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「みんなー!」
「ベポ遅かったな」
「必要なもん貰ってこれたのかー…ってそれ、」
「名前ちゃん!?」

街の中でも先程私がいたのとは反対側、更に少し森に入った辺りにみんなが待っていた。
ベポさんに抱えられた私の姿を認めるなり、わらわらと周囲に集まってくる。

「良かった元気そうで…!」
「あいつらと一緒に戻ってきてたのか、おかえり名前ちゃん」
「なぁあの同盟って何なんだよ」
「それよりキャプテンだろ!みんな一緒に来たんだろ?」

声をかけられ、どんどんと顔を上げづらくなっていくが上げざるを得ない。
意を決してベポさんの胸から顔を離す。

「み゛ん、な…」

だぱーーー。
ダメだ。
移動中になんとかおさめた涙腺がまたかっ開いてしまった。
先生のことを伝えようとしたのもあるが、其々怪我はしていながらもみんな揃って元気そうな顔をしているのを見てひどく安心し、緊張の糸が切れてしまった。
再び号泣し始めた私に、ざわざわとみんなが慌て出す気配を感じる。

「え、え!?何!?」
「おれなんかまずいこと言った!?」
「シャチのばか!今名前はすごくデリケートなんだよ!」
「おれのせいかよ!ごめん名前ちゃん!」

いつものやりとりを聞けば聞くほど嬉しくて涙が止まらない。
麦わらの一味にはすっかり馴染んだつもりでいたが、知らず知らずのうちに緊張していたんだろう。
みんなが傍にいるだけでこんなにも安心するなんて…
みんながかけてくれる心配の声にこく、こくと頷いて返事をし、手のひらを突きつけて待ったのサインを出してから大きく深呼吸。

「……で、んれい、…、です」

息を呑み込んでなんとか嗚咽だけでも封じ込める。
伝令だって立派な仕事。
再三言うが泣いている場合ではないのだ。

固唾を飲んで私の動向を見守るみんなに、先生が麦わらの一味の半分と共にドレスローザに残っていること、理由は分からないがドフラミンゴを自身の手で堕とす気でいること、にも関わらず安否が分からないまま別れてしまったことを正直に告げた。

「…そうか」
「ま、しょうがない。キャプテンが何かやらかそうとしてた気配は何となく感じてた」

しんと静まり返る中で、ぽつり呟くように口を開いたのはシャチさんとペンギンさん。
そうしているうちに口々にみんなが話し出した。

「キャプテンは自分でなんとかするわ。それよりも名前ちゃんは?怪我してない?」
「そうだそうだ。あの人ならきっと心配いらねえよ」
「同盟組んだっていう麦わらのとこの船長も一緒なんだろ?」
「そうだ同盟!ありゃ結局どういうことだ」
「納得いってないんだけど僕。なんで止めなかったの」
「まあまあキャプテンにもなんか考えがあんだって」

あっという間に先程の賑やかさに戻っていくみんなに驚きというか、拍子抜けというか、兎に角想定していなかった反応をされて、此方がどうしたらいいか分からなくなってしまった。
目をまん丸にして固まる私の頭を、背後に立つベポさんが労うように優しく撫でてくれる。


正直に言おう、責められるものだと思っていた。
相手の本丸に頭を置いて1人逃げ帰ってきたとあれば本来文句のひとつやふたつじゃ済まないはずだ、と。
本当だったらゾウに着いた時点でベポさんのビブルカードをさらに辿り、早くみんなと再会したかった。
すぐにでも先生について報告をしたかった。
けれどもしこのことでみんなから責められたら。
そう逡巡していたところがなかったとは言い切れない。

こちらはそう思っていたにも関わらず、何故こんなにもみんなが私の身を案じ、むしろ私を気遣うような…
少しだけ考えを巡らせればすい、と導かれるように容易く辿り着いた答え。


信頼だ。
みんなの言葉や態度の底には、私に、先生に向けられた確かな「信頼」が存在していた。
安否が分からないと言われても、あの人なら大丈夫、といとも簡単に笑って口に出せる程の深き「信頼」。

ならば錯乱する程に彼の身を案じていた私には彼への信頼の念は無かったということだろうか。
そんな筈はない。
信頼がなければここまで心身共に捧げる覚悟などそうそう固まらない。


好き勝手飛び交うみんなの会話を聞きながら人知れず瞼を閉じてみた。
先生への信頼という大きな感情の、隣に寄り添うように存在するもうひとつの感情。
いつの間に産まれたのかは分からないけれど、なんだかずうっと昔から見て見ぬふりをしてきてしまった気がするそれは、時に大きく肥大して、一切合切を押し潰す「心配」に変化してしまうもので。
でも私の中での「先生への信頼」と、強く強く結びついて決して切り離すことなど出来なくなっているもので。

手を伸ばしたらもう、簡単に名前をつけてあげられてしまうほど私自身にも根付いてしまっていることに、私は一体いつから気がついていたのだろう。

この感情はいけない。
あなたを受け入れてあげられない。
拒絶の蓋で無理やり抑え込み続けていた感情は、とうとう暴走をした。
暴走した時に吹き飛んだ蓋はもう二度と元には戻せないのに、まだ私は受け入れる勇気が持てないでいる。
とんだ意気地無しだ。
彼が生きて帰って来てくれたその時は、そう言って笑い飛ばしてくれるだろうか。
笑い飛ばしてくれると、期待していいのだろうか。


開けた視界は僅かに滲んでいたけれど、それをみんなに悟られないように目元を僅かに緩ませ、みんなの会話に溶け込んでいく。

期待することはとても怖いことだ。
不確定事項であることはもとより、裏切られたその先を想像してしまうから。
そして人に対して期待を持つことを徐々にしなくなっていくのも、それまでの人生で圧倒的に裏切られる可能性の方が高いことに気付いてしまうからだ。

頭では十二分に理解をしていても、それでも期待をしたくなる。
馬鹿の一つ覚えのようだと鼻で笑ってしまいたくなるその気持ちの根源。
先生への信頼としっかり結びついていて、同時にいつからあったのか分からないくらい私自身に深く根を張っていて、いけないものだと強く抑え込まれていたこれは、嗚呼、そう、これが、ーーーー……

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