とあるドMは神を喰らう - deer

馬鹿を叩いても馬鹿にしかならない

様子をみるついでにアリサのことを報告しに橘副隊長の部屋へ行けば、アリサを頼まれたので深く頷く。頼まれなくとも友人のためならいくらでも力になるつもりなのだ。
そんな話をして自室へ戻ろうとすれば、エレベーターから降りて来たソーマに会った。そうか、ここはベテラン区画なのでソーマの部屋もあるのか。だが、ソーマは私を見てバツの悪そうな顔をした。それをスルーするわけにもいかず声をかければ、黙って腕を引かれ、ソーマの部屋へ入ることになった。

「...掃除してもいいか?」

「好きにしろ」

ソーマが話したいと思うタイミングで話せばいい。それまでこの荒れ果てた部屋を掃除することにした。ターミナルの液晶は割れ、部屋も傷だらけだったが、ソーマはソーマで色々あるのだろう。
兄がいたら直せるのだが、私は家事くらいしか出来ないので、落ちている衣類を集めて洗濯機に入れる。流石にガラスが落ちたままは危ないので、それを拾ってまとめ、ポケットに入っていたハンカチに包んだ。
埃を被っていたテーブルを濡らした布で拭いていく。窓枠にキッチンも埃を被っているとは、衛生的に見ると中々酷い部屋だった。

「...エリックが死んだ」

エリックというのはあの赤髪の男だろう。私に不死鳥という名前をつけたのもあの男だった。ソーマにとってエリックというのは悪いやつじゃなかったらしい。友人だったのかもしれない。そんな者が死んだというのはソーマにとってとても辛いことのようだ。
聞けば、外部居住区に侵入したアラガミとの戦闘中に逃げ遅れた小さな女の子を庇ってコンゴウに致命傷を喰らったらしい。防衛班が沈黙したエリックとその神機を持ち帰ったが、雨宮リンドウの捜査が打ち切られた直後のアナグラに、ゴッドイーターの死という知らせは重すぎたのだ。

「ソーマは悪くないだろう?」

ベッドに腰掛けて下を向いているソーマを覗き込むように床に膝をつく。硬く握られた手を解いていけば、手のひらが爪で抉れて血が出ていた。

「私は友人が少ないからな、まだソーマの気持ちを理解することは出来ないだろう。だが、これでも家族を皆亡くしているから少しは分かるつもりだ」

兄が死んだ知らせを聞いた時、希望が絶望になったらどうすればいいのだろうと思った。兄は希望だったのだ。サテライト拠点を守る。だが、そんな希望がいなくなってしまった。希望の無い世界には絶望が訪れる。死ぬということは絶望を伴うのだ。
あまり口が上手くない自分を呪った。兄にもっと伝えたいことがあった。尊敬していたこと、育ててくれたことへの感謝。どうして私はそれを言わなかったのか、言えるタイミングなど沢山あったのに。
だが、そこで立ち止まることは出来なかった。そんなことを兄は許さない。前が見えないのなら、歩くことが出来る道を作らなくてはいけないのだ。

「随分後悔をした。言いたいことが沢山あったんだが、それを言う前に兄はいなくなってしまった。だが、私の兄は私が立ち止まるなんてことを許す人じゃないんだ」

無いなら自分で道を作れ。それが出来ないなら、私がソーマの道になる。私はソーマに立ち止まって欲しくない。失う恐怖に怯えて、独りになんてなって欲しくない。...お前が作る道は狭そうだな。ソーマが歩けないならおぶるぞ?いや、いい。遠慮はいらない。お前本当にリンドウに似てるな。パパと似ていると言われて嬉しくなる。娘だからな。私の言葉にソーマが呆れたように笑った。

「どうしてお前は俺にそんなことを言う」

「仲間だろう?」

「随分馬鹿なんだな」

「最近よく言われるな」

ごちそうさまです!と言うべきなのだろうか。馬鹿と言われるのにも興奮するので、ありがたい限りである。

「俺は化け物だ。仲間なんて言うんじゃねえよ」

「じゃあ私は不死鳥だ。今度こそシユウの羽根を千切って空を飛んでやろう」

「...そんなやつの仲間なんざ御免だな」

「仕方ない、シユウは諦めるか」

ザイゴートなら良いのか?良いわけねえだろ馬鹿。ソーマの容赦ないチョップに頭を抑えて蹲る。痛い。痛くしたからな。酷いぞ。お前が馬鹿だからだろ。これでは堂々巡りにしかならない。空を飛ぶのは諦めるか。ああ、そうしろ。私の空を自由に飛ぶ計画は中止するしかないようだ。

「ソーマは友人を亡くして心を痛ませるいいやつだ」

そんないいやつは頭を撫でてやろう。やめろ気持ち悪い。照れなくてもいいぞ。照れてねえよ。私の手首を掴んで撫でるのを阻止しようとするソーマと力比べのようになる。いいじゃないか、撫でられるのは嬉しいだろう。そんなこと一言も言ったことねえ。私が好きだからいいだろう。知るかそんなこと。やはり男の力には敵わないようで、バランスを崩した私は背中から床に倒れてしまった。

「なあソーマ、エン見てねえかって、え?」

私を連れて来た時は扉にロックをかける余裕がなかったのか、そんなコウタの声と共に扉が開いた。こんなことが前もなかっただろうか。そう思っていると、コウタの叫び声が響いた。

「きゃあああああああああ!!!ソーマが、エン押し倒してる!!!!」

猛スピードで部屋を飛び出していったコウタに舌打ちをしたソーマが部屋を飛び出す。ああ、ソーマの頭を撫でそびれたな。そんなことを思っていると、ピーッと洗濯の終わった音が聞こえたので、ソーマの洗濯物を干していった。

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