とあるドMは神を喰らう - deer

そうだ、一万回殴ろう

「はい、口開けて」

そんな橘副隊長の声に合わせて口を開ける。この歳になってご飯を食べさせてもらうというのは中々辛いものがあるが、そういうプレイだなと思うと大変美味しい状況だと思った。

「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

「これくらいいいのよ、気にしないで」

そう言って綺麗に微笑む橘副隊長に頭を下げようとするが、動くことができないためもう一度謝罪する。あの乱戦でボロボロになった私は骨が元に戻るまでは動かないようにギプスや包帯でキツく巻かれていた。
皿を片付けるために病室を後にした橘副隊長を見送って軽く息を吐き出す。わざわざ三度の食事を作らせることが申し訳ない限りなのだが、以前配膳された食事に毒が盛られた以上仕方がないのだろう。
支部長殿は私が毒で衰弱した場合の回復力を見たかったようだが、たまたまパパに引きずられ病室を訪れていたフードがそれに気づいて食べる前に発覚したのだ。匂いだけで分かるのは中々すごいと思う。おかげでこうして羞恥プレイが出来ると思うと頭がさがるのだが、残念ながら私は身体を動かすことが出来ないままだった。

「そろそろ頃合いかもしれねえな」

そう言って私の髪を撫でたパパを思い出す。支部長殿の隠していることを暴く準備が最終段階に近づいてきたらしい。これ以上危険に巻き込むわけにはいかないからとその内容は教えてもらえなかったが、その計画とやらには私の名前もあるそうだ。

「もしものことが起きても命令は守れよ?」

「ああ、もちろんだ。パパこそ、死んでも死なないでくれ」

「そうだな。約束だな」

無理やり腕を動かして小指を出せば、パパは一度驚いたように目を開いてから笑った。指切り拳万、嘘ついたら針千本飲ます、指切った、軽く指を揺らしながらそう歌う。本当はこの後死んだら御免という続きがあるんだが、それは本当にそう思った時だけ言うもので、約束には必要がないんだ、と言って兄は私の頭を撫でたことを覚えている。
パパは歌の続きまでは知らないようで、随分懐かしいな、と言って笑っていた。だが、何度聞いても物騒な歌だと思う。誠意を示すために指を切り落とし、嘘をついたら一万回握り拳で殴られ、針を千本飲まされる。少し心惹かれなくはないが、一万回も殴られた時点で恐らく死ぬので、理想的な歌とは言い難かった。

「もし約束を破ったら一万回殴って針千本飲ませたりはしないが、そうだな、もうパパと呼ぶことを辞めるか。雨宮隊長殿と呼ぶことにしよう」

「それは死んでも死ねねえな。父親首にされるくらいなら這いつくばってでも生きねえと」

「ああ、私もパパがいなくなるのは寂しいからな」

軽く目を伏せてそう言えば、パタパタと赤いものが散らばった。ぐおお...と呻きながら鼻を押さえている辺り、どこかにぶつけてしまったのかもしれない。心配するなと言いながら病室を出たパパに首を傾げて再びベッドに身体を預けたのだった。

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