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「2人きりとか、艦に戻ったら戻します。私にも私なりの気の持ちようがあるので」
「それなら尚更いいだろうそのままで」
「良くないです。いいんですか?せんせ…キャプテンは。他人からあの2人はってコソコソされるんですよ」
「言わせとけばいい」
そう言うとは思っていたが。
真面目な日本人気質の私がえっちなのはいけないと思いますと私の中で声高に叫んでいるし、それに何より、それを取るに足らない些細な事だとする彼の態度に、私自身無駄に勘違いしたくない。
私とそういう関係だと思われても構わないと思っているということはつまり…ああなってこうなったって…あぁ、考えすぎだしあまりにも烏滸がましい思考。
「とにかく、人前ではそうさせてもらいます。口走る可能性はゼロじゃないですけど…頑張って矯正するので」
「………」
深い溜息の後の黙りだ。
この子供が駄々を捏ねているかの様な態度、“先生”呼びへの執着がそれなりにあるように見えて。
さっきの烏滸がましい気持ちが再び頭を擡げ始めたのを鎮めるように、残ったスープを一気に啜って立ち上がった。
漸くお開きとなったのか、宴会の騒ぎも下火になっている。
先生も隣で立ち上がり、移動を始めたので私も雛鳥よろしくその後を着いて歩いた。
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「…ーー大人になったら僕たちきっと!」
「「「海賊になるよーーっ!!」」」
「「「なるなァーーっ!!」」」
とうとう訪れた子供達との別れの時間。
チンピラ達によってそんな惜別の時も妨害されていたが、そのチンピラ達こそ無念の別れと思ってくれていたようで。
軒並み瞳を潤ませた子供達の顔が漸く見え、此方も涙を滲ませながら大きく手を振りかえす。
海軍によって数年越しに帰路を辿り出した子供達。
無事に全員親元に帰れるといいな。
あの眼鏡さんがいればきっと大丈夫だろう。
もう既に背を向けている先生に駆け寄り、隣に並ぶ。
「この後どうするんですか?」
「麦わら屋の船に同乗して移動する、が…お前、は…」
「え?…あ、待って全然話違うんですけど荷物島内に置いてきちゃいましたどうしましょう!?沢山勉強したのにノートとかも全部、」
「…さっき回収してもう積んである。落ち着け」
「流石せん…キャプテン!」
「………」
忙しなく色んなことで焦り出す私に無言で顳顬を押さえる先生。
悩み事だろうか。
呼び名の件は置いておくとしても、その前にも何かひとつ言いかけていたような…
「…これからの行動に関しては後で…いや、まずお前をどうするか…また少し考える」
「…?私を…?」
私をどうするかって…それはどういう事だ。
もしかしてクビ…!?
いや、クビにされるような事に心当たりは…
…な、い。
少々歯切れ悪くはなりつつ、それは断言できる。
だってクビになるならもっと前に幾つもタイミングはあったのだから。
いいことから最悪の事態まで考えられる「どうするか」について内心首筋が寒い思いで可愛い船首のついた麦わらの一味の船に乗り込む。
「!」
甲板が芝生敷きだ。
踏み出した足の下からさく、と小気味良い音が聞こえる。
「お?お前…あん時のあいつか!?」
突然、死角から何かが伸びてきた。
吃驚して2歩ほど下がってよく見ると、それはルフィさんの顔だった。
「こ、こんにちは。お世話になりまっ、」
「トラ男んとこのもう1人ってお前か〜!クマじゃなかったのは残念だけどおれお前に礼言わなきゃいけなかったんだよ!あの時はありがとうな!ところでお前名前なんてーんだ?」
背中を容赦なく叩かれ、お礼への返事も返せないし、トラ男なんて可愛いあだ名を死の外科医につけたのは貴方が初めてです、というツッコミすらさせてもらえない。
「辞めてやれ。返事もできてねェ」
つんのめって倒れそうになったところを先生が支えてくれた。
「さ、とっとと出航するわよ!戯れるのは後!あんたも手伝いなさい」
最後に乗り込んだポニテビキニさんに肩を叩かれる。
「あ…と、ウチ帆船じゃないので何したらいいかわからないんですが何したらいいですか?」
「そうかあんたんとこ潜水艦だったわね…じゃあちょっとゆっくりしてて。トラ男くん…はあれ?今までいたわよね?」
「あれここに…本当だ」
つい今まで私の背後にいたというのに、もういなくなっている。
他人の船の上ですら放浪か。
私がやったら迷惑かけるなって怒るくせに。
「船から降りたりはしてないと思うんで、お気になさらず」
「お気になさらずっていうか…ま、いいわ」
出航!と声が上がり、頭上で大きな音を立て、帆が広がる。
いつもは見ない光景に物珍しさもあるが、これぞ船という感慨深いような気持ちも相まって、食い入るように見入ってしまう。
風を受けた船はゆっくりとパンクハザードを発った。
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