とあるドMは神を喰らう - deer

引っ越しは友人と共に

「前リーダーであるリンドウ君が使用していた部屋だ」

帰投してすぐ支部長室へ呼び出された私は権限の強化、ベテラン区画の個室が与えられることなどの説明を受けていた。パパの部屋を私が使うようになる日が来るとは。そんな感慨に浸っていると、義務として特務を引き継ぐようにと伝えられる。
果たして私ごときがパパのしていたことを出来るのかは甚だ疑問ではあったが、こんなところでそれを言ってもどうしようもない。承知いたしました。そう言って深く頭を下げ、支部長室を後にした。

「引越しか」

元々荷物は多くないので引越し自体は大した問題じゃない。だが、私がパパのいた場所を無くしているような気がして少し嫌なのだ。私は雨宮リンドウにはなれない。仲間を、友人を守りたいと心から思うが、だからと言って、私はパパのように信頼が厚いわけでもなく、強いわけでもない。
偏食因子が異常な新型神機使いというだけである。そんな私がパパの場所にいるというのはただ、そこを穢すことにしかならないのではないだろうか。

「エン、少しいいですか?」

そんなことを考えていると、ノックの音と共にアリサの声が聞こえた。ああ。そう返事をして扉を開ければ、引越しでもするんですか?と不思議そうな顔をされた。

「ベテラン区画に部屋が変わるんだ」

「ああ、もうリーダーですもんね」

怪我ばっかりしてますけど。橘副隊長にも言われたな。...私知ってるんですから!怒ったような顔でアリサに詰め寄られる。どうしたんだ?何か怒らせるようなことをしただろうかと首を傾げれば、エンの馬鹿!と怒られてしまった。

「ソーマの上着着てる時は、私に怪我を隠してるくせに!!」

アリサの心に負担をかけさせないために隠していたのだが、どうやらあまり意味がなかったようだ。ソーマにも謝らないといけないな。そんなことを思っていると真剣な顔のアリサと目が合った。

「私は、沢山...言葉なんかじゃ言い表せないほど迷惑をかけました。取り返しのつかないことをしました。まだ弱いし、あまり役にも立たないかもしれない。でも、私は友だちに怪我を隠されるなんて嫌です!」

「すまない。怪我をしないと約束したが中々守れなくてな。心配をかけさせるべきではないと思って隠していたんだが」

「馬鹿なんですか!知ってますよ、エンが馬鹿ってことくらい!!それにバレバレなんですよ!ソーマの上着着てる日はソーマがずっと心配そうな顔してるんですから!」

「そうなのか?」

「そうですよ!もう!それに、友だちなら、仲間なら、心配させてください。いくらでも心配してあげますから」

私にとってエンは大切な友だちなんですから!顔を真っ赤にしてそう叫ぶアリサにありがとうと言って抱き締めた。怪我人が何してるんですか!アリサの言葉が嬉しくてな。鼻を啜りながら私の肩に顔を埋めるアリサの背中を撫でれば、エンなんて大好きですと可愛いことを言われた。

「良かったらご飯を食べていかないか?」

落ち着いたアリサに引越しを手伝ってもらい、その礼としてご飯を作る。どうやらアリサは料理が苦手なようなので、大人しく後ろで見ていてもらい、簡単なカレーを作る。スパイスは索敵中に密かに集めた物から作ったので、あまり多くは作れない。
本当は支給品の中にルーがあるのだが、野菜や回復錠の材料などを優先してもらっているため、ルーまでは手が届かないのだ。
ソーマがくれた米はソーマに初めに食べさせようと決めているので、小麦粉を練ってナンを作る。ナンって作れるんだ...アリサの小さな呟きに、今度はアリサも作ってみるかと尋ねれば、一生懸命首を縦に振っていた。

「ごちそうさまでした」

何度も美味しいと言いながら食べてくれたアリサに礼を言って皿を洗う。手伝うと言ってくれたが、試しにやらせてみると盛大に皿を割ったので、ソファで大人しくしていてもらうことにした。

「あの、エン」

「何だ?」

「その、私は、エンがリーダーで嬉しいですよ。エンは、私も守りたいって思える人だから、エンがリーダーだと強くなれる気がするんです」

じゃ、じゃあもう遅いので帰りますね!恥ずかしそうに頬を染めたアリサが部屋を飛び出していく。ああ、本当に、私は良い友人を持ったものだ。そう思いながら水を止めるために蛇口を捻るのだった。

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