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風に押されて海面を滑るように走る麦わらの一味の船。
その船上ではひとまず落ち着いたとして仕切り直しの自己紹介が繰り広げられていた。

「おれはルフィ!海賊王になる男だ!あん時はありがとな!」

無邪気な笑顔で今度はバシバシと肩を叩かれる。

「いえあの…お気になさらず」
「あん時って?」
「トラ男に助けてもらった時こいつもいたんだよ!なんか色々看病してくれたってレイリーに聞いた!ありがとう!」
「そうだったのね…私はナミ。この船の航海士よ。よろしく。ルフィ、叩くのやめなさい」

そろそろ肩のバシバシやめてくれないかな、と思っていたところに救世主だ。
にっこり微笑むポニテビキニさん。ナミさんというそうだ。

「面倒だから簡潔に纏めるわね。それがゾロ、それがウソップ、そっちがブルックであっちがフランキー」
「うォォい!!簡潔なんてもんじゃねえな!!」
「チョッパーとサンジくんは知ってるのよね。で、そこにいるのがロビン」
「宜しくね」

手を軽く上げて微笑んでくれる黒髪さん。
えーと、彼女がロビンさんで、今大欠伸した緑髪剣士さんがゾロさんで、雑な扱いにツッコんだ長鼻のお兄さんがウソップさんで、骨がブルックさん、ロボがフランキーさん。
人数が少ない上に、各々の主張が激しいのですぐに覚えられそうだ。

「で、あんたは?」
「あ、私…は、ハートの海賊団所属看護師、苗字名前と申します。不束者ですが宜しくお願いいたします」
「苗字…名前?」

端で静観していた件の“侍”がおずおずと口を開いた。

「え…はい。何処かでお会いしましたっけ?」

何とも惚けたことをいう口だ、と我ながら思う。
会ったことなどある筈がないのに。

「いや…そうではないのだが、お主もしや我らと同じワノ国出身でかはござらんか?」
「え?」
「その上高貴な身分なのではとお見受けしたが」
「「「…え?」」」

出し抜けに何を言い出すんだこの侍。
俄にざわつきだす船上。
高貴な身分?…何を持ってして?

「高貴な身分…って、」
「やっぱり名前さんはお姫様だったんだねェ〜〜!!」
「…お前高貴な身分だったのか」
「いや違いますけど…」

揶揄うような口ぶりでニヤニヤしだす先生をちょっぴりねめつける。
そもそもワノ国とかいうところの出じゃないことだけは確実であることは分かっているくせに…
高貴な身分…もしかして、苗字のせいか?
ワノ国ではどうか知らないが、確かに昔の日本では苗字はそれなりの地位を持っていた人物にしかついていなかった筈だ。
何から何まで日本と繋がりのあるワノ国、一体どんな国なんだ。

「多分違うと思います。私の産まれた国だとみんなこういう名前なのが普通だったので…」
「そうであったか看護婦殿、それは失礼した。拙者は名を錦えもんと申す!こっちは息子のモモの助でござる。よろしく頼む」

改めて聞けば時代劇でしか見ないような仰々しい喋り方。
息子だと紹介されたモモの助くんも、幼いながらきちんと丁髷だ。
見れば見るほど不思議が募る。
本当に私たちの世界と関わりないんだよね…?
まじまじと侍達を見つめていれば、船が急に斜めになった。

「わ、」
「何!?」

“海坂”だ。
潜水しているとそこまで影響を感じないが、上に浮いているとここまで斜めになっている感覚があるのか…
途端にテキパキと指示を飛ばし出すナミさん。
流石だな航海士。
ルフィさんは船首に乗っかり、嬉しそうに声を上げている。

「ナミー!どこだっけ今から行く場所」
「“ドレスローザ”っていう場所。このまん中の指針をまっすぐ進まず、遠回りに辿れってトラ男くんが」

ん、ドレスローザ…?
ゾウじゃないの?
しかもドレスローザって聞いたことあるぞ。
そこって確かドフラミンゴが王を務めてるって国じゃ…
先生をすと見上げるも、此方を一瞥するのみで何も教えてくれない。

「そうだ作戦教えろ!よしみんな集まれーっ!」

ルフィさんが嬉しそうにみんなを集め出すが、急に頭が冷える感覚に陥った。
そういえばそうだった、という風に集まってくる皆さんは“作戦”とやらを多少は理解しているようで、私だけが蚊帳の外にいるような気分だ。

むくむくと黒い感情が頭を擡げる。
これは一体なんだろう。
怒りではない、悲しみでもない、嫉妬とも少し違う…
幼い子供が意味もわからず仲間はずれにされてむくれている、というのが何気に一番しっくりきてしまって。
爪弾きにされたような、除け者にされたような…
こんな時ばっかり言葉を探すのが得意な私の頭は、あっという間に正解を導き出してしまう。

ーー…これは、“戦力外通告”だ。