とあるドMは神を喰らう - deer

重りがあるから飛べることもある

「エン」

「...ソーマ?」

「身体冷やすぞ」

「ああ、寝てしまったか」

シオと家族の話をしている内に二人とも眠ってしまったようだ。ソファで寄り添うようにしていた身体を起こせば、重力に従ってシオが膝に落ちてきた。それでも起きないのだからシオは深く眠っているのだろう。
そっと持ち上げてベッドに入れてやれば、気持ちよさそうに寝返りをうった。首元まで毛布をかけてやると、イタダキマスと寝言を言っていたので、きっと美味しいものを食べる夢でも見ているのだろう。シオも夢を見るのかは分からないが、人間に近いのならあり得るのかもしれない。

「迎えに来てくれたのか?」

「誰かが部屋にいなかったからな」

「すまない。私にはあまり時間がないからな。タイムリミットが来るまではシオと共に過ごしたいんだ」

「時間がないだと?」

私の言葉に不安を感じたのか、ソーマが心配そうな顔をする。私は監視対象だからな。支部長殿が出張から帰ってきた時がタイムリミットだ。もうそうなってはシオに会いには来られない。
せめてそれまでに教えられることは少しでも多く教えておきたい。シオには色々なことを知って欲しいのだ。

「あいつが戻って来たらもうここには来ねえのかよ」

「ああ、どうにも嫌な予感がしてな。シオを守るには私がいなくなるのが一番だろう」

「本当に馬鹿だな」

「そうだな、私もそう思う」

それでも私は自分のせいでシオを危険な目に遭わせたくない。私がここに来なければ、シオのことを支部長殿が嗅ぎつける可能性はかなり減らせるはずだ。

「もし俺がこいつと同じ立場でもそうするのか」

「ああ、それでソーマが守れるのならな」

「そんなことされて喜ぶと思ってんのか」

「私のせいで誰かが傷つくくらいなら、喜んで消えるさ」

怪我をするのも傷つけられるのも私だけで十分なのだ。私はただのドMで、誰よりもそういうことに耐性がある。むしろ悦びすら感じる。だが、私の仲間はそうじゃない。自分のせいで仲間を傷つけるなど、そういうプレイだとしてもお断りだ。

「たとえそうなっても俺は離れねえぞ」

「その気持ちは嬉しいが、もし私のせいでソーマが傷つくのなら、そうだな。どこか遠くへ飛んでいってしまおうか」

私は不死鳥だからな。いつか翼が生えたら空を切って高く飛ぼう。誰も傷つかなくていい遠い空の果てへと飛んでいくのだ。そうして、忘れられる存在になった私は、ひっそりと不死鳥であることを辞めよう。

「駄目だ」

「もしもの話だ」

「それでも駄目だ」

「わがままだな」

まるで、私が飛んでいってしまわないように腕を掴むソーマの頭を撫でる。勝手に俺の中に入って来たのに、勝手にいなくなるなんて誰が許すか。ああ、確かに。私がしてきたことは勝手だったな。それでこうして同じ時間を過ごせるようになったのだから、決して間違いではなかったのだろう。

「同じ時間を過ごしてくれてありがとう」

誰かが隣にいてくれる幸せを与えてくれているのは紛れもなくソーマだ。この幸せがソーマにも伝わればいいと、その背中に腕を回せば、同じように返してくれた。

「エン?ソーマ?」

私たちが抱き合っていると、眠っていたシオが目を覚まして覚束ない足取りで歩いてきたので腕を伸ばして抱き寄せる。二人でシオを挟んでいる状況はまるで家族のようだと思った。

「これ、イタダキマスか?」

「いや、こういうのは幸せというんだ。私はシオもソーマも大好きだから、二人に抱きしめられると幸せなんだ」

「シアワセってエライな!」

「好きな相手はこうして抱きしめるといい。きっともっと幸せになれる」

「えへへ、シオもシアワセだぞ!」

そんな可愛いことを言うシオに私の持っている愛情を全て伝えるように唇を落とす。くすぐったいと楽しそうな声を上げるシオのおかげで、心が幸せで満たされていくようだった。

「あら、本当に親子みたいね」

「ソーマとエンが夫婦なんて認めませんよ!」

「まあまあ、もう少し寝かせといてやろうよ」

榊博士の招集で研究室へ来たコウタたちは、川の字で眠る三人を眺めながら、そんな話に花を咲かせるのだった。

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