とあるドMは神を喰らう - deer

好奇心で殺されるのは猫だけじゃない

支部長殿に呼び出された折にエイジス計画に力を貸すように求められた。最終段階に入っているそうだが、人類を守る箱舟とやらに私は乗るつもりはない。この世界で死んだ家族を置いてまで生きていたいなどとは毛ほども思わなかった。
変わらない表情を携え、頭を下げて部屋を出る。来客があったとのことだったが、その正体は榊博士だったようだ。

「君は好奇心旺盛なほうかな」

そんな言葉を残して支部長室へ入って行った榊博士から目を離せば、床に落ちた一枚のディスクが目に入る。この中に何があるのだろうか。私はそれを知るべきなのだろうと、自室のターミナルでそのディスクを見た。

「エン?どうかしましたか?」

「いや、少し口の中を噛んでしまってな」

「旨いもの食うと口の中噛むって言うよなー」

「大丈夫?血は出てない?」

「部屋の中でまで怪我すんなよ」

顔を覗き込んでくるアリサに返事をすれば、口々にそんな言葉が返ってきた。大丈夫です。そう返して口を動かせば、白米の甘みが口の中に広がった。
今日は私のリーダー就任祝いという名目で第一部隊全員で鍋を囲んでいた。前より広くなったとはいえ、五人もいると中々賑やかだ。コウタ、ソース取ってください。ソース!?鍋だぞ!?違います!卵焼きにかけるんです!...だし巻き卵にソースをかけるな。いいじゃないですか!好みなんですから!
そんな三人を微笑ましそうに見ている橘副隊長も、コウタが鍋にプリン味のレーションを入れようとした時は全力で止めていた。止めなさい!!ここは闇鍋もしようよ!絶対不味いに決まってるじゃない!結局ソーマのチョップでプリン味レーション鍋は回避することが出来た。

「隙あり!」

そんなコウタの声と共に私の皿の肉が奪われる。リーダーの権力で何とか入手した肉が次々とコウタの腹の中に消えていくが、育ち盛りだから仕方ない。沢山食べるといい。私がもう一枚肉を分けようとすれば、お前も少しは食えとソーマに叩かれた。

「コウタは食べ過ぎなんですよ!」

「俺は育ち盛りなの!」

「あら、ソーマもアリサも同じようなものでしょ?」

「そうだな」

無防備だったコウタの皿から肉が消える。あー!ソーマが食った!!お前も食ってるだろ。肉を巡った争いは中々終わりそうにない。もう、子どもなんですから!そういうアリサの皿にも肉が多く入っている。こういうのも賑やかで良いわね。楽しそうに笑う橘副隊長に大きく頷いておいた。

「あら、アリサとコウタは寝ちゃったのね」

そう言って橘副隊長が、口を開けて眠るコウタと机に伏せて眠るアリサを慈しむように撫でる。二人とも沢山食べましたので。鍋を食べるのにも体力を使ったはずだ。すっかり眠たくなってしまったのだろう。
出来るだけ音を立てないようにしながら食器を片づける。前と同じようにソーマは洗ったそれを拭いてくれていた。

「私はこの子たち送ってくるわね」

「ありがとうございます」

「こちらこそ、本当に楽しかったわ」

おやすみ。アリサとコウタを肩に抱えた橘副隊長が部屋を出て行く。あんなに細いのに軽そうに二人を担いでいるあたり、流石ゴッドイーターだと思う。逞しいな。ああ。そんな言葉を交わした頃には、使った食器を片付け終わった。

「で、何があった」

ソーマもそろそろ休むといい。私がそう口にした時、腕を掴まれた。何と言っていいのか分からず下を向く。俺には言えねえことなのか。そんなソーマの声に顔を上げれば、傷ついたような顔が目に入った。

「...ソーマの部屋に行ってもいいか?」

この部屋で話すには少々問題がある。掃除をしている時に見つけた盗聴器はおそらく部屋中に仕掛けられている。下手をすると監視カメラまであるのかもしれない。そんな中で私が見たディスクの話をしたくはない。盗聴器を見つけて以来、ターミナルを見る時はヘッドフォンをつけるようにしているので、その計画を知らないことになっているはずだ。

「行くぞ」

何も聞かずに私の手を引くソーマにありがとうと言いながら足を動かす。これを知って支部長殿はどう思うのだろうか。考えても分からないそれを飲み込みながらソーマの部屋に入るのだった。

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