とあるドMは神を喰らう - deer

その笑顔150円

「いやー!俺たち最強だよな!向かうところ敵なしって感じ?」

「油断は禁物だが、あのコンゴウの時よりコウタは格段と動きが良くなったな」

「んー?なんでだろうな、エンと任務行くと絶対他のアラガミが来るから、そいつら相手にしてる内に色々分かったりしてさ」

核心に触れる言葉に心の中で動揺する。やはりここまでイレギュラーが起きれば気づかれてもおかしくはないか。今日も小型アラガミの一掃だったはずだが、シユウにコンゴウが乱入してきた。慣れ、というやつなのか、小型アラガミを一閃で片付けて相手をすれば手こずることはなかったが、それでも受注時の情報と現状は異なったのだ。
調査班も案外適当なのかもなー、なんて笑うコウタに、アラガミが気まぐれなだけじゃないか?と返して報告へ向かう。今日も私の通信機は使えなかったが、当たり前のようにジャミングを食らったので、と嘘を吐いた。

「なあなあ、今からエンの部屋行っていい?」

「別に構わないが」

「マジで!よっしゃあ!ついでに夜飯作ってくれよ!この前リンドウさんにすげえ自慢されてさー」

そんな話をしながらエレベーターを待っていれば、出撃ゲートが開いてフードが入ってくる。お、ソーマおかえり!おかえりなさい。お先に失礼いたします、二人で挨拶するが、特に言葉は返ってこなかった。

「ソーマも今日の仕事終わりだろ?今からエンの部屋行って夜飯作ってもらうんだけどさ、ソーマも一緒に行かね?」

返事のない相手にもグイグイ話しかけるコウタに感心しながら返事を待つ。幸い、支給品を昨日受け取ったばかりであるので、二人に食べさせるだけの材料はある。このご時世なので好き嫌いに関しては我慢してもらうか。頭の中で献立を考えているとああ、とだけフードが口を動かした。
短い返事だな。私が思ったのはそれだけだったが、その答えが意外だったのか、ええええ!?と誘った本人が驚きの声を上げていた。そんなコウタの反応に無言で立ち去ろうとしたフードを引き止める。報告終わるまで待ってるから一緒に行こうぜ!屈託なく笑うコウタに毒気が抜かれたのか、黙って一度頷いた。

「今お茶を出すから適当に座ってくれ」

支給品の茶葉から作ったお茶を入れたボトルを冷蔵庫から取り出す。あまり大きくない冷蔵庫でやりくりするのは中々骨が折れるが、そもそも自炊する者が圧倒的に少ないのだから仕方がない。仕舞っておいたコップにお茶を入れてテーブルに並べればベッドに腰掛けたフードに意外そうな顔をされた。
粗茶ですが。昔ながらの台詞を言ってキッチンへ戻る。大の男が二人もいるのだ、いつもより沢山ご飯を作らなくてはいけない。コウタはともかく、フードはあまり家族というものに縁が無さそうなので、極東らしく暖かい和食を作ることにする。箸は使えるのだろうか。難しそうならフォークとスプーンを渡そう。そう思いながらエプロンをつければ、母さんみてえ!とコウタが笑った。

「私の両親は早くに亡くなったからそう言われると少し不思議だな」

記憶に無い母の姿に私もなれているのだろうか。ジャガイモの芽には毒があると教えてくれた兄の姿を思い出しながら丁寧に皮をむく。家事のやり方や知識を教えてくれたのは兄だったが、大工仕事以外はどうにも不器用で、幼いながらに私がやらねばと思ったものだ。

「ノゾミっていう妹がいてな!」

楽しそうに家族の話をするコウタに偶に相づちを打ちながら料理を進める。ああ、とかそうか、とか、短いがしっかり話を聞いている辺りやはりこの二人は仲が良いのだろう。死神と呼ばれているせいか、根本的には距離を置こうとしているようだが、コウタのようなタイプにはそんなことは通用しない。だから私はこの友人を尊敬しているのだ。

