とあるドMは神を喰らう - deer

人間腐らせるには早すぎる

ロシアは情緒が不安定な状況らしく、面会謝絶の状態が続いていた。橘副隊長にとってパパはかけがえのない人だったらしく、酷く取り乱し、任務どころではなかった。
つまり、今の第一部隊は三人しかいないのである。何ということだ。是非とも支部長殿を殴りに行きたい。最前線の戦力をここまで削って何の意味があるというのだ。

「すまない、アリサの見舞いに行ってやってくれないか」

恐らく、アナグラにいる人の中で一番辛いのは弟の生死が分からない雨宮教官だ。だが、それを一切外に出さずにこうして他の者まで気遣うとは流石パパの姉上である。だからこそ私は何も言わずその指示に従った。
眠っているから話せないと言われたが顔を見るくらいは許されるだろう。雨宮教官にもそれを伝えなくてはならない。静かにベッドの側の椅子に腰掛ければ、いつもよりさらに白い顔をしたロシアが静かな寝息を立てて眠っていた。
常に見舞われる側であったためこういう時どうすればいいのかわからなかったが、このまま放っておいてはロシアがどこかに消えていってしまうような気がして、そっとその手に自分の手を重ねた。
眩しい光に包まれたと思うと断片的に色々な映像が流れて来た。二人の大人、廃墟に現れたアラガミ、そして。叫び声と共に光が治る。どうやら直接頭に流れ込んで来た映像だったようだ。

「今の、一体...」

強い薬で眠らされていたはずのロシアがそう呟く。何だか、すごく温かい...私の兄との記憶を見たらしい。そっくりですね。よく言われます。父譲りの白髪に赤い瞳。生まれは一体どこだっただろうか。極東にいる理由は母に一目惚れしたからだったな。そんなことを思い出しながら相づちを打っていると、主治医の男が何やら狼狽えながら部屋を飛び出した。
私とは違い、精神的な理由で入院しているのだから長居は良くないだろう。そう思い、また来ることを伝えて席を立つ。

「あの、良ければコウタたちのように接してもらえませんか...?」

不安そうに布団を握り締めている。下を向いてどんな言葉が返ってくるのかと怯えているようにも見える。そんな彼女を突き放すほど私は腐っていない。ああ、承知した。また来るから今日は休んでくれ、アリサ。そう言った私に嬉しそうに返事をする辺りこの少女も悪い子ではないのだろう。
案外ああいう態度で弱い自分を必死に隠していただけなのかもしれない。個人的には蔑まれてブーツで踏みつけてもらいたかったが、アリサが自分らしくいられるようになったことは喜ばしいことである。
アリサの病室を後にして雨宮教官に報告へ向かえば、どこかホッとしたような顔をしていた。罪滅ぼしではないが、いつかパパが消されることを知っていながら何も出来なかったから、せめてその姉上の気苦労が減るようにしようと思ったのだった。

ALICE+