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ビブルカードを頼りに航海を続けた翌日。
深い霧の海に迷い込んでしまい、前方が不明瞭なまま突き進む。
暫くの間右も左も分からないままであったが、展望台で辺りを見渡していたブルックさんが突如声を上げる。
「何かが前に見えますよ!」
「漸く着いたのかしら」
「甲板からだとほぼ何にも見えないですね…」
「どんな見た目だ!?」
「島…にしては高さがありすぎるような気もしますが…」
「岩場か…?」
「いえ、でも…」
ナミさんがビブルカードを手のひらに乗せる。
それは間違いなくその岩場らしき何かに向かって動いていた。
「…とにかくそのまま近づいてみましょう」
進行方向はそのまま、ビブルカードに向かって進んでいくと、突如霧が晴れた。
目前に広がったのは規格外の大きさの、“象”。
「!?」
「あれがゾウ…!?」
目指していた「ゾウ」という名の島が、まさか本当に名の通り動物の「象」だなんて思いもしなかった。
もう、大きいなんてものではない。
島と呼ぶには些か違和感があるけれど…
だって島ではないではないか。
「この象の背中に街があるの!?」
「そんなまさか…」
「そのまさかだよ。忠告するぞ…上陸は反対だ」
シーザーは吐き捨てるようにそういうが、反対も何もここにいろと言われたのだから上陸する以外ないだろう。
サンジさんがいつまた受け取ったのか、シーザーの心臓をちらつかせて彼の能力でゾウの背上へと上陸する。
「お前ら…覚えてろよ…ゼィ…ゼィ…」
「嘘みたい…本当に文明がある」
降り立ったそこには、石造りの門。
そのまま塀が両脇に広がっており、街をぐるりと囲っているようだ。
だが肝心の門には扉がない。
立派な物見櫓もあるというのにそこから人気も感じられない。
外れた扉は正しい順序を追って外された、というより破壊された、というような見た目をしていた。
「明らかに襲撃されてる…!」
枠だけになった門をくぐって内部に侵入すると、其処彼処の木々が大きな何かに薙ぎ倒されたような跡まで見てとれる。
一体何が起こったんだろう。
まだ安定しきっていなかったメンタルがぐらりと揺れるのが分かった。
今まで辿って来たビブルカードの主であるベポさんは、ここの出身だと聞いていた。
その為滅多なことはないだろうと楽観視していたが、襲撃があったのなら話は別だ。
ここで待つみんなは無事なのだろうか…
「ブルック!ナミさんと名前さんをここで守れ。奥を見てくる」
「お安い御用です」
「せ…拙者もふたりを守ってる!」
「私も…」
「見てきてもらいましょ。何があるか分からないわ」
仲間が心配だろうけど、とナミさんが私の手を取る。
胸中を察されたようだ。
私が遠慮がちに頷くとサンジさん達偵察組は森の中に進んでいった。
いくら大きいと言っても大陸というほどではないしすぐに戻ってくるんだろうが、ただ待っているのも落ち着かないので皆さんから離れすぎない程度に周囲を散策してみる。
生き物の背中の上に土地があり、獣道のような道がある。
道自体はブヨブヨと生き物の皮膚の感触がするというのに、その両脇には土が盛っていてそこから植物が生え、さらにこの奥では生き物が暮らしているなんて…
雑草に触れてみるが、やはりきちんと生きている植物のようだ。
見れば見るほど信じがたい。
「きゃーっ!」
突如聞こえた叫び声に、慌てて皆さんの元に駆け戻る。
「誰か助けてー!」
近くなる叫び声に地響き、草木の薙ぎ倒される音。
襲撃した犯人…!?
声の方を一斉に振り返ると、道なき道から何かが飛び出してきた。
リスを擬人化したような女の子が、足の長い鰐…?のような生き物に乗った悪人面の誰かに追い回されている。
あの子の声か!
「ナミさん、あの子保護…!」
「ええ、おんなじこと考えてた!」
さっと手を取って脇道に逸れると、ブルックさんが足場を凍らせて鰐らしき生物をスリップさせた。
叫び声を上げながらあさっての方向にフェードアウトしていく悪人面たちを見送る。
「ありがとブルック!」
「すげーホネ吉!」
「すごいブルックさん…!」
「ヨホ?そうですか?」
口々に褒められて調子に乗ったついでにパンツを見たがるブルックさんをナミさんがしばいていると、先程手を引いて逃した女の子が森の奥の方に走っていく。
あっちはさっきサンジさん達が行った方角…
「あ!待って!ねェあんたこの島で今何が…」
ナミさんが慌てて声をかけるが、聞こえているのかいないのか返事もせずにそのまま行ってしまった。