とあるドMは神を喰らう - deer

ホウレン草では強くなれない

「おい!どういうことだよヒバリちゃん!コンゴウ一体だけの任務じゃなかったのかよ!?」

「すみません!原因は分かりませんが、その地点に複数の中型アラガミの存在を確認、気をつけてください!来ます!」

私の予想通り、支部長殿はコウタすら巻き込んだようだ。最近は支部長殿の都合が悪くなるように戦え、というパパとの約束を守り、怪我をしないように我慢して戦っていたのだが、今回ばかりはその約束を守れそうにない。共に戦うのがパパならまだしも、コウタは新人かつアサルト使いだ。装甲を持たないコウタをカバーしながら戦うのは怪我なしでは不可能だろう。

「コウタ、応援が来るまで持ちこたえるぞ。コウタはアイテムを使いながら攻撃を受けないよう戦ってくれ。最悪私がやられてもコウタが無事ならリンクエイドが可能になる」

「でも!俺、中型なんてさっきのコンゴウが初めてで...」

「大丈夫だ。コウタは強い。それに可能な限りリンクバーストをするから、思い切りアラガミバレットを撃ち込んでやればいい」

とにかく今はやるしかない。複数の中型アラガミを同時に相手するのは初めてだが、殺らなかったら殺られる。それだけだ。

「第一部隊の命令はなんだ?」

「死ぬな、だろ?」

「ああ。それでいい。行くぞ」

コウタが死ななければそれでいい。そんな願いを込めて階段を降りてきたシユウの頭を砕く。全力の攻撃に蹲ったシユウを捕喰して得たアラガミバレットをコウタに渡す。コウタは冷静に結合崩壊を起こしたシユウの頭を狙っているので、その軌道を避けてシユウを斬り伏せた。

「エン!後ろだ!!」

沈黙したシユウの素材を回収していると、コウタのそんな声がして振り向く。その時にはもう、いつの間にかやって来ていたグボロ・グボロの砲弾が目前に迫っていて、正面からそれを食らうハメになった。

「大丈夫か!?」

背ビレへの攻撃を止めずにそう声を上げるコウタに片手を上げて立ち上がる。岩に打ちつけられた拍子に内臓を傷つけたのか、久しぶりに血反吐を吐いたが、同時に感じる甘い痺れに密かに興奮しながらグボロ・グボロへと突っ込んだ。
ダウンしたグボロ・グボロを捕喰しようとすれば、横から回転して来たコンゴウに吹っ飛ばされる。確実に折れている骨を気にすることなくその顔を斬り刻めば、顔を覆って蹲ったのでその隙にコウタに迫ったグボロ・グボロの尾にショートブレードを突き立てる。

「コウタ!これを使って回復しろ!」

昨日改造した回復錠をコウタへ投げる。従来のものより吸収力を高めたそれは自分で検証済みなので、きっとコウタにも効くはずだ。
サンキュ!というコウタの声を背にして起き上がったコンゴウのパンチを交わす。すると周りが緑色に濁ったので、直ぐに装甲を展開して攻撃を避けた。回復を終えたコウタがグボロ・グボロへ攻撃を再開したのを見てコンゴウへ突っ込む。私を押し潰そうとしたのをジャンプで避け、攻撃パターンを減らすためにパイプを叩き割った。

「エン!コウタ!無事か!?」

「リンドウさん!!」

「よく持ちこたえたわね、もう大丈夫よ」

「サクヤさあん!」

「チッ、シユウまで来やがったか」

「ソーマまで!」

情けない声が混じっていた気がするが、どうやら第一部隊が応援に来てくれたようだ。こんなに心強いこともないな、と思いながら悪あがきに私を押し潰そうとするコンゴウの攻撃をジャンプで避ける。立ち上がるまでに時間がかかる隙をついて顔に剣を突き刺せば、叫び声と共にようやく地に伏せてくれた。

「畳み掛けるぞ!!」

パパのその声に応じてシユウに斬りかかる。フードがチャージクラッシュを決めて出来た隙に頭を砕くために飛び上がるが、シユウが活性化する方が速く、見事に火球を食らって地面へと叩きつけられた。
直撃した腕が酷い火傷を負ったのが分かったが、その痛みに浸るのは今じゃない。このまま転がっていては暴れているグボロ・グボロに潰されて死にそうだ。
無理やり立ち上がってブラストに切り換える。オラクルリザーブで溜めたオラクルで追尾弾を撃ちまくる。目がチカチカするほどの勢いで撃てるだけの弾を撃てば、グボロ・グボロは虫の息になって倒れていた。
それをパパたちに任せて回復錠を噛み砕く。折れていない骨を探す方が難しいのではないかというくらいボロボロにされた私にそれが効くのかは甚だ疑問ではあったが、気休め程度にはなるだろう。ゴポリと溢れる血を吐きながらシユウを見れば、フードのチャージクラッシュを頭に食らい地に伏せた後だった。

「エン、エン、くっそ!!おい!輸送班急がせろ!!」

「酷い...火傷に骨折は数え切れないしこの様子だと内臓も傷ついてるわ」

「コウタは一人で歩けるか?」

「うん!俺は大丈夫だよ!」

「じゃああの布で巻いてエンの神機持って来い。ソーマは合流地点まで先頭で警戒、サクヤは殿を頼む」

こいつは俺が運ぶ、というパパの声と共に身体が持ち上げられる。折れた骨が内臓を傷つけないように横抱きにして運ばれているようだ。まだ自分で歩けるとは言ってみたが、もちろんそれは一蹴される。怒っている様子なので、約束を破ったことを謝れば、馬鹿野郎!!と怒鳴られた。

「エンは悪くないだろ!!なにも悪いことをしてない!むしろ良くやった!」

「だが、コウタに随分怪我をさせてしまった...私の大切な友人なのに...」

喉に溢れる血液に咳き込めば折れた肋骨が酷く痛んだ。身体中から甘い痺れを感じて叫び出したい気分なのだが、私の口から出るのは黒ずんで見える自分の血液だけだった。

「エンの怪我に比べたらこんなのどうってことないよ!それに回復アイテムまで...むしろ足手まといでごめんな」

「コウタは強、いじゃないか、私の怪我、は私が弱いか、らだ」

喋る度に溢れる血にまずいと思ったのか、もう黙ってろ、と言われて口を塞ぐ。適度に揺れるパパの腕の中で意識を保つことは中々困難で、思わず瞼が降りてくる。

「エン?おい!目は閉じるな!頼むから、なあ、駄目だ、起きろよ、エン、エン!!!」

そんなパパの必死な声が聞こえたのを最後に、プツリと意識が途絶えたのだった。

ALICE+