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あれよあれよという間に過ぎた1週間。
異邦人との交流と称して着せられている衣装の煌びやかさとは裏腹に、私の気持ちは沈んでいた。

「名前…元気ないね」

目の前でキャロットさんが耳を垂らして悲しそうな顔をする。
心配させてはいけないと慌てて無理やり笑顔を作るが、あまりにも不自然なそれはこの場ではかえって逆効果で、結果的に私の気持ちもキャロットさんの表情ももっと沈んだものになってしまった。
既にばっちり着替えを済ませたナミさんとワンダさんも、此方を見て眉尻を下げる。

「ちょっとでも気分転換になればと思ったんだけど…良くなかったわね。ごめんなさい」
「いえ!…嬉しいです」

口をついて出た返事は決して嘘ではなかった。
着せられた鮮やかなオレンジ色の衣装は形状だけで雑に括ってしまえば貫頭衣なわけだが、サイドのレースアップや豪奢なアクセサリーがこちらの世界に来てからどころか、あちらの世界ですらしばらく袖を通していなかったようなかわいいデザインのワンピースを作り上げていた。
ちょっと…いやかなりセクシーだけど。
ナミさんのものはスリットが入りつつも足首まで丈があるというのに、私のはミニ丈だ。
大丈夫かこれ、いろいろと。

ぱちん、と小さな音を立ててワンダさんがつけてくれたヘアアクセサリーは光の角度によって色味が変わる、真珠のような丸い宝石のみをつなぎ合わせて作られている。
国を救ったお礼として国宝であるこれらをくれるというが、そんな話を聞いてもなお気持ちは浮上しない。
着替える為に脱いだスクラブを一瞥する。
背中に入れられたジョリーロジャーを見るだけで先生の顔が思い浮かぶ程に、今の私は重症のようだ。

モコモ公国全体が落ち着いてきた頃、ワンダさんが数日前のものだという新聞を見せてくれた。
そこには、「ドフラミンゴ、堕つ」の文字。
もちろんルフィさんだけではなく先生も載っており、いつ撮られたのかは知らないがどうやら命はあるようだと心底ほっとしたのも束の間。
一向に彼らが「ゾウ」に到着しない。
ここがひとところに留まっている、通常の島ではないことは分かっているが、私たちが1日で到着したことを考えるといかんせん遅すぎる気がする。
来る途中で何かあったのか?
それともまさか出航すらできていないなんてことは?
彼は今どこに居るんだろう。

そうしていつものようにあれこれ考え込み過ぎた私は1人、日に日に鬱々としてしまい、今に至るというわけだ。
俯けば服の隙間から見える、巻き直したばかりの包帯。
灼熱と極寒の島で受けた傷達はチョッパー先生がしてくれる日々の手当の甲斐もあってゆっくり良くなってきており、傷自体は既に塞がっているものの、彼を思うとずきりと痛む思いがする。
考えすぎたって始まらないことはもう十二分にも分かっているんだけど、…色々自覚してしまった身としてはやはり心配せずにはいられない。


「ねねね!名前、これ着てみてもいい?」

重たい空気を変えるようにキャロットさんが明るく声を上げる。
顔を上げれば、彼女は私の脱いだスクラブを抱えていた。

「ええ、どうぞ」
「やったー!」

そそくさと着替えを済ませたキャロットさんが目の前でくるくると回ってみせる。
大きな尻尾は入らず、ズボンの隙間から無理やりはみ出しているが痛くないんだろうか。

「えへへ、どう?看護師さんみたい?」
「とっても似合ってますよ」

エアーで眼鏡を押し上げるポーズをして得意げにニコニコしているキャロットさんを見ていると、少し心が落ち着いた。
ちょっと最近情緒不安定すぎるな。
しっかりしろ、自分。

「ありがとうございます、キャロットさん」
「え?何が?」
「んナミさァーーん!名前さァーーーん!ガーールチュ〜〜〜!!」

すっかり見慣れてしまったが、サンジさんが何度も懲りずに吹っ飛ばされているのにも勝手に元気を貰う。
私もあれくらいポジティブに生きよう。

「私、みんなのところに戻りますね!」
「あら、行っちゃうの?」
「はい。見せてきます」

キャロットさんを見習ってその場でくるりと身を翻す。
安心したように少しだけ口元を綻ばせたナミさんはじめ皆さんに手を振って、「右腹の砦」を出て「くじらの森」に向かった。

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