とあるドMは神を喰らう - deer

愛の形は人それぞれ

「...終末捕喰は止まらないのか」

動き出したノヴァと呼ばれるものが動き出す。諦めないでとサクヤさんが叫ぶが、終末捕喰は止まらないと榊博士が断言した。本当に星の再生というシステムには抗うことができないのだろうか。

「君には、随分すまないことをした」

辛うじて人間としての意識が残っている支部長がそう言った。死にゆく者の謝罪など必要ない。本当に君は、父親に似ているな...終末捕喰が起ころうとしている今、その命を終えようとしている今、この男が話すべきなのは私などではない。

「ソーマ、お前たちは箱舟に乗れ...彼女と、未来を...」

「支部長あなた...」

サクヤさんが声を詰まらせる。箱舟に元々自分の席などないと自嘲する支部長は、最後に父親らしくソーマを想った。後の世界を生きろと言ってその命を終えた。

「ごめん、約束守れなかった...」

「コウタ...」

コウタは無事に帰ると約束をしたらしい。隊長としてそれをさせてやれないことが申し訳ない。それを謝ろうとすれば、端に寝かせたはずのシオの身体がノヴァに覆われる。シオ!ソーマの叫び声が響いた時、ノヴァの額が綺麗な青に染まった。

「ありがとね」

「...シオ?」

シオの声にノヴァを見れば、少しずつ上昇していくようだった。駄目だ、シオ。酷く痛む身体を無理やり動かしてシオの元に駆け寄る。

「シオ、お前...」

「あっちの方が、美味しそうだから」

「まさか、ノヴァごと月に持っていくつもりか!?」

榊博士の驚いた声にノヴァを見上げる。お餅みたいだからと言うシオに何度も首を横に振る。

「駄目だ、月には餅をつくうさぎがいるんだ、だから食べるならこの星にしろ」

「えへへ、じゃあ一緒にお餅作るね」

「シオはまだ生きてるんだろ!!榊!!」

「私にも分からん!!」

冷たくなったシオの頬を撫でる。一人で私たちを救おうとしているのだろうか。こんなに小さな身体で、この星の全てを守るつもりなのだろうか。

「今なら分かるよ、本当の人間の形!食べることも、誰かのために生きることも、誰かのために死ぬことも、誰かを許すことも、誰かを愛することも...それがどんな形をしてても、みんな誰かと繋がってる!」

「シオ...」

私が伝えたことが分かるようになったと嬉しそうに言うが、ノヴァの上昇は止まらない。傍にいてくれないのか。えへへ、ごめんなさい。アリサが後ろで泣き崩れる。

「戻って来いよ!!」

コウタの叫びにもシオはさよならするねと言って偉いかどうか聞いてくる。全然偉くないとアリサが叫んだが、ごめんなさいと可愛らしく笑った。

「もう行かなきゃ...だから、お気に入りだったけど、エンが大好きだから、ソーマが大好きだから、みんなが大好きだから、お別れしたがらない自分の形を、食べて!」

「そんなこと出来るわけないだろ!!」

「ソーマ、美味しくなかったら、ごめん」

「...一人で勝手に決めやがって。誰に似たんだこの馬鹿」

「えへへ、家族、だから、離れてても一緒だから」

「...ソーマ、頼む」

シオが決めたことを私がこれ以上止めるわけにはいかない。本当に立派に育ってくれてありがとう。最後の口づけを額に落とせば、くすぐったいと笑ってくれた。

「...お前はいいのか」

「私はずっと一緒にはいてやれないからな」

そっと頭を撫でてシオから離れる。ソーマの神機が大きく口を開けて、シオの身体を食べた。

「ありがとう...みんな、大好き!」

そんなシオの最後の言葉と共にノヴァが月へ昇っていく。何も出来ないままそれを見つめていると、美しい光が降って来る。

「...行ってしまったな」

「ああ、親に似て本当に馬鹿な娘だった」

手のひらを差し出して光を掬う。こうして私たちの愛しい娘の力で、この星は終末捕喰という終わりを回避することが出来たのだった。

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