あと数人でオペが終わる、という時。
ふと、外の光が差し込んできた。
何事かと扉を振り返るとそこには、
「チョ「人殺し〜〜〜〜〜ィ!!」…パー先生」
オペを覗いてしまったか…もんどり打って転がりながら部屋を出て行き、外でも叫んでいるチョッパー先生。
これを見たらまあそうなるか…最後の1人をオペを終え、“ROOM”を閉じて振り返る先生。
「何事だ」
「覗いちゃったみたいで…」
「ロ〜〜〜!出て来いロ〜〜〜〜!!中で何をしてる〜〜〜!!」
どんどんと扉を叩く音。
先生が鬱陶しそうな顔をして外へ出ていく。
「お前一体子供達に何をしたァ!もしもの事があったらお前ェ!!」
泣き怒りの声で彼が吼え、先生が一言二言返事を返すと叫びながら部屋の中に走ってきた。
「あーっ!たぬきちゃん!」
「たぬき君ーっ!!」
「み…みんな無事かー!?」
「今先生のお兄ちゃんが体の中の悪い薬取ってくれたんだよー!コワかったけど何だかスッキリした!!」
「おなかすいたー!!」
口々におもしろかった、と溢す子供達に、ホッとしたように息を吐き出すチョッパー先生。
「名前お姉ちゃんが手繋いでてくれたから怖くなかったんだよ!」
「そうか…名前、ありがとな!」
「いえいえ。私のことよりチョッパー先生、モチャを」
「あ!そうだ、モチャは…」
「まだ目を覚まさないんだ…」
「モチャ、ぼくらの為に戦ってくれたんでしょ?」
彼は不安そうな声をあげる子供達を元気づける。
医者としての患者のメンタルケアはチョッパー先生の方が上手だ。
次第に他の麦わらの一味を探し出す子供達だが、そこに現れたのは海軍の眼鏡さんで。
「こんにちは!ここから先は私達海軍が皆さんのお世話をします!」
「えー!」
「やだー!」
そういう話になったのか。
チョッパー先生から聞いた感じだと此方で送り届けるかと思っていたが、そういう訳にもいかないか。
海賊と海軍じゃ一般のご家族からの信頼度も違うし…
早速ブーイングの嵐に翻弄されている眼鏡さんに向かって黙って最敬礼し、オペの片付けに手をつけた。
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…が、どうしてこうなった。
片付けを完了させて部屋を出ると何故か始まっている大宴会。
な、何これ。
海賊も海軍も関係なく、飲んで騒いでのお祭り騒ぎだ。
現状に到底理解が及ばず立ち尽くしていると、
「名前ここにいたのか!」
「チョッパー先生」
「下で探されてたぞ?」
「本当ですか」
チョッパー先生が現れた。
言わずもがな、モチャの様子を見にきたんだろう。
「あの…下で何が」
「サンジが滋養にいいスープ作ってくれたんだ!そしたらいつの間にか宴に」
「あぁ…」
「いつもの事だよ。ルフィがいるんだし」
「はぁ…」
いつもの事なんだ…
部屋に入っていくチョッパー先生を目で追えば、唯一部屋に残っていたモチャの枕元へ。
バイタルチェックを始めるが、相変わらずその目は固く閉ざされたままで。
私も部屋に入り扉を閉め、彼の隣にしゃがみ込む。
外からうっすら聞こえてくるどんちゃん騒ぎと打って変わって、部屋の中はひどく静かだ。
「……モチャ」
試しに小さく声を掛けてみるが、規則正しく寝息を立てるばかり。
「……………おれの、せいだ」
黙ったままだとばかり思っていたチョッパー先生が静かに口を開いた。
悔しそうに目を伏せて歯を食いしばり、手を強く握っている。
「おれが……おれがキャンディを守れなんて言ったから…!」
「そんな…」
「おれがあんなこと言わなければ、モチャはこんな無謀なことしなかった…!」
自分の発言を激しく後悔し、大粒の涙を落とすチョッパー先生。
震える肩を見て、果たして彼って一体幾つなんだろう、と場違いなことを考える。
あれだけの医療知識のある立派な医師で、患者に対してこれだけ強い責任感を感じる彼だが、こうして見ているとまるで
小さな背中にそっと手のひらを置く。
「…なんて言ったらいいのか……ごめんなさい、口下手で」
「いや…いいんだ、寧ろごめんな。気を遣わせて」
「いえ…モチャは確かに無謀な事をしました。でも、ただ子供達の手に渡らないようにするなら何処かに隠してしまうとか、ダストシュートから集積場に落としてしまうとか、もっと言えば外に投げ捨ててしまうことだって出来たはずです。でも彼女はそれをしなかった。彼女なりになんとか守らないと、って考えて起こした行動への責任は、誰にもないはずですよ」
「名前…」
「それにチョッパー先生の的確な急性期処置と、うちの先生のオペとが施されてるんです。絶対に目覚めます。断言できます」
「…そうだな、」
私を見上げてふひ、と泣き笑いを洩らすチョッパー先生。
ぐしぐしと涙と鼻水を拭き始めた。
「………、…?」
「あの、あんまりゴシゴシ拭くと毛がかぴかぴに、………、せ、んせ、」
ティッシュを取ろうと立ち上がる。
目線の先には、顔を起こしたモチャ。
震える声で彼を呼べば、彼もその姿をしかと視界に入れていて。
「う、うぅっ…モチャあ!」
大号泣しながら自身に縋りつくチョッパー先生を抱き止めながら、モチャははにかんだような笑顔を見せる。
よかった…本当によかった…!!
「モチャ、具合はどう?気持ち悪くない?痛いところは?」
「名前お姉ちゃん…全然平気だよ!大丈夫!ちょっと頭がぼーっとするけど…」
えへへと笑うモチャに、私も涙腺が弛む。
「みんなもね…元気になったから。まだこれから治療が続いていくとは思うけど、みんなでお家に帰れるからね」
「本当!?そうだ、みんなは!?」
きょろきょろと辺りを見渡す彼女。
みんなのところ行きたいよね。
「みんなお外にいるよ。行こっか。チョッパー先生、落ち着いてください」
「お゛っ…お゛ぉ゛う……よ゛がっだぁ……モ゛チャぁ゛…!!」
「あはは、チョッパーちゃん泣きすぎだよ」
最早何を言っているか聞き取れない。
必死に涙を拭うチョッパー先生を手の上に乗せたモチャと一緒に部屋を出る。