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「名前!」
「ごめんなさいナミさん、しくじりました」

ナミさんとモモくんも船上に戻ってきた。

「絶対助けるからそこにいて!」
「何を宣うかと思えば…もう名前は捕らえた、船はもはや不能!あとはモモの助をとっ捕まえるだけざます!それなのにあーた達ときたらあたくしの艦と部下をあれだけ派手に打ちのめして…どう落とし前を…!」

怒り心頭のジョーラの言葉の途中、

プルプルプルプル。

何とも間の抜けた音が響いた。
電伝虫の着信だ。

ガチャ!
「もしもしおれだぞ!誰だ!?助けてくれ〜〜!」
「誰が出ていいと言ったのざます!」

すかさずチョッパー先生が飛びついて応答すると、電話の向こうからは耳慣れた声が聞こえてきた。

『トニー屋か、そっちの話はいい。よく聞け』
「え、トラ男か!?」
「んん〜?…ローざますか?」

やけに電波が悪く、大仰な破壊音すら一緒に漏れ聞こえてくる。
構わずそちらに体を向けると、また鎖を引っ張られた。

「何やってんのよトラ男!船に来てよ早くー!」
「私達芸術的になっちゃいましたー!助けてー!」
「せ…せっしゃは何ともないぞ!」
「それどころじゃないだろ!?トラ『いいか今すぐグリーンビットに船を回せ!お前らにシーザーを預ける!』は!?」
ブツッ!

…ツー…ツー…
「え〜〜!!?無茶言って切られた〜〜〜!!」
「シーザーさんは引き渡したのでは!?」
「何あいつこっちの話聞かないで一方的に!ルフィか!!」

ただでさえパニック状態だった船上がさらにカオスなことに…
…でも仕方ない。
何度も言うようだがうちの先生は元来こういう人だ。
それに、まさか船にまで手が回っているとは流石に思っていなかったのだろう。
それよりも…一連の流れから置いてけぼりにされて呆然としているジョーラをちらと見やる。

どう考えても今がチャンスだが、
私は海楼石の錠と鎖で繋がれて機動力が落ちているし、1人で逃げ出すことはまず無理だ。
ぎゃいぎゃいと騒いでいるナミさん達が何とか私の抵抗に気づいてくれればと思うけどそんなにうまく行くだろうか…
ええい、やってみるしかない。
恐らくこの能力の殺傷能力は低く、ジョーラさえ倒してしまえば全て元通りだろう。
そのことには3人とも気がついている筈だ。

「っ、」
「イテテテ!!…んの小娘……!」

3人の注意を向ける為、ジョーラの片足めがけ体重をかけて思い切り踏んづける。
メリ、と彼女の中足骨が軋む気配を感じながら、そこを支点にして全力で反対の足を振り上げた。
思った通り、こちらに顔を向けかけていた奴の後頭部に蹴りが入る。
そのまま足首に引っ掛けるようにして引き倒した。

「ったー!!何するざます!」

一瞬生じた隙を使って、ジョーラと距離を取る。
鎖は持たれているのでいつでも引き戻されると言えばそうなのだが、摩擦でストッパーになるようにメインマストを1周し、綱引きのように腰を落とした。
ジョーラ、私、皆さんの3点で三角形の構図を作り上げる。

「往生際が悪いざますよ!」

熱り立ったジョーラが力任せに鎖を引っ張るが、逆向きに体重をかけて何とか耐える。

「すごいわ名前!」
「あの能力は両手を使わないと発動できない上に、いくら受けても殺すことは基本出来ないはずです!上手く雲を避けてください!」

今は私を引き戻すことに必死なジョーラは両手を鎖を引っ張ることに取られている。
倒すなら今しかない。

「こんの…ガキャー!!」
「!?」

突然素っ頓狂な声を上げたジョーラ。
と同時に、とても妙齢の女性とは思えない力が鎖に加わり、あっという間に彼女の元まで引き戻されてしまった。

「ぐっ…!?」

彼女の背後の壁に激突する。
両腕が動かないせいで受身は取れなかった。
脳が揺れ、白黒点滅する視界は定まらない。
思い切り引っ張られた肩が外れそうだ。

「名前!?くそっ!」
「仲良しごっこはこれで終わりざます!若様からは生捕りとだけ命ぜられているわけだし…口が効けぬ程度に痛めつけるのなら問題ないざましょ」

どこから出したのか、かちゃりと音を立ててピストルが突きつけられる。
こんな至近距離で向けられたのは初めてだ。
命を奪う道具、その本来の目的を乗せられ、目に見えて自身に向けられた事によって、本能的に体が震え出す。

「おやおや、あーんなに小癪な口を叩いていた割に銃が怖いのかい!笑っちゃうざますねぇ?心配しなくてもここで殺しゃしない、ちょいと1つ2つ穴が増えるだけざます!」
「止めろお前ぇっ!」
「あーた達にとって名前はただの同盟仲間!切り捨てるなんて訳ないおましょ?」
「今は同じ船の仲間も同然だ!」
「妄言ざます」
「お前には分からないっ!角強化ホーンポイント!」

チョッパー先生が形態を変えてジョーラに攻撃を仕掛けるも、避けたジョーラがまた能力を発動させる。

「チョッパーさん危ない!」

彼に当たる前に間に滑り込ませたブルックさんの刀が“芸術的”に変化してしまった。

「あーあーあー本当うるさいざますねぇ!こんな一瞬では芸術性の欠片もないけれど!そんなに騒ぎ立てるのなら仕方がない、先にあーた達から始末してやるざます!」

再び立ち向かったチョッパー先生に向けて向けられた銃。
空中にいる彼は身動きが取れない。
撃たれたら、当たる。
震える足に鞭打って立ち上がり、未だスパークしている視界のままジョーラの腕に飛び掛かった。

筈だ。

発砲の音は、遠くに聞こえた。


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