とあるドMは神を喰らう - deer

離れられないのはカブト虫くらいしかいない

「まだソーマと仲直りしてないの?」

検査を含めて三日ほど入院することになった私は、雨宮教官の叱責を受けながら始末書を書いたり、おかゆを作ったというアリサの持つ産業廃棄物をコウタの口に突っ込んだりして過ごしていた。

「どうして分かるんだ?」

見舞いに来てくれたサクヤさんに首を傾げると、どこか懐かしそうな顔で苦笑していた。

「ソーマがずっと悲しい顔をしてるから、かな。まるで出会ったばかりの頃みたい」

「...私が悪いんだ。ソーマの気持ちは嬉しいのにそれを全て蔑ろにして傷つけて、愛想を尽かされてしまったのかもしれない」

「そんなとこないと思うわよ。そうね、ソーマはとっても怖がりでしょ?エンがいなくなってしまうくらいならエンに嫌われればいいと思ってるんじゃないかしら」

「本当に、可愛いやつだな」

「ねえ、エンはソーマのこと好きなの?」

少しうつむいているサクヤさんに首を傾げる。どうしてそんなことを聞くのかと尋ねたが、物憂げな微笑みしか返ってこなかった。

「私がソーマを嫌いなわけがないと思うんだが」

「んー、それは少し違うかな。そうね、言い方が悪かったかしら。ソーマとキスはできる?」

「ああ」

「それはどうして?」

「魔法をかけてもらったからな」

「魔法?ソーマに?」

「随分可愛いだろう?だから私はソーマを好きになる魔法にかかっているんだ」

ちちんぷいぷい。ソーマにかけられた魔法が解けることはない。ただの女としてならば、私はソーマを愛しているのだ。だが、私が続けた言葉にサクヤさんが辛そうな顔になる。

「私は後三年で死んでしまう。そんなやつに好かれても困るだろう?だからソーマから、皆から離れるべきなんだと思うんだ」

「あなたは本当に...馬鹿ね、そんなわけないじゃない」

優しく抱き寄せてくれたサクヤさんの背中に腕を回す。こんな身体でなければ幸せにできたのだろうか。有りもしない未来を想ってみるが、その先を想像することはできなかった。

「ソーマには伝えたの?」

「いや、言ったら傷つくだろうからな」

「アリサはきっと怒るわ。コウタも悲しむし、私も嫌。エンが死んでしまうからって、離れようだなんて思わないで。私たちにとってあなたは大切な仲間で友だちなのよ」

「そうか、ありがとうサクヤさん」

遠くない内に死んでしまう私を留めるように腕に力を込めるサクヤさんに礼を言う。こうして想ってくれる仲間がいる幸せは、この選択が間違いではなかったと教えてくれるようだった。

ALICE+