とあるドMは神を喰らう - deer

別れの季節が冬とは限らない

ソーマに抱えられた状態で目を覚ませば、起きたかと呆れた声が降ってきた。おはよう。...ああ。今は一体何時なのだろうか。とりあえず起き出そうとしたが、ソーマの腕のおかげで身動きがとれない。

「身支度がしたいんだが」

「まだ時間あんだろ」

ソーマに言われて時計を見れば、五時を少し回ったところだった。確かに起きるには早すぎるが、特に眠たくもない。そう伝えてみたものの、離してくれる気は無さそうだった。

「何かあったのか?」

縋るように私を抱きすくめるソーマの髪を撫でながらそう言えば、少し言い淀むように下を向いた。

「あいつが近い内に帰って来る」

「そうか」

もうシオと一緒にいられなくなってしまうのかと思うと寂しくなる。だが、私はそうすることでしかシオを守ることが出来ないのだ。シオを頼む。私には出来ないことをソーマに頼んだが、黙ったまま返事をしてくれなかった。

「俺はお前じゃない」

「そうだな」

「お前がしたいことはお前にしか出来ねえんだ」

「分かっている」

「だったら」

「私には離れることしか出来ないんだ。私の代わりになんてならなくていい。ソーマはソーマとしてシオの傍にいてくれないか」

私はソーマにはシオが必要だと思うのだ。私では感じてやれないことをシオは感じることが出来る。お互いの気持ちを共有出来るはずだ。近い存在であるからこそ、ソーマとシオは共にいるべきなのだ。

「シオにはお前が必要だ」

「そんなことはないさ。私はそんな大した存在じゃない」

「本気でそう思ってんのか」

「ああ」

「ふざけんな!」

「ふざけてなどいない」

「シオにとってお前は母親みたいなもんだろうが!家族なんだろうが!」

「親離れは必要だろう?そしてその代わりにシオは大切なものを見つけて強くなる」

「その中にエンがいねえわけねえだろうが!」

「子どもというのは、親が思うよりずっと早く育つものだ。私はその先には必要ない」

そのために私はシオに知っていることを伝えてきた。いつか彼女が選ばなければいけなくなる選択肢を少しでも増やすことが出来るように。守りたいものを守るための知識を、その思いを。

「ソーマならシオの大切になれる。きっとソーマもシオが大切になる。その先はシオとソーマが作っていくといい」

「...俺からも離れるつもりかよ」

「私はソーマの枷になりそうだからな」

もし、私とシオを天秤にかけることがあれば、きっとソーマは私を選んでしまう。だが、私はシオを選んで欲しいのだ。ソーマの心に寄り添うことが出来るシオを。
そしてこれは近い内に現実になる。支部長殿が帰って来るのだ。シオという少女には、それだけの価値がある。榊博士が言うのだから間違いはない。私はいくら傷つこうが平気だが、シオを利用などさせてやるものか。

「俺は離れねえって言っただろ」

「ありがとう。私はその言葉だけで十分だ」

そっとその手を解いてベッドを抜け出す。これで仲間を守れるのなら、私はいくらでも心を押し殺そう。

「おい、エンッ!」

以前からまとめていた荷物を持って部屋を出る。今まで聞いた中で一番悲しそうな声のソーマを置いて、私はソーマに背を向けた。

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