろうが」

聞きようによってはドキっとする人もいるかもしれない。
だが生憎私はこの曖昧な感じには慣れつつある。
寧ろ強制的に衣服を持ち上げようと裾を掴まれたことに別の意味でドキッとしている。

「ちょ、先生ってば!」
「お熱いねェトラファルガーさんよォ〜!」
「隣でご相伴に預かってもいいっすか!」

ここぞとばかりに野次馬しに群がってくる状況の読めていないチンピラ達と、一部麦わらの一味。

「……」

が、先生の鬼のようなひと睨みで蜘蛛の子を散らすように解散する。
チンピラ達にはスモーカーからのゲンコツ付きだ。

思いの外優しく捲り上げられ、外された包帯の中には、自分の横腹ながら目を背けたくなるような惨状。
肉が痛々しく裂け、圧迫を解いたことによりまた鮮血が滲み始めている。
周りの皮膚は赤黒く変色し、腫れ上がっていた。
一言で言えば、グロい。
交通事故に巻き込まれた等でこういう傷もこれ以上のものも見たことないわけではないが、やっぱりグロいもんはグロい。
自分の体だからだろうか。
傷を診る先生が絶句したのが分かった。

「…これはいつの傷だ」
「……どれくらい前だったっけな…」
「塩塗り込むぞ」
「鬼!思い出してただけです!」
「子供達を追った先のビスケットルームで鳥女にやられたから…2時間も経ってねぇんじゃねぇかな」
「あの女…派手にやってくれやがって…」
「一旦出血だけ止めようと思って圧迫したのがホントについさっきだ!20分前くらい」
「成程な。あとは…周辺が凍傷にもなりかけてる。これは何したんだ」
「受傷後にモネさんの雪に捕まったからそれかな…じゃなくて待って、2人揃って症例検討会議みたいなのやめて下さい。他にも怪我人たくさんいるんですから何方かそっち診てもらっていいです?」

そう、私は怪我してるとはいえこれだけ口が回るほど元気なのだ。
先生を見て気が弛んだというのも勿論あるけれども。
もっと重症な人は恐らくいるだろうし、何よりモチャをずっと放っておきたくない。

「トニー屋、こいつはおれが診る。うちのクルーだ」
「分かった!じゃあおれは他のやつらを順番に診ていくことにするよ。モチャも診なきゃだし…器具良かったら使ってくれ」
「あぁ。助かる」

私から離れ、他のみんなの様子を少々覚束ない足取りで見にいくチョッパー先生。
私もあっちが良かった…!
だって今の先生消毒だとか言って本気で塩塗り込んできそうなんだもん!

「何故すぐ処置しなかった。トニー屋が近くにいたんだろう」
「よし出発するぞー!」

器具を見繕いながら先生が声をかけてくる。
同時に、全員乗り込んだらしくタンカーが激しく揺れながら動き始めた。

「…チッ、処置を始めようって時に」
「いや脱出が第一ですよ今は。…途中で診てくれるって話にもなりましたけど、その時はモチャが重体でした。私は大人だし、このまま放置さえしなければ簡単には死なないけど、モチャはまだ子供です。それに急性薬物中毒。どう考えてもそっちが優先でしょう」
「……」
「それに私は先生に会えさえすればきっと何とかしてくれるってあてがありましたから、とりあえず止血だけと」
「……阿呆」
「出た阿呆呼ばわり」

とはいえ、彼が心配してくれているのは珍しく良く伝わった。
多少の暴言も今は目を瞑ろう。

「誰か火持ってねぇか」
「火と聞いて!おれのライターを」
「お前のは却下だ。白猟屋、火ぃ貸せ」
「なんでだァ!テメェコラ!!」

さっき腹チラ万歳と野次馬しようとしてたのを忘れたんだろうかあの人は。
先生はスモーカーが差し出したオイルライターで器具を炙って簡易的に火炎滅菌をし始めた。
うわぁすごく嫌な器具持ってる…

「…先生…デブリ、する?」
「当たり前だ」

泣いても良いかな。