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「…これ」
「…弾はすぐ抜いた」
「そうじゃないでしょう」
「……跡は多少残ってるが軽くオペしてある」
「最初からそう言ってください」

そのままの顔で言い訳を紡ぐ先生を即座に窘めれば私の聞きたかった台詞が続く。
ああそうだ、先生ってこういう人だった、と嘆息したくなった。
プライドなのかなんなのかは分からないが状況を最初から教えてくれればいいというのにこう…ちょっと誤魔化すところも含めてまるでこどもと会話している気持ちになる事がある。
こどもとこんな血生臭い会話したことないけど。

申し訳程度に巻かれている腕の包帯もついでに替えてあげよう。
包帯は此処にはないから医務室から持ってきてー…
なんて、何の気なしに立ち上がる。

いや、立ち上がってしまう。

「……おい」
「え、…っきゃぁ!」

完全に体から離れた毛布、先生の読み取れない低い声、注がれる視線。
気づいた時にはもう遅かった。
慌ててしゃがみ込んで毛布をひっ被ろうがもう遅いのだ。
さっきまであんなに気を張っていたのに流石に急に緩みすぎだ。
ていうかきゃあってなんだきゃあって。
そんな女子みたいな反応を自分がするとは思っていなかった。
これが恋の力…いやウザすぎる。
漸くおさまってきていた心臓の脈打つ音はぶり返し、全身発火しているかのように熱い。
最悪だ、絶対引かれた…!
泣きそうな気分で毛布に包まって縮こまっていると、そんな私の命の布を引っ剥がそうとする力を感じて全力で抵抗をする。

「、ちょ、何するんですか!」
「どちらかといえばそれは俺の台詞なんだがな」
「わわわ私の台詞であってます!ちょっと!」
「いいから顔見せろ」

抵抗も虚しく、死んだ蝉よろしくひっくり返される。
恥ずかしさで潤んだ視界に写るのは、思っていたよりも近くで、まるで私を押し倒すような姿勢を取った先生で。
あ、頭真っ白。

「せんせ…やだ……」
「……、……………」

思考回路が一瞬にしてバグってしまった私からなんとか発せられた一言ではあったが、当の先生はゆっくりと私から視線を逸らして深い深い溜息を吐いた後にこれまたゆっくりと抱え起こしてくれた。

「………どういうことだ」
「ち、違うんですこれ、あの、違うんです!」

一切私の方を向かなくなってしまった彼に必死で言い訳をする。
友好の証としてミンク族と交換した衣服であり、私も相応に気に入っているもので、別に何がアレでどうとかそういうのじゃないのだと。
何だかいらんことまで口走ってしまったような気もするが、とにかく彼の脳裏に過ってしまったかもしれないことは全て何かの間違いだということを必死に主張する。

「…衣服の交換?」
「ミンク族の慣習らしくて!私も先生にいただいたスクラブを!」
「……成程」

半泣きのまま叫ぶようにしてそう言うと、その部分にのみ反応して軽く頷いた先生は自身の開襟を脱ぎ、肩にかけてきた。

「…何となく状況は掴めた。着とけ」
「…あり、がとうございます……」

ぷしゅう、と音を立てて熱が放散されていく。
まだまだ熱いが、先程までの燃え盛るような羞恥心は少し引っ込んだ。
こういう時に大人の対応をしてくれるのはすごく助かるな…こっちが慣れてない分、余計に。

今のアレのせいで痛烈に再燃してしまった気まずさから不意に目がいった先生の右腕。
そこから目が離せなくなってしまった。

上腕ぐるり、今まではなかったはずの傷跡。
もう治りかけているようには見えるが、この見た目の傷には見覚えがあった。


“ペンギンさん、右腕のこれって…”
“ああ、これな…まぁあれだよ。若気の至りってやつ”
“今も十分若いですよね…”
“ハハッ!ほんと、そんな改まって話すほどのもんじゃねえんだ。ガキの頃にーー…”


さっきまでとは比較にならないほど、ぶわ、と急速に涙の膜が張る。
動きを止めた私を窺い見た先生が、目線の先を辿ってばつの悪そうな顔をした。

「…何、してんですか」
「……」


これ、この傷跡はペンギンさんのと同じ…腕が千切れた跡、だ。
返ってこない返事を急かすように、ぼたぼたと大粒の涙が落ちていった。