とあるドMは神を喰らう - deer

良い子の頭は撫でてやれ

雨宮リンドウが戦場に取り残された。生死は不明である。その事実はアナグラに衝撃をもたらした。雨宮リンドウという男は誰もが認めるほど強かった。共に任務へ行った者の生存率は高く、誰からも信頼を置かれていた。
だからこそ、その者を失ったことに動揺しない者はいなかった。その不安を埋めるように不愉快な言葉が囁かれる。死神のせいだ。何も知らない連中は、全てをソーマのせいにしようとした。恐らく、これは支部長殿に仕組まれたことであり、ソーマは何も悪いことをしていないというのに。

「ソーマがいなかったら私たちは全滅だったな」

パパの命令を守れないところだった。エントランス中に聞こえるようにソーマに話しかける。何故ソーマが悪く言われなくてはならない。何もできなかったのは私だというのに。いつかこうなることが分かっていたのに。

「すまない。私が弱いせいでパパを助けられなかった」

あの瓦礫を吹き飛ばせるほどの力があれば私はパパを助けられたのだろうか。支部長殿の計画をぶち壊すほどの力があれば、パパをあんな目に遭わせることはなかったのだろうか。

「...お前のせいじゃねえだろ」

「私のせいさ。自分を娘と呼んでくれた人すら助けられない私が悪いんだ」

大切な人が出来ると人は弱くなる。失いたくない。そんな恐怖は生きることを後ろ向きにさせる。それが嫌というほど分かってしまった。だが、同時に私は強くなりたいとも思うのだ。もう誰も失わずに済むように。この手で守れるように。

「ヴァジュラに未知のアラガミが何体も襲って来た。あの状況じゃあどうしようもなかった」

「...そうかもしれないな。だから、少なからずソーマのせいでもない」

自分で言ったんだ。ソーマのせいなんかじゃないさ。いつもより深くフードを被っているソーマの顔を覗き込んでそう言えば、ああ、と小さな声が返ってくる。ソーマは良い子だな。止めろ気持ち悪い。思っていたよりずっと可愛いところがあるこの男に手を伸ばして頭を撫でる。ついでとばかりにフードを剥ぎ取れば、嫌そうな顔で舌打ちをされてしまった。

「...お前は平気なのか」

「ああ、約束したからな」

「そうか」

「ありがとう、気を遣ってくれて」

そう言ってもう一度頭を撫でようと手を伸ばせば、今度こそその手を叩き落とされたのだった。

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