とあるドMは神を喰らう - deer

黄色い悪魔の方が100倍怖い

「平原でオウガテイル四体の討伐となります」

竹田オペレーターの説明を聞いて準備を済ませる。結局完全に足が治るまでに三日を要したが、それでも私の治癒力は高すぎるようで化け物ではないかと噂されていた。私としてはその方が多く痛みを味わえるので大歓迎なのだが、パパはそんな噂を耳にしては眉間に皺を寄せていた。

「化け物ってあいつら勝手なこと言いやがって...」

「気にしないでくれ。私としては怪我が早く治るのはむしろ都合が良いくらいだ」

「ったく、怪我が早く治るからって前みたいな怪我すんなよ?」

「ああ、精進する」

ドMとしては進んで怪我をしたいのだが、パパに悲しい顔をさせるのは少し心が痛む。自分を心配させてくれる人の悲しむ顔を見て、自分の心を痛めつけるプレイだと考えればそれはそれでアリな気はするが、出来ることなら怪我をせずに痛みを感じる方法を探すべきなのだろう。

「ま、無茶はすんなよ」

「了解した」

約束はしないが、と心の中で付け足してヘリへと乗り込む。バラバラと回るプロペラに刻まれてみたいと思いながら、嘆きの平原を目指した。

「行くぞ」

初めての任務の時と変わらない合図で地面へ降り立つ。今回は目視だけではオウガテイルを見つけることが出来なかったため、二手に分かれて索敵することになった。

「これは酷いな」

オウガテイルの討伐だったはずだが、私の目の前にはコクーンメイデンの群生が見える。その先に捕喰中のオウガテイルが見えるということは、この中に突っ込むしかないのだろう。内心はありがとうございます!という気持ちでいっぱいなのだが、相変わらず私の口は素直じゃなかった。
数が数であるので手っ取り早く頭からコクーンメイデンを真っ二つにしていく。四方から飛んでくるレーザーに皮膚を焼かれながら攻撃を続ければ、どこからか針が飛び出してきて右肩を貫かれた。このまま戦闘を続けるためには血を流すのは得策ではないと思い、抜かれる前に針を叩き折る。おかげで腕を上げにくくはなったが、出血を最小に抑えることが出来た。
そうして肩以外は大きな傷を作らずコクーンメイデンを倒せば、本来の目的であるオウガテイルが現れる。パパを傷つけないためにも今日は針を避けながら戦うか、と走り出せば、視界の端にバチバチとした青色が見えて、咄嗟に飛び退いた。
先程コクーンメイデンを喰らい倒した末のアラガミバレットをオウガテイルに打ち込み続ける。出来る限り隙を作らず、目の前に現れたヴァジュラの攻撃を避けた方が良さそうだ。
雷球を作る隙に倒したオウガテイルからコアを抜き取る。流石にこれは新人には荷が重すぎるだろうと集合信号を使おうとしたが、この雨のせいか湿っていて火をつけることが出来なかった。
ガァァァッ!というヴァジュラの咆哮に空気が震える。肩に刺さったままのコクーンメイデンの針の影響か、ジャミング状態が続き、無線での連絡も取れない今、一人でこのヴァジュラを片付けるしかないようだ。ぜひともあの猫パンチを食らってみたいものだが、死んでしまっては意味がない。攻撃は避けつつ急所を攻めることが今の私に出来る唯一の行動のようだ。
ヴァジュラの弱点は顔に前足に尻尾。腹の下も他の部位よりは攻撃が通りそうである。まずはアラガミバレットを使い切るために距離を保ちつつレーザーを撃ち込み続ける。顔に当たれば仰け反ることが多いので、やはり狙うなら顔なのだろう。
アラガミバレットを使いきり、ショートブレードに切り替えてヴァジュラに突っ込む。この機動力は中々厄介なので、出来れば足を斬りそれを抑えたい。身体の下に入っては腹を刻んでダメージを与える。足を狙うのは攻撃を食らうリスクが高すぎるので、出来る範囲の攻撃でダウンさせ、その隙に前足を狙うことにする。
今だ、とヴァジュラが怯んだ隙に前足を斬る。それで怒ったのか、活性化したヴァジュラの雷球をスレスレで避けたが、少し顔を掠ってしまった。そのまま前足にショートブレードを突き立てれば、苦しげな声を上げてその場に倒れる。ついでにと尻尾を斬り落とせば、それが致命的なダメージになったのか、全身の力を抜いて崩れ落ちた。
乱れた息を整える前に捕喰形態に切り換える。ズチャッという音と共にコアを引き抜き素材を回収すれば、ズシンという音と共に二体目のオウガテイルが現れた。最後の回復錠を噛み砕き剣を構える。正直もう勘弁して欲しいところだが、そういうプレイだと思えばやはり興奮するのだからドMという生き方は最強なのではないだろうか。
ズブブ、とその形を消したヴァジュラを横目にオウガテイルに斬りかかる。コクーンメイデンに始まり、ヴァジュラの返り血に自分の血も混じり血塗れになっている私はまた重傷患者になってしまうのだろうか。
肩の針以外は本当に大したことがないので、治療の前に風呂に入らせて欲しいのだが、きっとそれは叶わないだろう。なにせ私は怪我の常習犯だ。今回も大怪我をしたと思われてもなんら不思議ではない。

