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「ちゃんと見張ってる?あんた達」
「異常ありませんよナミさーん!」
見張りに駆り出されたチョッパー先生の代わりに、電伝虫で上陸組と連絡を取り合うサンジさんの傷を手当てする。
先生のことは気がかりだが、彼がそう簡単にやられる筈がない。
一旦、作戦に集中しよう。
ウソップさん、ロビンさん、フランキーさんの3人とゾロさんと錦えもんさんの2人がそれぞれ一緒にいて、ゾロさん達が今ルフィさんと落ち合い待ちのようだ。
そうしたら当初の予定通り工場を破壊してドレスローザを脱出、なのだが…
なんだか一筋縄ではいかない気がする。
「ローが心配か?」
「、…はい。勿論上陸してる皆さん心配ですけど…」
「あいつは…そう無謀なことするタマじゃねェだろ?ルフィと違って」
溜息混じりに発された言葉にこっそりと唇を噛む。
船が飛んだ瞬間、先生はジョーラを連れて何処かに消えていた。
あのままジョーラを人質にしつつ上手いこと逃げた…んだろうか。
いつもクールで冷静沈着な我らがボスが、向こうみずな行動などするはずがないと頭ではわかっているのに妙に胸騒ぎがしてならない。
次第にまた電伝虫が鳴り出す。
ゾロさん達とルフィさんが落ち合えた合図だ。
子電伝虫でウソップさん達とも繋ぎ、簡易的な会議を開く。
「各自状況を教えろ!」
『アウ!こちらフランキーだが…ウソップとロビンが一緒だ』
フランキーさんが口火を切った。
どうやらドレスローザ国内は大変な事態になっているらしい。
それは今に始まった話ではなく、ドフラミンゴがこの国の王になってからずっと辛酸を舐めさせられ続けてきた者たちがいて、その反ドフラミンゴ体勢である元ドレスローザ国王「リク王」軍と、フランキーさん達は一緒にいるのだという。
力の篭ったフランキーさんの声が震える。
『この勇敢なるちっぽけな軍隊を!おれは見殺しにはできねェ!!』
電伝虫の念波を伝ってこちらに流れ込んでくる彼らの熱い願い。
思いがけず鳥肌が立った。
「ーーよし、引き返すか…!」
サンジさんは薄く笑って立ち上がる。
口では文句を言いながらもそれに従うナミさん達。
全てを笑って了承するルフィさん。
…彼らの絆は信用できるし、ドレスローザで打倒ドフラミンゴに意気軒昂する勢力に関しても口を挟む気はない。
怪我人もたくさん出るであろう、彼らと共についていくつもりでもいる。
それでも少々、私としては意に染まないところがあった。
今回の作戦とあまりにもかけ離れているではないか。
何より、ドフラミンゴ・ファミリーと全面的にぶつかるつもりでいるのなら先生にも伝えておく必要があると思うのだけど…
「あのサンジさん、私、」
ドカァァン!!
ドレスローザの方に向かって舵を切った時だった。
電伝虫から途轍もなく大きな音が聞こえる。
「え、何!?」
「なんだ!?どうした、何かあったのか!?」
何故だろう、瞬間的に何か予感がした。
決していいものではない、そんな予感が。
『トラ男!!ドフラミンゴ!!』
今一番聞きたくなかった単語の羅列に、動悸が鳴り、一時呼吸を忘れる。
ひどく嫌な気持ちがして、心臓が喉まで迫り上がってきた。
このままではまずい、何かいけないことが、私がいちばん恐れていたことがーー…
ドン!!
ドン!!ドン!!
『トラ男ォ〜〜〜!!!』
3度の銃声、それに次いだルフィさんの咆哮に、ひゅ、と喉が鳴る。
全身の血が動きを止めて、体が芯から冷えていく。
声は出ず、膝が笑って力が入らない。
へたりとその場へくず折れた。
「名前!?」
「おいしっかりしろ!」
『な、なんだなんだ!?あっちこっちで何が起きてんだ!?』
『トラ男は!?どうしたって!?』
目の前の皆さんから、また電伝虫越しに感じる困惑、焦燥、狼狽。
焦点が一向に合わない。
ぼんやりと歪みゆく視界、あぁ、少しでも気を抜いたら視界がブラックアウトしそうだ。
『我らの目の前でロー殿がやられた!ドフラミンゴに!!』
そんな状態でもほぼ無意識的に動いていた。
海にでも溺れたかのように両腕を踠き、電伝虫の受話器を握るサンジさんの腕にしがみつく。
「え、名前さ、」
「先生!!」
さっきまで呻き声すら出なかったとは思えない程に大きな声が出た。
それを合図にして、今度は堰を切ったように涙が溢れ出す。
「先生!先生!!返事をしてください!!」
「落ち着け名前さん!」
感情がそのまま飛び出してきて、喉が苦しい。胸が苦しい。ぜんぶくるしい。
喉が擦り切れるほどに哮る。
叫ぶようにして伝えられる情報も、その全てが耳に入らない。
このままじゃ先生が死んでしまう。
戦慄が体を突き抜ける。
何もできない。どうしようもない。
私には何ができる?
私にできることは何も…
何も、ない?
本当に?
小さく聞こえた言葉は、確かに自分の声だった。