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「…!こんなの、って…」

立ち場はさておき、この2人がガスを吸った患者達の中でもさらに優先すべきことはすぐに理解した。
犬の王様は左足の膝上から先を、猫の王様は左前腕の中ほどから先をすっかり切り落とされてしまっていたのだ。
加えて腹部に無数の刺し傷。
地面にはゾッとするほど多量の血液が水溜りを作り、傷からは未だ鮮血が垂れ続けている。
バイタルを確認するが、どちらもうっすらと呼吸はあれど意識はない。
明らかに出血多量だ。

ちょうどその時、チョッパー先生がバタバタとこちらにやってきた。
解毒薬の量産にキリがついたのだろう。

「名前!」
「チョッパー先生、お疲れ様です」
「おう。投薬ありがとな!」
「いえ。それよりもこのお2人、」
「!…まずいな」
「呼吸はなんとかしていますが意識がありません。恐らくこの集落の首長のようで…先程投薬をおこなったライオンのミンクに、この2人だけは必ずと…」
「ああ、おれも別のやつから聞いた。輸血したいけど…まずは止血して解毒薬と一緒に輸液を流そう」
「はい。止血できる道具はさっきまとめて持ってきた…この辺りに。私はルート取って輸液繋ぎます」
「頼んだ!」

慌ただしく動き回っているうちに、段々と周りの森に隠れていたらしい動けるミンク族が集まってきた。
白衣を身につけた医者らしいミンクたちもその中にいる。
人手も増え、解毒薬も後少しで全員に打ち終わるし…そうしたら改めて全員の怪我を診て回らなくては。
毛が深くて難しいがなんとかルートを取って2人に点滴を繋げ、チョッパー先生がおこなっている処置の手伝いに回る。

「名前、こっち持ってくれ!」
「はい!」

猫の王の腕を持ち上げ、処置しやすいようにちょうどいい高さで固定する。
…と、とんでもなく重い…!
力の抜けきった筋肉の塊だ。
重たいに決まっている。
だがしかし揺らすわけにはいかないと必死の思いで持ち堪える。
ぶるぶる震えそうになる体をなんとか張りつめて支えていると、不意に重みが消えた。

「…?」
「大丈夫か?手伝おう」

先程の豹のミンクだ。
何の苦もなく支えている様子を見て若干情けなくなるが、ここはお言葉に甘えて持っていただこう。

「ありがとうございます…その角度で支えていただいて」
「こうだろうか」
「はい、そんな感じで。ありがとうございます」
「名前大丈夫か?」
「はい、こちらの豹のミンクさんが助けてくださったので」
「おれは豹ではない。ジャガーだ」
「あ…ごめんなさい。ジャガーだそうです」
「名をペドロという」
「…だそうです」

クセ強めだな。
ひとまずジャガーのミンクだというペドロさんにそこを任せて、次に行う処置の準備を進めていく。
向こうの方ではブルックさんが大きなクマのミンクに包帯を巻いていて、サンジさんが自力で動けないミンクに肩を貸して広場に集めてくれている。
ナミさんがさっきの犬のミンクを叱咤してる声も聞こえるなぁ…
治療必至なミンク達も集まってきているが、同様にある程度自由に動けるミンク達も集まってきているみたいだ。
忙しくなるぞ。

みんなを探したい気持ちは山々だけど…一旦後回し。
これだけ人が集まっていればどこかで出会えるだろう。
改めて気合を入れ直して治療を続ける。
この後はあっちの犬の王の処置になるだろうしそっちの準備を…


「名前…?」

背後から、信じられない、とでも言いたげに震えている声が聞こえた。
私がこの声を聞き間違えるはずがない。
数ヶ月ぶりに聞いたのにするりと耳に馴染むその声の主の腕の中に、取るものも取り敢えずに飛び込んだ。

「っベポさん…!!」
「名前だ…名前だ名前だ名前だー!!おかえり名前ー!!」

迷わず抱きついた私をきちんと抱き止めてくれたベポさんは、私を抱えたままその場でぐるぐると回る。
周囲は何事かとこちらを振り返るが、ベポさんの姿を見ると、事情を知っているようで誰もが優しい言葉を投げてくれる。

暫く回された後に、とんと地面に下ろされた。
キラキラ輝く私を捉える目は健在だが、どうやら彼も一緒に襲撃相手と戦ったらしくあちこち包帯が巻かれている。
彼が戦ったということは恐らくみんなもだろう。

「ベポさんもみんなも、お怪我大丈夫ですか?大変でしたね…」
「おれたちは大したことないよ!毒ガス吸っちゃった奴もいるけど今あっちで解毒剤打って貰ったし…名前こそなんともない?」
「はい、私は何とも」
「そうだ、キャプテンは?一緒じゃないの?」「…、先生、は…」

途端に、最後に見たジョーラを人質にとる先生の背中が、電伝虫越しのルフィさんの叫び声がフラッシュバックする。
そうだ、伝えないと。
先生は今どこにいて何をするつもりなのかを。

もしかしたらもう、戻ってこないかもしれないことを。

「せんっ、…」
「え!?」

口を開くと同時にぼろっと涙が溢れ出た。
止めようにも止まらない落涙と一緒に込み上げてきた嗚咽は、口を抑えて堪えても指の隙間から次々洩れてしまう。
伝えなければと思えば思うほどに襲いかかってくる感情は全て涙と嗚咽に変わり、今までにないほどの大号泣をする私にベポさんはただオロオロするばかり。

ああ、申し訳ない、戸惑わせてしまっている。
泣いている場合ではない。
伝えないといけないのに。
これは私の仕事なのに。

「と、とりあえずみんなのとこ行こう!ね!?すぐそこだから!」
「ぅ、っく、」

こくりと頷くとベポさんは私を抱え上げて一目散に駆け出した。

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