「おい!撤退するぞ!ヴァジュラがいるって情報が......エン?」

「ヴァジュラなら先程殲滅した。目標のオウガテイルは二体排除したが、パパの方はどうだ?」

「こっちも二体片付けたけど、そうじゃないだろ!?ヴァジュラ!?お前一人で相手したのか!?」

「ああ。かなり厄介だったが、コクーンメイデンのアラガミバレットが中々効いていたようだな」

任務が終わっているのなら帰投しよう、と神機を担ぎ直して歩き出す。だが、幾らか進んだところでパパの足音がしないことに気づいて振り向けば、酷く怒った様子のパパが自分の唇を噛み千切り、その唇から血を流していた。

「パパ、どうしたんだ?」

パタパタと駆け寄りその顔を見上げれば、肩の傷に触れないように抱き締められる。血が付いてしまう、と離れようとすればうるせえ、とさらに力を込められた。

「初任務の時は大して気にしなかった。たまたまザイゴートが出ただけだと思った。だが、サクヤの時からおかしいとは思ってたんだよ、実際と情報が違いすぎる」

苦しげに声を抑えて話すパパの話に耳を傾ける。私の通信はジャミングで使えないし、パパも通信を切っているようなので、他の者に話が伝わる心配は無さそうだ。

「極めつけは今日だ。ヴァジュラの情報を握りつぶしていやがったんだあのクソ野郎...これ以上エンをおもちゃにさせてたまるかってんだ」

「私を危険な目に合わせて得をする人間がいるのか?」

「ああ。お前の中の偏食因子はどうも普通じゃないらしくてな、色々実験に使ってやがる」

守ってやれなくてごめんな、と謝るパパに、パパは悪くないだろう?と返す。恐らく裏で糸を引いているのはかなり身分の高い、それこそ任務の情報を書き換えられるような人物だ。ここで下手に動くのはいらない危険を招くことになるだろう。

「人並み外れた回復力、それを試すために新人のエンをアラガミの動物園みたいな中に突っ込んでやがる」

「なるほど、それで死ぬなと言ってきたのか」

先日呼び出しを受けた支部長殿を思い出す。確かに支部長という身分であれば情報を書き換えるなど造作もないことだろう。

「多分これからもこういうことは起きる。俺はあいつのやってることを探ってるからな、その内消されるかもしれねえ」

「それは中々物騒な話だな」

「お前は確実に狙われてる。だからこれは命令だ、死ぬな」

「承知いたしました、雨宮隊長」

私はどうあっても死ぬつもりはないので、その命令には忠実に従おうと思う。パパこそ気をつけて、とその背中に腕を回せば、ツツッとその鼻から血が流れてきたのだった。

ALICE+