2



「いっ…てしまいましたねぇ…」
「追いますか?」
「追いたいけど…そろそろサンジくん達が、」
「侵入者ども!」

目の前に先程フェードアウトしていった悪人面on the足長鰐が立ちはだかる。
咄嗟に戦闘態勢に入るが戦っている暇はない。

「逃げるわよっ!」
「はい!」
「あっおい!」

さっと身を翻し、道を外れて走り出す。
背後から聞こえる怒号とメリメリと樹木の倒れる音。
どうあっても逃してはくれなさそうだ。

「どう、しましょう!?」
「ヨホホ!困った、はぐれましたね!不思議少女に気を取られ…」

サンジさん達がそろそろ戻って来そうだったというのに…!
走るのには適していない地面に足を取られたナミさんがブルックさんを下敷きにして転倒する。

「危ないナミさん!」
「危ない私っ!」
「だ、大丈夫ですかお二方とも!」
「平気!」
「おナミ!追手が!」

気がつけば悪人面は、もうすぐ後ろまで迫って来ていた。

「ここまでか!?侵入者、あの女をどこへやった!答えろ!お前達はなぜこの島に入れた!?ここは特殊な、」
「噴火雨が来るぞー!伏せろー!」
「!?」

漸く私たちを追い詰めた悪人面はこれでもかと捲し立ててきたが、遠くから聞こえて来た「噴火雨」という言葉に反応して冷や汗を垂らし、空を仰いだ。
それに釣られて私たちも空を仰ぐ。
すると、

ドォン!
「!」
「雨…?違う!水の塊!」
「何があろうとお守りします!」

出し抜けに響いた大きな衝撃音。
上空に広がる大きな影。
ブルックさんが紳士的に前に出てくれたが相手は水だ。

「ま、」
「…!」

意味も分からず押し寄せた鉄砲水に押し流されそうになるのを、咄嗟に一番近くにいたモモくんだけ掴み、近くにあった木にしがみついて何とか耐える。

「きゃあーー!!」
「ギャーー!!」
「…!……!」

あっという間に遠ざかっていくナミさんとブルックさんの声。
目線の先ではがぼ、と大きく息を洩らすモモくん。
まずい、このままだと2人合わせて溺死だ。
体の前に抱え込んで木から手を離し、力を抜いて当初よりだいぶ勢いの落ち着いた水の面に浮かび、近くなった大木の枝に乗り上げた。

「っハァ、ハァ、モモくん、大丈夫!?」
「ぶへぇ!ゲホッゲホ、」

意識を確認するように頬を軽く叩くと幸いにしてすぐに水を吐き出した。

「よかった…」
「ウゥ、ゲホ、こんなもの、屁でもないわ!っゲホ、」

鼻水と涙を垂れ流しながら、強がる言葉もいつも通りだ。
よしよしと頭を撫でてその場に立ちあがり、辺りを見渡して状況確認だ。
2人と逸れてしまった。
ブルックさんは悪魔の実を食べているという話だし、どこかに上手く回避できてたらいいんだけど…
足元はすっかり川だ。
木と木を飛び渡ることはできそうだが、濡れてて不安定だし、何より小さなモモくんが一緒。
声の流れていった方を注視してみるが、それらしい姿は見つからない。
が、大分水位が下がってきていることに気がついた。
もう少しここで待って、下に降りてから探すか…

「名前…」
「、モモくん、どうかした?」
「何だか気持ちが落ち着かないでござる…」

ぎゅ、と私のスクラブの端を掴むモモくんはソワソワと忙しなく視線を揺らし、小さな物音にも即座に反応してまるで何かに怯えている様だった。
そういえば上陸してから一度も人型に戻っていないような…
さっき水に落ちた瞬間から目を覚ますまでは人型だったけどまた知らない間に龍に戻っていた。
心が不安定になると獣型になってしまうんだろうか。

ていうか自然に受け入れていたがどんな体質だそれは。
悪魔の実の力だと仮定すれば水に落ちて解けてしまったのにも頷けるが、こんな小さな子まで…

「大丈夫?それ以外に変なところはない?」
「う、うむ…」

父親と離れて心細い中行動しているわけだし、繊細な子どもならそれだけで大きなストレスだろう。
不安げな表情のまま体を寄せるモモくんの頭をまた撫でる。

「大丈夫。一緒にいるからね」
「ガキコラァ!名前さんから離れろ!」

聞き覚えのある声に振り向けばそこには地面を歩くサンジさん、ナミさん、ブルックさん。
いっときはあんなに轟々と渦巻いていた水も、気がつけば跡形もなく引き切っていた。
モモくんを抱えたまま木から飛び降り、両腕を広げて待機するサンジさんのすぐ横に着地した。
そこまで高さがあったわけでもない上に、地面の弾力のお陰でまるで痛くない。

「よかった、みなさん無事だったんですね!」
「2人こそ無事でよかったわ」
「無事なことは無事なんだがまた別の問題があってな…」
「…?」
「みんなー!早く来てくれ!」
「急ごう。一刻を争う」

どことなく緊迫したようなチョッパー先生の声が森の奥から聞こえてくる。
街はもうすぐそこのようで、サンジさんの案内で声の元へ。