とあるドMは神を喰らう - deer

特等席の値段は人によって変わる

「さっきの歌を歌ってくれないか」

「うん!いいよ!」

シオの口から綺麗な旋律が紡がれる。アラガミだということを忘れてしまいそうなほど美しいと思った。この歌に込められた意味はまだあまり理解出来ていないようだが、それでもシオの歌は私の心に染み渡っていった。

「...何してんだ」

「今日は私だけの特別なステージだったんだが」

「観客は多い方がいいだろ」

私の隣に座ったソーマにまた怪我をしたのかと睨まれる。擦り傷だ。一回辞書で骨折を調べてみろ。厳しい口調でそんなことを言いながらも、丁寧な手つきで応急処置をしてくれた。

「可愛いな」

「...ああ」

目を閉じて歌うシオを見てそう言えば、そんな返事が返って来る。随分素直になったな。うるせえ。シオとソーマは私がいない間に特別な関係になれたようだ。
少しだけ覚えている部分を鼻歌で歌いながらシオの姿を目に焼きつける。きっともうシオとは会うことが出来ない。私たちはそれぞれの道を進みだしたのだ。

「うっぐああああっ!」

感傷に浸っているとシオが突然苦しみ始めた。シオ!シオ!ソーマが必死に呼びかけたが、何かを呟きながらエイジス島の方へ向かおうとする。

「そっちは駄目だ」

アーク計画の中枢になどシオを行かせるわけにはいかない。骨折の痛みなど忘れてシオ後ろから抱きしめる。何とか動きを抑え込んだが、シオは意識を失ったようで、その身体から力が抜けてしまった。

「アナグラへ戻るぞ」

シオを抱えて帰ろうとすれば、怪我人はすっこんでろと言われてしまう。せめて最後にとその額に唇を落とすのだった。

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