とあるドMは神を喰らう - deer

あだ名にしてはダサすぎる

支部長室へ来るようにとのメールに従い支部長室へ向かえば、支部長殿が憂いたように窓の外を眺めていた。お見苦しい姿で申し訳ありませんと深々頭を下げれば、顔を上げてくれ、という声がしたので頭を上げる。

「君は随分と無茶をすると耳にしたのでね」

「申し訳ございません。怪我をすることのないよう精進いたします」

「極東支部唯一の新型神機使いだ。それは決して肩書きだけではないのだよ。どうかそのことを忘れないでいて欲しい」

「承知いたしました」

要は貴重な戦力だという自覚を持ち、死ぬなということだろう。どうしてこうも死にたがりだと思われているのか分からないが、私は痛めつけられたいだけであって、決して死に急いでいるわけではないのだ。

「君が私の期待を裏切らないと信じているよ」

下がりたまえ、という声にもう一度深く頭を下げて踵を返す。何やら腹に一物を抱えていそうな支部長殿とはあまり仲良くしたくないものだ。私は適度に快楽に溺れたいだけであって、利用されるなど面倒なことは嫌いだ。そういうプレイだと思えば、まあ、涎が出そうだが、私はどちらかというと鞭で打たれたり目の前で罵倒されたりしたい方なのだ。
慣れない松葉杖に苦労しながら新人区画へ戻れば、見覚えのあるフードが目に入ったので軽く頭を下げて通り過ぎようとしたのだが、どうやら私に用があるようで、腕を掴まれて止められた。

「お前、いい加減にしろ」

「失礼いたしました。無言で通り過ぎるのは無礼でした。本日の任務、ご同行ありがとうございます」

いい加減にしろというのは始めの自己紹介をちゃんとしなかったことだろうと思い、謝ったのだが、どうもそれも違うらしい。人の言いたいことを何でも読み取れたら良かったのだが、私にはそんな能力は無いようだった。
壁に打ち付けられ軽く息が止まる。苦しさに悦を感じ頬を染めたいくらいなのだが、私の表情には一切の変化が無かった。

「そんな怪我して礼を言うとはよっぽど頭が沸いてやがる」

「怪我は私っ、の、責任、ですの、でっ」

ゴホゴホと咳き込みながらそう言えば、どこか傷ついたような顔をした男にふざけるな、と襟元を掴まれる。雨宮隊長と同じことをしてくれるとは中々良いじゃないかと思いながら男の顔を見つめた。

「お前も俺のせいだと言えばいいだろ、俺を死神と呼べばいい」

「失礼ですが、私はここ二日連続集中治療室に入るような新人です。そして怪我をしようと血反吐を吐こうと生きているので、死神とやらとは関係無いのです」

私が弱いのはまあ、ただの性癖だ。私は死なない程度に快楽に溺れたい。そしてあわよくば縛られて鞭で打たれたい。もちろんそれは表には一切出さないが、そんなやつの命なんぞ、死神とやらも欲しがりはしないだろう。

「...もういい、俺とは関わるな」

そう言って私の襟を放した男の背に声をかける。自分からやって来ておいて関わるなとは酷く矛盾しているとは思ったが、そういうプレイは嫌いじゃない。

「プライベートはその言葉に従いますが、仕事は上の指示に従います。ご不快にさせてしまい、申し訳ございません。私は新兵であり、命令に逆らう権限を持ってはいないのです」

私の友人と呼べるのはコウタだけであるので、このフードと交流しないところで大した問題ではない。だが、今日のように同じ任務に出る時にまでそれを適応することは不可能である。何度でも言うが、私は死にたくないのだ。そんな私の言葉を無視して去って行ったフードに対して首を傾げながら、今度こそ自室へ戻った。

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