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ナミさんと先生はどうやら何かで揉めていたらしい。
理由はよくわからないけど、仲直り(?)をしたようなのでこれで万事解決だろう。
直後、シーザーの手当てを終わらせたチョッパー先生が声をかけてきた。

「名前ごめんな、すっかり忘れてたんだけどお前大丈夫か?」
「何がですか?」
「輸血。するか?」
「ゆけー…」

その単語にはっとする。
ひとつは、そういえば少し前に卒倒したことを思い出して。
もうひとつは、すぐ隣から寄越される射るような視線に気付いたからだ。

「輸血?」
「いや、なんでもないです」
「どういうことだトニー屋」
「なんでもないですって!」
「さっき腹の傷に圧迫かける前に一旦倒れたんだよ。だから止血するぞって話になって」
「名前……」
「もう元気ですから!」

食い気味に否定をする。
ほんの一瞬の出来事だったアレは後を引くことなくあの一回のみで終わっていた。
ただ倒れたとなれば心配は集めてしまうもので。

「倒れたの!?」
「輸血しとけよ、ストックならまだあるだろ?チョッパー」
「ああ、あるぞ!血液型はなんだ?」

周囲から固められて輸血せざるを得なくなりそうな雰囲気に、おろおろと視線を彷徨わせる。
此処まできて今更針が怖いなどとは言わないが、この船の輸血ストックを頂いてしまうのが申し訳ない気持ちが大きかった。
各々自己血を定期的に採取しているのだろうけどそれにしたって長期保存できるものではないし、船旅では足りないタイミングで急遽用意できるものでもない。

「血液型…は、Aですけどでも、」
「A…?」

その場にいる皆が揃って首を傾げる。
そのまま言葉を続けようとしたが、その異変に気がついて慌てて口を閉じた。
そうだ、血液型違うんだった。

「Aって…聞いたことないぞ?」
「そんなんあったか?」
「え、えーっと!えーっとのエーです!えーっと、何だったかなー血液型!私検査してないんですよね!」

遅れて無理矢理にはぐらかしている私を、訳を知る先生のみが呆れた顔で見ていた。

「検査してないのか…じゃあしょうがないな。でも何があるか分かんないから見といた方がいいぞ?」
「艦に戻ったらそうします、なので今回は大丈、ぶ…」

検査をしていないのはこの世界においても珍しいことではないらしい。
なんとか輸血なしでやり過ごせそうだが、それを隣にいる自船の船長兼船医がそれを簡単に許してくれるかどうか…
ちろと上目遣いに先生を見れば、さっきの呆れた顔のままじとりと見下ろしてきていて。

「……」
「な、なんですか」
「今はなんともねぇのか」
「全然」
「絶対だな」
「はい!」
「ならいい。また悪くなれば言え」

交差適合試験クロスマッチでも何でもして輸血しろ、とでも言われると思っていたので予想外の諦めの良さに肩透かしを喰らう。
勿論そちらの方がありがたいので良いんだけど。

「なんだその顔」
「…なんでもないです」

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不思議と近くに聞こえる波の音に揺り起こされる。
目を擦りながら女部屋の大きなベッドの上で上体を起こすも、隣で眠るロビンさんを始め、その向こうのモモくんとナミさんも未だ夢の中。
傍の時計を見ると時刻は深夜3時。
眠りについてからまだあまり時間が経っていなさそうだ。

あの後、突如として降り出した霰や極大の雹をまさかの船ごと飛んで逃げたり、モモくんと一緒に船内の案内を受けたりしながら時を過ごし、お風呂をもらったあとにナミさんに誘われて女部屋にお邪魔した。
暫くいろんな話をして修学旅行の夜のような楽しい時間を過ごしたが、電池が切れたように眠りに落ちたモモくんを皮切りに徐々に会話の間に欠伸が増え、知らぬ間に眠りに落ちていた、が…
波の音で起こされるというのはポーラータング号では経験したことがなかった。
ついでに、誰かと同じベッドで眠るという経験も久しぶり。

再び横になって目を瞑るも、なんだかすぐには眠りにつけなさそうで諦めてそっと立ち上がった。
キッチンでお水でももらってこよう。

静かに扉を開くと甲板ではそれぞれ距離を置いて先生、シーザー、ウソップさんとチョッパー先生が眠りに落ちていた。
シーザーはともかく、先生はこんな硬いところで座って寝ずとも、男部屋のベッド借りればよかったのに。
ルフィさんが誘ってくれてたのを頑なに断ってたけど。
ウソップさんとチョッパー先生は完全に寝落ちたような体勢だ。
ドフラミンゴの奇襲をずっと警戒してたもんな…

夜知ったのだが、どうやら私が知らぬ間に先生がドフラミンゴに砂をかけていたらしい。
「お前のとこのだろ!ちゃんと止めろよ!」と泣いて怒られたがそういう計画だったんだろうしそもそも私が言ったところで止まる男な訳がないのだ。
こういう人なんですごめんなさい。

キッチンに入ってコップ1杯のお水を飲み干し、また甲板に戻る。
さてどうしようか。
さっきのアクアリウム部屋でゆっくりしたいところだが、扉の窓から室内に電気がついている様子が窺える。
ということは誰かいるのだろう。
憩いの時間を邪魔してはいけないし…でも部屋であんまりゴソゴソしてるのも…

「…名前?」

背後から突然聞こえた声に叫び声すら喉に詰まらせる勢いで驚いて振り返ると声の主は寝ぼけ眼のチョッパー先生で。

「ちょ…ぱ、先生」
「眠れないのか?」

座り込んだまましきりに目を擦るチョッパー先生の前にしゃがみこみ、目線を合わせた。

「変な時間に目が覚めたら眠れなくなっちゃって」
「そうかー…今日は疲れてると思うし眠れなくても横になっとけよ」
「お気遣いありがとうございます。チョッパー先生は?」
「おれは名前の気配で…」
「え、ごめんなさい。起こしちゃいましたね」
「いや…」

大きな欠伸をする彼に、申し訳なさと胸キュンが募る。
なんだこのマスコットキャラクター。
うちのベポさんはじめ、この世界の海賊はマスコットキャラクターを1人仲間にしないといけない法律でもあるのだろうか。

「じゃあおれは…もう…」

全て言い切ることなく後ろに倒れ込んで再び寝息をたて始めたふかふかな彼を見ていると、こちらも徐々に眠気を誘われる。
チョッパー先生の隣に体を横たえ、目を閉じた。

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