とあるドMは神を喰らう - deer

ちちんぷいぷいは二十歳まで

「お前はこれでいいのか」

「もちろんだ」

進む道は違えてしまった。だが、きっとこれでいいのだ。それぞれが、守るべきものを守るために進む。私はそれを心から誇りに思う。だからソーマも守るべきものを守ってくれ。そう言って立ち上がった。
支部長室への呼び出しのメールが来たのだ。ここでの会話は全て筒抜けだ。となればもうその先にあるものは限られている。コウタとの別れも済ませた私にもう思い残すことはない。

「俺には何も無しかよ」

「だから、後は頼むと」

そうじゃねえだろ。泣きたくなるほど優しい手つきでソーマに腕を掴まれる。振り払うのは簡単だが、今の私にそんなことは出来なかった。

「嫌なら突き放せよ」

暖かい腕の中に引き寄せられる。こうして温もりを感じるのはソーマから離れたあの日以来だった。

「私には未来が無いんだ」

「それでもお前は生きてるじゃねえか」

「私は枷にしかなれない。私がいる限り、幸せになんて」

「人の幸せを勝手に決めてんじゃねえよ」

「だが」

「もう黙ってろ」

その言葉と同時に唇が重なる。どうして。そう口を動かそうとしたが、顔を動かさないように手を添えられてそれは叶わない。何度も角度を変えるそれに息苦しさを感じ始めた頃、ようやく唇が離れた。

「愛してる相手にはキスをするんだろ」

「どうしてソーマが」

「俺はお前が離れてからずっとイラついてた。お前の飯が食いたくて、朝いい匂いがしないことが物足りなくて、手の届く距離にお前がいなくて」

「...すまなかった」

「全くだ。...俺にはその理由は分からなかったが、最近やっと気づいた。エン、俺はただの男としてお前を愛してる」

私とソーマの距離が無くなる。唇が酷く熱い。そこだけ熱を持っているような気がした。何度も重なるそれにどうしていいのか分からなくなった。

「お前は?」

「私は...」

私が言い淀んでいる間にもソーマは頬に額に瞼に口づけてくる。ついばむようなキスにくすぐったいと言えば、愛はくすぐったいからなと返って来た。

「一つ魔法をかけてやる」

ちちんぷいぷい。お前は俺を好きになる。随分可愛い魔法だ。まさかソーマがちちんぷいぷいと言うとは思わなかった。きっとシオから聞いたのだろうが、いくらなんでも可愛すぎはしないだろうか。

「私はきっとソーマを幸せに出来ない。だからせめてソーマが寄り添い合える相手を増やしていこうと思った。私ではソーマと気持ちを共有してやれない」

「勝手だな」

「ああ。だが、それでも私を選んでくれるなら、ソーマの傍にいていいのなら、ただの女でいいのなら」

私の好きな青色を見つめて言葉を紡ぐ。愛している。そう伝えた瞬間、また唇が重なった。

「最後に一つだけわがままを聞いてくれないか?」

最後のわがままをその耳元で伝える。ついでとばかりに耳にキスをすれば、真っ赤に染まっていた。初心だな。軽く撫でて身体を離せば、死ぬなと言われたが、それに返事をせず、支部長室へと歩き出したのだった。

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