「エンの兄ちゃんってどんな人だったんだ?」

「私の兄か?そうだな」

腕の良い大工で、話し下手で、自分の気持ちを表に出すのが苦手で、とにかく不器用な人だった。だが、礼儀や食事のことには厳しくて、私はそんな兄を尊敬していた。

「私が風邪を引いた時、兄は必ずお粥を作ってくれたんだが、食べさせるのが下手でな。結局自分で食べるハメになるんだ」

熱すぎて火傷したり、タイミングが悪くて溢したり、本当に不器用な人だったのだと思う。今となっては懐かしい思い出だと思うと、兄が死んだことを改めて突きつけられているような気持ちになった。

「ああ、そう言えばあの時食べさせていただいたのは兄よりずっと丁寧でした」

ありがとうございます。そう言ってフードに改めて頭を下げる。そういやあソーマあの時エンを、コウタが言い切る前にその頭にチョップをかましていた。
痛え!と転がるコウタに埃が立つから暴れるな、と言ってフライパンを火にかける。ここからは同時進行になるので少し忙しい。
肉の無い肉じゃがに甘めの卵焼き。それに具の少ない味噌汁くらいしか作れないが、神機使いになる前よりはずっと豪華な食事である。本当ならば白米も付けたいところなのだが、そんな貴重な物は無いので、そこだけはパンで勘弁してもらおう。

「おお!なんか良い匂い!」

お腹が空いたのか私の後ろから鍋を覗き込むコウタにもう少しで出来る、と返す。結局好き嫌いは聞かなかったが、この反応を見る限り大丈夫だろう。

「...良い匂いだな」

コウタに引っ張られてきたフードが呟きを落とす。肉は無いですが肉じゃがという極東の昔ながらの料理です。肉が無いなら肉無し肉じゃがじゃね?...長い。コウタのだけジャーキーでも入れるか?いい!いい!あんな不味いの絶対嫌だ!硬すぎて全く美味しくない支給品のジャーキーはコウタにも不評なようだ。細かく砕いて水で柔らかくしてみたりはしたが、どうにも食べられるような味にはならなかった。

「本当は冷まして味を染み込ませるともっと美味しくなるんだが、コウタの腹はもう待てないようだからな」

「ソーマだってそうだろ?こんな良い匂いしたら誰でも腹減るっての!」

そのコウタの言葉を否定しない辺りフードもお腹を空かせているのだろう。味噌を溶き終えた味噌汁の火を止めて一度台へ避けておく。熱すぎては食べるのが大変だし、何より今から最後の卵焼きを焼かなくてはいけないのだ。
卵焼き専用のフライパンで手早く巻き上げて形を整える。コウタはあまり料理を手伝ったことがないのか、スゲー!と声を上げていた。
出来上がった料理を皿に入れて運んでもらう。味噌汁を溢さないようにそうっと運ぶ姿が中々可愛らしかった。

「いただきます」

当たり前のように手を合わせれば、釣られて二人も同じように手を合わせる。いただきますとごちそうさま、これだけ言えるなら十分だろう。

「旨えええ!!」

大げさな程にそう言ってくれるコウタ。口に合って良かった。パパの時も同じことを言った気がするが、手料理を振る舞うのはこれで三人目であるので仕方がない。味の好みくらい聞けば良かったと今になって思ったが、コウタは言わずもがな、フードも箸が進んでいるところを見ると味付けに問題はなかったようだ。

「パンで申し訳ないな。本当は白米で食べるのが正解なんだが」

「俺たちじゃまた手が届かねえから仕方ねえよなー」

もっと上の肩書きになれば米の支給もあるらしいが、生憎私はただの強襲兵だ。コウタもまだ狙撃兵であるし、米などという高級品は夢のまた夢のようなものだった。

ALICE+